45回目のお誕生日と『テクニカラー』
洞口依子さんインタビュー vol.4 (2010年3月18日)

2010年、3月18日のお誕生日にあわせて、洞口依子さんにインタビューさせていただくことができました。
映画『テクニカラー』が「桃まつり」で公開されたばかりとあって、質問はその作品に関連したものとなっています。
そして、『テクニカラー』では、これまで映画ではあまり見れなかった依子さんのコメディエンヌとしての魅力が満開であることから、
今まで伺ったことのなかったことも質問させていただきました。
メールによるやりとりですが、依子さんに出演作1本をこれだけ語っていただいたインタビューはあまりないと思います。

依子さん、お誕生日おめでとうございます! そして、ありがとうございました! 


まずはお誕生日おめでとうございます!今年のお誕生日は「桃まつり」という素敵なイベントと重なりましたね! 

Yoriko

ありがとうございます。 
45回目の誕生日に女性監督の桃まつり。 光栄であります!

(今回の「桃まつり」でも上映された)『テクニカラー』に出演された経緯はどういうものだったのでしょうか?

Yoriko


昨年、シネマヴェーラで開催された『洞口依子映画祭』のクロージングセレモニーに
『テクニカラー』の船曳監督と制作の横手さんがいらっしゃってました。
そのあと、打ち上げ会場へ移動する円山町のラブホ街を歩く中、次回作の作品について熱く語られました。
アタシは怒濤の洞口依子映画祭が幕を閉じたばかりなので、気分的に高揚していました。
そんな気分のアタシの横で、ラブホ街の怪し気な光に照らされて
船曳監督が次回作はこんな物語でこんなふうにやりたくて、洞口さんに出演していただけたらなあ、云々、、
語りっぱなし(笑)。すでに嘘っぽい風景でしょう?
円山町のラブホテル街を歩きながら出演交渉を受けたという、なんだか不思議な気分でした。
で、映画祭はどうでした?と伺うと、実は遅れて来たのであまり観ていないと。
なんて失礼なんだ!と怒り心頭でしたが(笑)、うちのチーフマネージャーが後押しをしまして
「新しい出会いになる予感がする」と。 新しい出会いって言葉にずきゅんときました。

『テクニカラー』の洞口依子さんは、近年類を見ないくらいにコメディエンヌに徹されています。
これまでもコミカルな役を演じられたことはありますが、ハルミのキャラクターでこれまでにないと思われたことがあるとしたら、どんな点ですか?
 

Yoriko


はて。なんだろう。
徹底した嘘っぽい浮遊感?
いや、それも嘘っぽい。
というかアタシはいつも新しい何かを表現したいと思ってますが
これまでにない点?
さあ。 意識してないです。 観たまんまでしょうか。
不安定な大人の女を演じることは今までもあったし。
そうですね、今回はいい感じに物悲しく老けてみえることでしょうか。
がんばってるんだかがんばってないんだか、わからない、「浮遊してる老い」とでも申しましょうか。


『テクニカラー』の脚本は1ヶ月ほどで書きあがったそうですが、最初に読まれたとき、どういう印象を持たれましたか?

Yoriko


読後、アタシはやはり自分がバカなんだと確信しました。
そのくらい、自分の感性で読んだだけでは想像できない、「なにか」がそこにはありました。 そしてそこに興味が湧きました。
ああ、これはもう現場で監督のいいなりになるのが一番だと。
そういう脚本が結構好きです。

マジックのシーンでの動き、セリフなどで依子さんのアイデアが活かされているところはあるのでしょうか?

Yoriko


あります。映画的引用遊びをはぐらかすようにやってのけました。
まあ引用って言っても個人の秘かな愉しみってぐらいなものですけど。
監督はそれを制止することなく、むしろ喜んでくださいました。
アドリブなどを受け入れてくださることは俳優にとって嬉しいことですから。 
シルクハットなんかあるといいねとか、いろいろみんなで作り上げたことも楽しかったです。
例えば、舞台袖で出待ちしている際、奇妙に顔の表情などを動かしてるのがありますが
あれはトム・ハンクス監督作品の『すべてをあなたに』という映画の中で
ロックバンドの主人公たちが
ある地方都市の公開録画番組に出るシーンに司会者が舞台袖でなにやら、早口言葉を言ったり表情筋をほぐす奇妙な行動があるのですが
それをちょっと真似てみました。 ダサイ司会者なんですけどね、なんかそのダサさがかなり印象的だった。
変な顔とか顔の表情を歪ませたかった。 クローズアップではない、2ショットのバストショットだったし、これはやってしまうには
もってこいのカットだと思いました。
隣の小野さんの表情にみんなが見とれているうちに横で、
変な顔してるアタシがいる。 そういう隙にふふふって、やってしまう。
幸い、監督からダメ出しもされなかったので、とぼけたふりしてやってしまいました。 子供がいたずらしたときの気分に似た快感でした。

あとは『フォルティタワーズ』ですね。 件のホテルのフロントのシーン。
ロケ地のホテルの受付で、「なんかここでまた別な作品を作れるね〜 『フォルティタワーズ』みたいなの!」と監督に言ったら
監督も『フォルティタワーズ』は観ていたそうで、びっくりしました。 発覚したのはロケ中でした。
通じやすいというか、ああ!観てたのね!という喜びが大きかった。
若いのにあれを観ていたという驚きもありました。
英国留学の経験でもあるのかなと。
聴けばお父様が英国滞在経験がある方で実家にはそういうモンティパイソンなどのビデオがたくさんあるとか。
実に羨ましい家庭環境です。
うちには山下奉文はあっても、モンティパイソンなどありませんでしたから(苦笑)。
そこで、アタシはジョン・クリーズのシリーウォークじゃないけど、リバース歩きをしてみたのです。
受付の前を通り過ぎたかと思ったら、戻ってホテルのフロントマネージャー役の吉岡さんの手を握る。
あのシーンです。 ってだから何?って感じですけど(苦笑)。

友人に奇妙な口癖がある女の子がいて、テンションをあげるときに
「ふぅ〜わふぅ〜わ!い〜ろこ〜い!(色恋)」とよく叫んでるんですが
いつもそれをやる友人を眺めて、ああ、いつかそれをどっかでやれたらと、虎視眈々その場面を狙っていましたが
それもこの映画でやっちゃいました。 
友人たちは一発で見抜いて爆笑してましたが「い〜ろ!こ〜い!まで言わなきゃダメじゃん」とか妙なダメ出しされました(苦笑)。
そのシーンを観るとわかるのですが男女が向かい合って奇妙な鳥の求愛ダンスみたいなのをやるのですが(服を脱ぎながらやるのですが)
それは『パルプフィクション』のユマ・サーマンとトラボルタの踊りからちょっと引用してひねりました。

まあ他にも色々やりました。
冒頭で手足を伸ばして通行人を交わすカットではゴダール映画のアンナ・カリーナのようになるべく大きくアクションしたつもりですが
これはうまくいきませんでした。 構図をわかってないからでしょうか。
失敗でした(笑)。
ハルミという女はいつも光を浴びていたい、という人物だと監督から説明を受け、
冷蔵庫を開けて冷蔵庫の光を浴びてうっとりするってのも監督の指示でやってみましたが
なかなかあれもうまくいってなかったような、、。どうでしたか?
冷蔵庫のあかりでさえも、独り占めして浴びていたいって、、どんな神経の持ち主なんだろうって
笑っちゃいましたけど。
今振り返ると、反省点はあるにせよ、現場でじわじわと正体を表すハルミ像に
とにかく演じてて楽しかったという印象が強い現場でした。

撮影はどういう雰囲気で進んだのでしょう? 
若い現場だったのではないかと思いますが、休憩中などに次のアイデアが活発に交わされたりしたのでしょうか?

Yoriko


現場はスムーズでした。
船曳監督という人はクレーバーな方でした。
ものすごいCPUを搭載しているのか
いつもカット割りをぐるぐる脳内CPUで確認しているようでした。
あ、今レインボーマークが廻ってる!とかね。 そんな監督やスタッフを観察するのが秘かな愉しみでした。
撮りたい絵が決まってるけれど、ロケ地では天候やいろいろな状況が変わります。
そこで人物が衣装をつけて動くとまた変わる場合もあるし。
だけど、それを監督はうまくすすめて行っていた気がします。
スタッフも個性溢れる面々で、テキパキやる人もいれば、えー!?みたいなテンポの人もいて
現場では本当に観察の愉しみがありました。
予算のかぎられた現場ではありましたが
あれこれ機材なども工夫してやっていました。
アタシはほとんど監督におまかせでした。
それが心地いい現場でした。
今までも映画美学校や芸大大学院の卒業制作などの作品に出演経験はありましたし
低予算のものはプロの現場でも経験はあります。 なので、低予算だからとかあまり気にしませんでした。
みんなが船曳監督の作品を作るというひとつの目標に一生懸命だったことが素敵でした。
出来上がって試写をしたのですが、スタッフも俳優もほとんどいらっしゃってました。
それがこの船曳組の良さ、監督の魅力のような気がしました。
若いという点では、体力がある方が羨ましいという年頃にアタシもさしかかってきました。
連日のロケや早朝から夜中までとなると、体力勝負だなあと実感します。
そういえば、監督の顔色が段々蒼白になてゆくのが心配でした。 お風邪をめされたようで、
それでも演出してましたから。 最後に栄養ドリンクを手渡して帰りました。
スタッフも大変だったと思います。
普段、打ち上げなどあまり行かないアタシが2次会までのら猫みたいにくっついて行ったくらいでした。

マキ役の小野ゆり子さんは、依子さんとは特に顔だちが似ているわけではないのに、なぜか親子という設定に無理を感じませんでした。 
依子さんから見た小野ゆり子さんは、どういう女優さんですか?

Yoriko


小野さんもクレーバーな方だという印象が強いです。
実際、現役大学生でした。試験を受けながら現場に通ってましたよ。
休憩時間なども無駄なおしゃべりなどぺらぺらしない。
育った環境がいいのかそれはわかりませんが、きっといいのでしょう。礼儀正しい方でした。
可憐でこの役にぴったりだと思いました。
鞄の中からにゅるっと出たり、顔をちょこんと出したり、フェンスにもたれてぼよんぼよんしたり、
踊ったり、最後の笑顔といい
マキという不思議な娘の役を見事に演じていましたよね。
最近、息子役や娘役に恵まれています。
『パンドラの匣』では染谷(将太)くんがこれまたクレーバーな俳優でした。
彼らはクレーバーなだけではなく
努力を惜しまないタイプ。
染谷くんも小野さんもただそこにぽつんと立っているだけで
なにか孕んでいるようなものがにじみ出てくる。
かと思えば、何色にも染まれる透明さも持っている。
小野さんを観察してて感じたのは
あのしなやかなカラダと可憐なまなざしは
別の意味で狂気を孕んでいると。
これからどんな大人になってどんな俳優になられてゆくのか
とても愉しみ。

これまで、ドラマの中でも「だらしない母親」という役はけっこうありましたよね。 
このハルミのように、依子さんの個性でニュアンスや想像力を刺激させることもできるのだから、どんどんいろんな役を演じてほしです。 
いま演じてみたいのはどんな役ですか?

Yoriko


ばあさんです。
はやくばあさんをやりたいです。
年齢不詳のばあさん。
最近、プールにほぼ毎日のように通ってますが
50メートルをすいすい泳ぐばあさんを眺めて
不思議な色気を感じます。
水中花のような。美しい藻草のような。
日本の女優は歳をとるタイミングを逸しがちだと思います。
なぜかいつまでも可愛くいてほしい、きれいであってほしい。
そういう観客の強い希望にものすごい努力で応える。
それは素晴らしい努力の賜物です。
しかし、アタシはどちらかというと
ヨーロッパなどの女優にみられる、いい歳のとり方。タイミングを実によくつかんで歳をとっている。
そんな老け方をしてゆきたい。
え?なんでまだ若く観られるのにばあさんなんて言うの?と驚かれるのですが
もう45歳です。
いつまでもドレミファ娘じゃいられません。
早くソラシドばあさんになりたいわけで、
とにかく、早くその領域に進みたい。
ばあさんの色気は深いです。
あ。オバさんじゃありませんよ。一気にばあさんです。ばあさん。ばあさん。
今はばあさん観察が趣味かも。しかも元気で年齢不詳のばあさんが世の中にはうじゃうじゃいるのです。
50メートルプールに派手な花柄水着を着てすいすい泳ぐばあさん。
すごくないですか。
しっとり紬の着物を着てワイン片手の白髪のばあさん。
しっかり元気ですよ。

(『テクニカラー』では、)オープニングなど、ハルミのメイクがかなりどぎつくて驚いてしまいます。 
正直に言って、依子さんの男性ファンの中にはショックを受ける人もいるかもしれませんね。

Yoriko


アタシはいつも人を驚かせたいのです。
ショック? どうぞ受けてください(笑)。

化粧することで虚像を作る。
それを多少意識はしましたが、
確かに、メイキャップに関してはもっと研究する時間が必要だったかもしれないです。
実際の色がカメラを通してどんな色に出るかがわからなかった。
みたまんまの色が映像に焼き付くと思ったら、そうは簡単にゆきません。
だから、映像をやっている歴代の先輩たちは画面に映るものには神経を注いでますよね。
これは避けたいという色、柄、美術、景色、徹底的に排除するか、或いはそれをも受け止められるロケ地やセットを探すか作るか。
緻密な監督は緻密に徹底的に表現します。

今回、アイシャドウの水色はいいとしても、口紅のピンクがなぜか思ったよりも青っぽく出てしまった。
本当はプラスチックのおもちゃのドピンクみたいなイメージだった。
アイメイクももっと下のつけまつげもつければよかった。
だけどあまり美しく見せたくなかったので、あれはあれでありかとも思うようにします(笑)。
まぁしかし、役なわけで。
派手な化粧をして物悲しさを漂わせたかったんですけどね。
でも役柄のメイクでそんなにショックを受けますかねぇ。。
もっと強靭な気がしますけど、アタシを支持するファンって。アタシより先行ってる気がします。
でもってすんごくマイノリティであるような気がします。
スウィートマイノリティ。 少なくともサイレントマジョリティではないでしょう。
それはちょっと誇らしい、ってやつです。
勝手な思い込みだけど、、。

洞口依子さんというと、「新人類の旗手」の一人としてのイメージを持つファンというのは多いと思います。 
どこかで、昔の「洞口依子」を求める声に戸惑ったりしませんか?

Yoriko


新人類? 覚えてる人がどんくらいいるのでしょうかわかりませんが
昔の自分を求める声に戸惑いは感じません。
しかし、過去は過去。
そして、アタシはアタシをやり続けるしかないわけで。
確かに過去があるから現在があるわけで。
そこで、いつまでも変わらないでいてほしいって思われても、それはどうかなと。

皆年齢を重ねます。
男は腹に脂肪をつくり、
女はシワシワになるんです。
あるがままなすがまま。
同じように歳を重ねてゆける
共感できる部分があると、愉快かもしれないですね。
あ。洞口依子も脂肪だ!とか、シワシワだ!とか(爆笑)!
でも、あ、元気なんだなって。
元気ってことは
肉体のみならず、精神からくるものですから。
そう、最良の微笑みを浮かべることが出来るかそうでないかということじゃないかしら。
それだけは失いたくないですね。
お互いに。

依子さんはよく、成熟や成長を自分にも他人にも社会にも望むようなコメントをされますが、
それはだいたい何才くらいから考えだしたことですか? その転機があったのでしょうか、それとも若い頃からそういう考えだったのでしょうか。

Yoriko


小さい頃からあったにはあったと思いますが
言動のボキャブラリーが少ないせいか
発揮できないで未だにいます(苦笑)。

ただ、病気はデカかった。
あの時、数年、悶々として過ごした悶々時間は
アタシの中にある何かを目覚めさせたかもしれない。
混沌としたカオスのぐるぐるの中にいましたから。
まぁそれはそれで
アタシのデカダンス として
あるがままにしておくことにしました。
そのうちもう少ししたら
貝殻付きの額装にでもいれましょうか。
もう少し生卵とかで補修して
乾いてからでも、、。

不思議なもので
卵巣や子宮を摘出しても
女として性を受けてきたからには
女であることに変わらず生きています。
しかし、なぜか奇妙な浮遊感は否めません。
そこに浮遊出来ることは
滅多にないことだと思い
そこから眺める風景や想いを
いつかまた何かに表現出来るといいなと思ってます。
それがアタシにしか出来ない「何か」のような気がしてならないからです。

これからもあたたかいまなざしで
多いに笑い、多いに叱咤激励しつつ
応援してください。

いつもありがとうございます。 

☆『テクニカラー』船曳真珠監督が作品と洞口依子さんを語るインタビューはこちらです!


2007年のインタビュー→ 

2008年のインタビュー→ 

2009年のインタビュー

2011年のインタビュー 

2014年のインタビュー 

依子さんも途中参加の「原口智生監督インタビュー 

熱くヨーリーを語る「當間早志監督インタビュー 

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