「初めて会ったときの印象は、怖かった」
當間早志監督(『パイナップル・ツアーズ』『マクガフィン』)インタビュー (2008年8月3日 原口智生監督のオフィスにて)


『パイナップル・ツアーズ』の第3話「爆弾小僧」と『探偵事務所5 マクガフィン』という、
洞口依子さんと沖縄とのつながりを象徴するような2本の映画を監督された當間早志さん。

私は那覇で監督のお家に泊めていただいただけでなく、
監督を運転手に『マクガフィン』のロケ地めぐりなどという贅沢なオプション(?)まで
楽しませていただいたことがあります(その記事は
こちら)。
じつはその2泊させていただいた夜、正確には朝まで、
私は監督とかなり熱く「洞口依子を語る」時間を持つことができまして、
これまた洞口依子さんに近いかたでなければわからないお話やご意見をうかがえました。

今回、原口智生監督のオフィスで當間監督にもお会いできるとあって、
ぜひ熱い「當間節」をみなさんにもお届けしたいと臨んだのがこのインタビューです。
読んでいただければおわかりかと思いますが、とても熱くおもしろい内容です。



當間監督
「すごいねぇ!」

なにがですか?

當間監督
「だれに頼まれているわけでも仕事でもないのに」

(笑)いやいや、ラッキーですよ。
こんな、朝から3人のかた(洞口依子さん、原口智生監督、そして當間早志監督)にインタビューさせていただけるなんて。

當間監督
「(笑)そっかぁ」

當間監督と洞口依子さんとの最初の出会いというのは『パイナップル・ツアーズ』ということなんですが、
ぼくが今回お訊きしたいのは、それ以前に、洞口依子さんのことはどうご存じだったんでしょうか?

當間監督
「最初の『ドレミファ娘』は観ましたし、伊丹映画でもあやしげな女性の役をよく演じていて
・・・『マルサの女2』の愛人役とか。
『タンポポ』では牡蠣の海女さん役だよね。 
それから篠山紀信さんの撮られた『GORO』の写真だとか。 
ぼくの世代が見てきた洞口依子と同じ感覚で見てたっていうか。
ちょっと妖艶で小悪魔的な感じ。

でも、自分の映画に出てもらうとか、のちのち一緒にお仕事するとは微塵も思ってなくて(笑)

『パイナップル・ツアーズ』で洞口さんが演じている杉本という役は、
もともとは男性の外国人だったんですが、調整がつかなかったんです。 
そうしていると、プロデューサーが『洞口依子さんはどう?』って提案されて。
『えぇっ?あの洞口依子?』(笑) どうせ無理だろう、と(笑) 断られると思いました。 
なんにも期待してなかった。 

ところがこれが引き受けていただけるということになったんで、これは脚本を書き直さねば!となって。
それまでは、自主制作ではたくさん作ってきたけれど、そんな有名な女優さんと仕事をしたことなんかなかったし。
第1号ですよね。 
だから、もう、『粗相のないように』(笑)という感じですよ。
誰もが思うことでしょうが」

ふつう考えると、そうですよね。

當間監督
「ぼくがもうちょっとプロとして仕事をこなしてきている立場だったら、
『洞口依子さんで撮りたい』なんてことも言えるんだろうけど、それ以前の問題だったから。 
だから彼女のお名前が出ても、『どうせ断られる』と思って開き直っている状態のまま
脚本も書き直さずに放ったらかしで。
出演してもらえると聞いて初めて、ちゃんとしないと!と、そういう気持ちでしたね」

じゃあ、そんな有名な女優さんがくるということで、現場がひきしまったりしたんですか? 緊張感などは。

當間監督
「緊張しましたよ! 最初の出会いがね、たしか当時の洞口さんの事務所だったかな? 
ドアを開けたらそこに彼女が座っていて。 
後光がさしているような感じで、真っ白く紗もかかってたりして(笑) 
今まで映画でしか知らなかった女優さんが目の前にいるってことでこっちも舞い上がってね。 
ありきたりの挨拶をしました」

わかります。 そうなっちゃいますよね。

當間監督
「で、衣裳合わせになって、用意した衣裳を見せたら、
洞口さんが『こんなの着れなぁい!』って言ったんですよ。 
これで、『うわぁっ、女優だ!こわぁい!』と思った(笑) 」

ビビってしまったんですね(笑)

當間監督
「ビビりました。 そこからもう、怖い人というイメージ。 
ぼくだけじゃなくて、一緒に行ったスタッフもビビってた。 

それでロケが伊是名島っていうところで行われたんですけど、
利重剛さんはじめ、役者のかたもスタッフと一緒に空家に住むということになってたんです。 
でも、洞口さんだけはちゃんと旅館を用意して、食事もスタッフとは別のものを作ったんですよ。 
控え室も、みんな公民館を利用したんですけど、ここにも洞口部屋という部屋をあえて作りました。 
ビビったもんだからね(笑) 
ところが、いざ彼女が現場に入ると、けっこう早い段階で
『(洞口部屋なんか)いらない』『みんなと同じものを食べたい』って言ってきて。 
はじめの印象とちがうな?と思ったね」

その話は洞口さんにされたことはあるんですか?

當間監督
「何度かしたと思うよ。最初の印象は怖かったよ、って(笑)
脚本の読み合わせの時にも、いっぱいキビシイ質問をしてくるわけ。 
そのたびに、自分に『負けないぞ!負けないぞ!』って言い聞かせてね(笑)」

(そこへ洞口依子さんが登場。 さすがに、どう話を続けるべきか考えてしまいました)

洞口依子さん「いつの話?」

當間監督「『パイナップル・ツアーズ』。」

洞口依子さん「うふふ(と手近な椅子に腰かける)」

で、そこでだんだん洞口さんを見る目が変わってきた、と。

當間監督
「うん。 彼女から『スタッフといっしょに食べたい』とか、
ぼくとコミュニケーションをとりたかったのか、夜呼び出されたら、カラオケを歌ってて(笑) 
『いっしょにうたおうぜ〜!』って」

(爆笑)なんの曲だったんですか?

當間監督
「もうおぼえてないけど、はじけるような曲だったよ!『学園天国』とかさ」

洞口依子さん
「(笑)そんなこともありましたねぇ」

當間監督
「うん。 だって、おれ、怒られるのかと思ったよ、呼び出されて! 
そしたら『いっしょにうたおぜ!』(笑)」

そこだけでも映画になりそうですねぇ

當間監督
「さらに印象が変わったのが、『パイナップル・ツアーズ』のラストで、
彼女が桟橋から海に落ちるシーン。 
さすがに女優にやらせるわけにはいかないと思って、代役を用意したんですよ。 
そしたら、それも『いらない』って。 
で、じっさいに海に飛びこんだと思ったら、そのあと嬉しそうに海で泳いでるの(笑) 
あとから聞いた話だと、せっかく沖縄に来て、海に飛び込むチャンスだと思ったって(笑) 

編集を東京でやったときも、ちょくちょく見に来るんですよ」

え?編集に女優さんが立ち会うものなんですか?

當間監督
「いや、 ぼくの経験では、来ないと思うよ。 カメラマンが来たりはするけど」

その撮影の段階では、洞口依子さんがとくに沖縄が好き!という印象は受けませんでしたか。

當間監督
「う〜ん、それはどうかわからないけど。」

いつ頃から洞口さんが沖縄とのつながりを深めていくように見えましたか?

當間監督
「(考えて)『パイナップル・ツアーズ』のあと、プライベートで沖縄に来たのって・・・」

洞口依子さん
「ないよ。ほとんどない。95年くらいでしょ」

當間監督
「『パイナップル・ツアーズ』が92年だから、その後3年間くらいは
・・・東京で上映するときにパーティ会場で会ったり。 
プライベートで会ったのはそのくらいかな。 だから、やっぱり95年だね。 
その後2年くらいして(洞口依子さんが)結婚されて」

結婚されたときは、どう思われました?

當間監督
「『もしかして、あの人と?』と思ったら、やっぱり。 で、結婚式に招待されて」

洞口依子
「カメラまわしてくれたよね」

當間監督
「あ、そうそう。 結婚式で」

洞口依子
「私の結婚式のカメラは彼なんです。ほとんど無編集で」

當間監督
「そこからしょっちゅう沖縄に来るようになったね」

95年ごろからの沖縄での洞口さんの感じというのは、変わりましたか?

當間監督
「あまり変わってない。 仕事の話はほとんどしない。 
ぼくの方から、彼女が関わったいろんな監督の演出法や撮影現場の雰囲気とかを質問するべきなんだろうけどね。 
ほとんどしない」

それは、質問したかった部分もあるんですか?

當間監督
「訊きたかったというのは、あるよ。 あるけど、そういう感じにならなかったんだよね。 
そんな話題にはならず、バカ話とか、音楽の話とか。 
仕事にいちばん近い話といえば、『あの映画おもしろかったよね』ぐらいのレベルだね(爆笑)」

(笑)それが仕事にいちばん近い会話ですか。
逆に言うと、そういう日常レベルのつながりだったからこそ、『マクガフィン』のような重要な作品を撮れることになったんじゃないでしょうか。

當間監督
「ほんとはアーティストどうしの距離感というのも、それはそれでおもしろいんだろうけどね」

そうでしょうね。それがクリエイティヴな原動力になったりもするんでしょうけど、それとはべつで、プライベートでのバカ話仲間だからこそできることもあるんでしょうね。

當間監督
「『マクガフィン』の場合はそうだよね。 あれは、脚本の段階から彼女が関わってるし、撮影に入ってもコーヒーいれたり、運転手もやったり」

運転手の運転手ですね。

當間監督
「そう!(笑) 運転手が沖縄の人なのに。 洞口さんのほうが道くわしくて。 もともと、地理に強い人だから」

洞口依子さん
「そう。GPS搭載なの。うふふ」

『マクガフィン』で妊婦の役を洞口さんにお願いしたときの洞口さんの反応というのは、どういうものだったんですか?

當間監督
「彼女に妊婦役の依頼の電話をしたときの印象では、あっさりと引き受けてくれたように思ったけど、
完成後しばらく経ってから彼女が言うには、一瞬ぼくのことを『ひどいやつ!』って思ったらしいね(笑)。
こっちも言うまでにためらいはありましたよ。 人に相談したりもしたし。
でも、隠したってしょうがないし、だまそうとか思ってるわけでもなかったから」

それにプライベートで親しかったことへの信頼感が大きいでしょうね。

當間監督
「うん。信頼してくれたとは思う」

とてもハードな撮影だったと聞いてますが、洞口さんのようすを見ていて、どうでしたか?

當間監督
「まだ手術の後遺症が大きく残っている状態だったから、ハードそうだった。 
でも、彼女にはプロの女優としてのプライドがあるはずだし、元々気遣い性なんだよね。
だから、ぼくの方から気を遣うのはよくないと思って、あえて気づかないふりをしてた」

気の遣い合いになっちゃうのも、よくないですもんね。

當間監督
「でも、撮影が進むにつれて、顔色もどんどんよくなっていった」

最後の海に浮かぶシーンでは、どうでしたか?

當間監督
「日も傾きかけていたし、海に入るシーンだから、撮り直しはしないつもりでいた。だから何度も砂浜でテストした。
そしたら、テイク1でお腹に仕込んでいる詰め物が浮いてタイミングが練習どおりにいかなかった。
それであわててメイクしなおしたり、髪を乾かしたりして」

12月でしょう?

當間監督
「うん。 でも、12月の沖縄の気候は小春日和のようにものすごく暖かい日になる時があるわけ。
この日はまさにそれだった。 ほんとに偶然。 映画の神様がおりてきたんだと思う。
そのときは、彼女の表情に安心感とか達成感がほしかったんだけど、
ぼくはカメラを回しながら海に浮かんでる彼女に向かって、『いいね〜いいね〜その表情〜!』とか、
グラビア撮影みたいに(笑)ずっと声をかけてた。
あのシーンの裏では、じつはぼくのそういう声が(笑)」

そうなんですか! これはバラさないほうがいいのかなぁ。

當間監督
「(爆笑)で、すごくいい表情をしてくれて。 みんないい表情っていうね、あのシーンは」

いい表情ですよねぇ。

當間監督
「彼女も浮かぶのは好きだし。 で、あとから見ると、ロング・ショットには太陽が2つあるように見えるんだよね。
あれも神様がおりてきたんじゃないかと思う」

あの映画からは、『子宮会議』が生まれ、パイティティの活動にもつがりました。
監督はこの3つに深く関わられているわけですが、
監督から見た洞口依子さんの本当の姿は、この3つのどれがいちばん近いと思われますか?

當間監督
「すべてだと思うよ。 女優という枠を飛び越えてるというか。 
彼女の器が、女優だけではおさまらないというか。
舞台女優の場合は、稽古でどれだけ演出をつけられても、本番で自分の舞台にすることができるでしょう。
その意味では映画女優は、編集次第でニュアンスが変わったりする。
でも彼女はそこだけにおさまらなくて、自分の表現したいものを持ってる。
それで、ものすごい勉強家だし、いろんな分野のことを吸収している」

ぼくは、彼女はインプットがとても多いけど、アウトプットはぜんぶ「洞口依子」として出ているように思うんですね。

當間監督
「うんそうだと思う。 それがなにかは言葉では言い表せないんだけど、
・・・光線だしてるよね。 いろんな光線を。
だから、求心力もあって、人を惹きつける力がすごいよね。
パイティティで凄腕のミュージシャンが入って演奏するところにも、その求心力があるのかなと思う。
そのきっかけは彼女じゃないにしても、彼女の影響力は大きいと思う。
素晴らしいミュージシャンたちに囲まれた彼女の堂々としたライヴ・パフォーマンスを見ていると、
だんだんと自信に満ち溢れてきているのが分かるよね。

病気して、100%ふっきれたかどうかは彼女にしかわからないけど、
かなりいいところまで行ってると思うね。
ぼくが、早くそうなってほしいと期待してたからね。
でも、まだ足りないと思ってるはずだよ。 それは大事だしね」


いつも活動で満ち足りたところは、ひょっとしたらないのかもしれないんだけど、
でもそこが魅力のひとつでもあるんですよね。

當間監督
「それがまた、継続につながっていく。 影響を受けますよ、ぼくたちも。
頼りになるぜ、姉貴!って感じだね」



原口監督へのインタビューといい、洞口依子さんへのインタビューといい、
そしてこの當間監督へのインタビューといい、こんな素晴らしいご協力をいただけることは、
立ち上げ1年半でしかないサイトとして、身に余るご厚遇です。

これはもちろん、私への信頼ではなく、洞口依子さんが愛されているということです。
依子さんのためなら、シロウトのインタビューにだって答える、
それだけ彼女の人間的な魅力が大きいのだと、こうしてインタビューをまとめながら思います。

なお、當間監督は、原口監督の後ろに順番待ちをされていて、
原口監督がインタビューを終えるや、當間監督が交替してインタビューは始まりました。

なんということを自分はしているのだろう、と私は思いましたし、
だからこそ、こういうかたたちのご協力を無にしないためにも、
これから洞口日和を頑張っていかねばならない、と思っています。

原口智生監督、
當間早志監督、
洞口依子さん、
パイティティのみなさん、
関係者のみなさん、

ありがとうございました。

 



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