「石鹸の名前は、『ごめんねダーリン』」
原口智生監督インタビュー(『ミカドロイド』 『ウクレレ・ランデヴー』PV)
(2008年8月3日 原口監督のオフィスにて)


洞口依子さんの主演作『ミカドロイド』(1991年)の原口智生監督は、
日本の特殊メイク、特殊造形の第一人者。
パイティティの「ウクレレ・ランデヴー」PVも監督され、
8月1日のパイティティのライヴ(「真夏の夜の夢スペシャル」)では、舞台演出も担当されました。

「ウクレレ・ランデヴー」PV制作の流れで初めてお会いしたとき、
「洞口っちゃんのファンだけあって、変態だね!」とお褒めいただいたり、
ご一緒させていただいた那覇でも興味深いお話をうかがえたり、
いつも気さくにいろいろなお話をお聞かせいただいているので、
ぜひこのサイトでより多くの洞口依子ファンに!と思ってインタビューさせていただきました。

洞口依子さんのインタビュー を終えたあと、監督のオフィスを訪問。
『ミカドロイド』の宣材各種や、絵コンテ、シノプシスにセットの見取り図、
それに今では貴重なスチール写真などをまとめて見せてくださるおもてなし。

インタビュー後半には、お隣りにいた洞口依子さんも加わっての鼎談のような形になり、
楽しいおしゃべりとなりました。

原口監督、そして本田さん、お忙しいなか、本当にありがとうございました。


洞口依子さんとの出会いについて、教えていただけますか。

原口監督
「『ドレミファ娘の血は騒ぐ』を観て、ステキな女優さんだなと思ってたんです。
『ミカドロイド』は、もともとべつの作品として準備していたホラー映画企画があって、
それが諸事情で立ち消えになりまして、ホラーではなくロボットものとして生まれ変わったんです。
内容はあまり変わってないんですが、男の役者さんで考えていた役を、女性に変えたんです。
そのとき、『ドレミファ娘』での洞口さんを思い出して、この役を演じてもらいたいなと思ったのがいきさつです」

洞口依子さんのどういったところがこの役にふさわしいと思われましたか?

原口監督
「バブル期のOLがおそろしい事件に巻き込まれて闘って、最後は戦いに勝って凛としている、
という変化がほしかったんです。
それを考えたときに、洞口依子さんが思い浮かんだんです」

彼女の役は大半が逃げる設定でしたが、その逃げる姿と『ドレミファ娘』の洞口さんのイメージは重なりましたか?

原口監督
「映画がべつのものですからね(笑) 
とくに『ドレミファ娘』の洞口さんにインスパイアされたということはないです。
単純に、きれいでいい女優さんであることと、最後に凛とした姿で立っていること、ですね」

洞口さんのおびえている表情が印象に残る映画です。

原口監督
「昔の映画でいう『絶叫クイーン』の役ですね。 
最初アンニュイなOLとして登場した女の子が、泣き叫んで、髪を振り乱して、
最後は毅然として爽やかでさえある、というイメージがほしかった」

実際にお会いした最初の印象はどうだったんですか?
ご本人がお隣りにいらっしゃると、言いにくいかもしれませんが…

原口監督
「まず、お会いする前に、『洞口依子さんをキャスティングしたい』と動き出したとき、
周囲から2つのアドバイスがあったんですよ。
ひとつは『けっこうややこしい人だから、たいへんだぞ』、
もうひとつは、『特撮のアクション映画に出るわけないだろ』」

(インタビュアー、爆笑。依子さんは横で『ミカドロイド』の資料ファイルを読んでいる)

原口監督
「ぼくはまだお会いしたことなかったし、『そうなの?』って。 
でも、ぼくが個人的に黒沢さん(黒沢清監督。『ミカドロイド』にも出演)を知っていたりして、
どうしてもイメージが洞口依子さんしかいなかったんで、ダメモトで進めたんです。 
そうしたら、どういう経緯かはわからないけど、オッケーだった。 
それで、初顔合わせを名曲喫茶の地下でおこなったんです。 
おおまかな内容と、衣裳やメークについて打ち合わせをして…それが本当に初めてお会いした日ですね」

そこで実際に会われて、印象はどうでしたか?

原口監督
「ステキな人だと思いましたよ。 
とくにぼくは初めて監督する作品だったし、こんな感じにしたいんですけど、という話をして。 
そのとき洞口さんから質問というのはなかったように思うんですが
…クランクインまで間がなかったこともあって、すぐ衣裳合わせに移ったと思いますよ

少し前にDVD化されるというので、ほんとに久しぶりに観たのね。
そしたら、もっとこうしたほうがよかったなぁと思ったり、恥ずかしい気持ちはあったんだけど、
でも自分にとっては大事な作品ですよね。初めての監督作品だし」

とても寒い時期の撮影だったそうですが。

原口監督
「寒いのと、低予算だったのと、日数もあまりかけられなかったし、
横浜の商業施設の駐車場を深夜借りての現場だったんで、昼夜逆転してたし。
とにかく洞口さんの役は全力で逃げ回るので、靴はハイヒール以外にも低めのを用意してたんだけど、
彼女は『ハイヒールで走る』って言って、転んで捻挫しちゃったんですよ。 
そのとき、彼女が『自分で選んでおきながらケガしちゃってすみません』って謝ったんですよ。 
ふつうなら現場がたいへんなことになるのに。 
それ聞いて、『性格いいじゃん!』って思いました(笑)」

(笑)捻挫したにもかかわらず。

原口監督
「『私が悪いんです』って。 すごくちゃんとしてる人だなぁと思いましたよ。 
どこもややこしくない。 映像の現場でちゃんと仕事をしている女優さん、という印象に変わりました」

彼女がジンラ號に反撃するクライマックスですが、そのときの彼女の表情に、
とてもセクシュアルなニュアンスを感じます。

原口監督
「ハイスピードで撮影しているところでしょ? 
あれは絶対そういう絵にすると決めていたんですよ。 
カメラを5〜6倍の高速でまわしてるんですよ。 
女優さんの顔のアップで、風とスモークが流れていくところを、ふつう、5倍〜6倍で撮らないんですよ(笑) 
でもそれは最初から撮りたかった絵なんです。」

その部分のできあがりには、満足されましたか。

原口監督
「バッチリだと思いました。 予算の都合もあってほとんどカメラ1台で撮ったんですよ。 
しかも撮影中のモニタリングもできなかったんですが、仕上がりを見て、思い通りの絵が撮れた!と思いました。 
洞口さんの表情も素晴らしかった。 あのカットはあの作品の命だよね」

ぼくも大好きなんです。 
で、この作品のあとは、「ウクレレ・ランデヴー」まで間が空くのですか。

原口監督
「まぁ、プライベートでほんの数回お会いすることはありましたけど、去年、行きつけのバーで声をかけられて。
そのときに『ウクレレやってんのよ』って。 ハワイアンかと思ったら、『ハワイアンとはちがうんです』って言われました。 
それで、秋のライヴ(2007年11月16日の「Paititi Goes To Pop Planet」)を観に行ったら、たしかにハワイアンとはちがう。 
あぁ、女優さんだけじゃなくてステキなことやってるんだなって思って、そのときはそれで帰ったんだっけ。
今年の4月に、洞口さんからお手紙が来たんですよ」

パイティティがロンドンに行く前ですね。

原口監督
「『PVを作りたいんだけど、相談に乗ってもらえませんか』って内容で、それで会ったんですよ。 
石田(画伯)さんにもそのとき初めてお会いして。
洞口さんからのお手紙に、絵が描いてあったんですよ。 
美女が、長い足つきバスタブの泡風呂に入っている絵で。
そんな絵が撮りたいってことなので、『じゃ、そのバスタブが宇宙空間に浮いてる絵にしたら?』とか、
アイデアをいろいろ出したんですよ。
そしたら、『じゃ、やる?』って言われたのかな?」

洞口依子さん「おそるおそる、ですよ。『やってくれたり、する・・・かなぁ?』って。 そしたら、
『いいよ!』『えぇ〜!やってくれるんだ!』」

(笑)意外と軽いノリで引き受けられたんですね。

原口監督
「うん。作りたいっていう意志がはっきり伝わってきたし、まぁお酒も入ってたしね。 
他にもいろんなプランがその場で出たりしてね」

洞口依子さん「すっかりパイティティPVの監督になってしまわれて」

原口監督
「じつは、PVの監督をするのもこれが初めてなんですよ。 
そうこうするうちに、JZ Bratの(『真夏の夜の夢スペシャル』)演出もお願いされて。 
ライヴの演出も初めてだったんですけど、洞口さんの手紙に書いてあったんですよ、
『やってくれたら、鬼に金棒、チョコ棒』って」

洞口依子さん「そんなこと書いてたの?」

原口監督
「うん(笑)」

洞口依子さん「ワケわかんない!(爆笑)」

(笑)・・・可愛いですね。

原口監督
「で、ただお風呂に入ってるだけじゃなくて、美女と泡と月、ってことだから、
じゃあいっそのこと、宇宙空間に浮いてるみたいなイメージ、どう?って。
で、ぼくは特撮の人だから。 浴槽消しちゃえ!って。
で、『ウルトラマンメビウス』のスタッフが手を貸してくれたんですよ」

洞口依子さん「ぜいたくな話だよねぇ」

あのPV撮影はどんな雰囲気だったんですか?

原口監督
「もちろんプロの仕事だから、やることはやり、でもギスギスせずに和やかに。 あのスタッフのおかげですよ。
あの泡は、ぼくが一番泡が出ると薦められた石鹸を買い込んだんですよ。
石鹸の名前は、『ごめんねダーリン』」

ごめんねダーリン(爆笑)

原口監督
「それを自分ちでテストしたんだよね。 ひとりで泡風呂に入って」

試されたんですか!ごめんねダーリンを(笑)

原口監督
「本番で泡が足りなかったら大失敗だからさ。
で、(ロンドンから帰ったばかりの)洞口さんも、疲れてるなって思ったんだけど、
あの浴槽のセットを見たとたんに急に顔が明るくなってね」

洞口依子さん「やっぱりね、セットがね、ステキだと気分が盛り上がるんですよ。
それも完璧な湯の温度と泡の量でね。 泡のストレスはまったくなかったですね」

原口監督
「ぼくは泡に専念してました。 本田君という心強い監督がいてくれたんで。」

あの「見えそうで見えない」感じは、イイですよねっ。

洞口依子さん「それはもう、泡名人のおかげですよ。泡監督です。
『おれ、今日は泡に命賭けてるからさ』って(笑)」

原口監督
「でも、色っぽいカットになると、特撮チームの男性スタッフは、恥ずかしがり屋なんですよ(笑)
『目のやり場に困ります』って。 でも、洞口さんは楽しそうに動いてるの」


洞口依子さん「あとから聞いたら、みんな生身の女体に動揺してたって(笑) 着ぐるみじゃないぜ、って」

原口監督
「だって、ウルトラマンのCGチームが、シャボン玉を飛ばしてんだもん」

依子さんと一緒にバスタブに入ってた人形は・・・

原口監督
「うさちゃん? ぼくの枕もとに30年置いてある大事な人形」

洞口依子さん「すごいんだもん。 カメラマンに『うさ、撮れてる?』とかさ(笑)」

原口監督
「『ウルトラマンメビウス』のメインカメラマンだよ」


(笑)うさちゃんを!

洞口依子さん「それで、うさが映ってるカットになると、監督がベニヤ板を全身で扇いで泡を飛ばしはじめて!
『うさがいると一生懸命!』って思ってたらさ、ベニヤ板があたしの足にガ〜ンって激突して(笑)」

原口監督
「足にヒットしたね(笑)」

洞口依子さん「ごめん〜!だって(笑)」

原口監督
「うさのために女優の足ヒット(笑)」

(爆笑)でも、あのPVいいですよね。 最初の、細かく細かくセクシー・ショットが続いて・・・

原口監督
「エロが入ってるとこね。 サブリミナル効果ですよ」

で、「真夏の夜の夢スペシャル」ではステージであのPVを再現されてました。

原口監督
「ステージで演奏者を引き立たせようと思ってね。 タラップ作ったから、バスタブも作っちゃえ!って」

あれはよかったですよ。 依子さんが登場して、パッと脱ぐと、泡のセパレートでね!

原口監督
「おいおい、思い出して萌えてるよ、この人(笑) 脳に焼き付いちゃった?」

はい。 残像権はぼくのものですからね。

洞口依子さん「残像権!(笑)」

原口監督
「そんな権利あんの?(笑) まぁ、うれしいですよ。 
あなたみたいな人に喜んでもらいたかったので(笑)」


(原口監督が、依子さんのアイデアを基にした「ウクレレ・ランデヴー」のイメージ。
洞口日和へご寄贈いただきました。)




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