洞口依子さん@神戸元町映画館
 (トーク・イベント 2018年4月21日)

洞口依子さんが主演映画『君の笑顔に会いたくて』の舞台挨拶&トーク&サインイベントのために神戸を訪れるにあたって、京都在住の私がお手伝いすることになりました。
場所は元町商店街の中にある元町映画館。66席のミニシアターです。私が先にご挨拶にうかがった日には「タルコフスキー特集」が組まれており、イベントの前日には『牯嶺街少年殺人事件』がかかっていました。

「タルコフスキー特集」の際は私も30年ぶりに『ノスタルジア』を見て帰りました。老若男女、地元の人たちと一緒にあの映画と向き合って、一緒に睡魔と闘って(そうさせる作品なんですよ!)、一緒にクライマックスでスクリーンを凝視し、一緒にラストの引きの絵で感銘を受けました。それで、あぁこの映画館は映画を体験させてくれる劇場なんだと嬉しくなりました。

『君の笑顔に会いたくて』は洞口さんにとって長編映画では久しぶりの主演作になります。どのくらい久しぶりかというと、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』以来。私はいつも洞口さんを目当てに出演作を観に行くのでピンとこないのだけど、じつに、33年前のデビュー作以来です。
そうなると、ただでさえ洞口さんに焦点を当てて見ているものですから、ほぼ出ずっぱりの今作では思い入れのブレーキが利かなくなります。

ここでの洞口さんは保護司の役を演じています。罪を犯した未成年者の更生に力を貸すボランティア。

洞口依子さんというと犯人や悪女、あるいは人間関係を破滅させるような役柄が多く、どちらかというと更生しなければならない人を演じるイメージがありました。洞口さんの出演作では『ディア・フレンド』(1999年)というドラマが”保護司”のキーワードには一番近い作品なのだけど、そこで彼女が演じていたのは保護観察中の息子を持て余すダメな母親でした。
そんな役柄が多かった洞口依子さんが、デビュー作以来の主演映画で、こんなふうに迷える子供たちを助けるために奔走している。そのことに驚いたし、そのことだけで胸がいっぱいになってしまいます。

また、彼女の演技が今までに見たことがないくらい、大きく笑い、大きく泣きます。不良少年たちの乱闘にも、なりふり構わずに突進してゆき、入水自殺しようとする子供を追って自らも海に入り、必死にすがりつくように止める。

ファン目線すぎる、と笑われるかもしれないけれど、それらのひとつひとつに、洞口さんが過去に演じたさまざまな役柄が反転して映って。さらに、物語を締める言葉が洞口さんの著書『子宮会議』を連想させるものだから、誰かを守るために入ったこの海と、命を産みおとした『マクガフィン』の時の海は繋がっているんだよなぁとか、作品から離れたところで感慨にふけったりします。

海はまた、神戸の街にも優しい浜風を運んできます。イベント当日は真夏日にも近い晴天でしたが、この街には緩い爽風が吹いていました。
14時30分からの上映が16時15分に終わり、すぐに舞台挨拶です。洞口さんは午前中にラジオ関西の『谷五郎の笑って暮らそう』にも出演されて、そこでも映画コーナーを仕切られていた元町映画館の宮本さんが「写真撮影は問題ありませんが、『ネットにあげるなら綺麗に撮ってくださいね』との洞口さんからのお願いです」と告げると、場内が笑いに包まれます。

この日、ドラマも含めた洞口依子さんのフィルモグラフィーから10本を選んだ「ヨーリー・ザ・ベスト!」なるチラシを私が作成し、配布していただいたのですが、それが席のあちこちに見えるのを確認していると、洞口さんの挨拶が始まりました。(「ヨーリー・ザ・ベスト!」はここここで閲覧できます)

「神戸は初めて来ました。この作品での舞台挨拶もこれが最初の機会です」
そうなんです。京都や大阪へは何度も撮影で訪れている洞口さんも、これまでに神戸に来たことがなかったんですね。これまたイメージの話になりますが、港町が似合いますし、とくに”よそから港町へ流れて来た女”なんかピッタリだと思えるので、意外でした。
「今回の役づくりなどで苦労されたことは?」に対してそれは後でゆっくりお話しますから、トークに参加してください!」と誘うのが、洞口さんらしい。

ほっこりと暖まったところで、映画館の外に出て、『子宮会議』のサイン会。デビュー時からのファンとおぼしき方も来られていて、言葉を交わしながらサインを待っています。

そして、劇場の2階にあるスペースで開かれたのがトーク・イベント。こちらには、不肖私も前に出まして、洞口さんのお話のお相手をつとめさせていただきました。たいへん緊張しますし、分不相応なのは重々承知しているのですが、ファンの方々と洞口依子さんとの間に少しでも会話の場を用意できれば、とお引き受けしました。

「今回はじめて洞口依子さんの実物に会えたというかたは?」と挙手をお願いすると、ほぼ全員。たしかに『子宮会議』のリーディング・セッションやパイティティでのライヴ活動より前は、ほとんどそういう機会がなかったし、こうして地方に住むファンとなると尚更です。

そんなこともあって、トークが始まってすぐは心なし緊張した感もあったのが、そこはやっぱり、みなさん関西人。自ら面白おかしい空気を作って会話を弾ませるツボを得ていらっしゃる。中には、洞口さんが『週刊文春』に連載している映画の寸評にチェレンジし、『君の笑顔に会いたくて』の感想を、お弁当の具材になぞらえてユーモアたっぷりに披露するかたもいらして、まるで大喜利さながら。「類は友を呼ぶ」じゃないですけど、ユニークな女優さんにはユニークなファンの人がいるものだと妙な感心をしたりしました。

『君の笑顔に会いたくて』の舞台とおなじく、神戸もまた震災に見舞われた街です。洞口さんは『あした』(1995年)撮影の際に新幹線が不通となった思い出を語りました。
『君の笑顔に会いたくて』のクライマックスとなる名取市の閖上(ゆりあげ)の海。名取は洞口さんのご両親の出身地でもあり、ご親戚が津波にのまれた地域でもあるそうです。親戚の人から「あの海に入ったら足をとられる」と心配されながらも”女優魂”で撮影に臨んだとのこと。あの場面での真に迫った危機感の裏側を垣間見た気持ちになりました。

洞口さんが今回の作品で明るく前向きな女性(ファンのかたいわく、「肝っ玉かあさん」)を演じたことは驚きをもって迎えられたようでしたが、「新鮮でおもしろかった」との声が聞こえます。また、「闘病体験がこの役に反映されているように感じた」と発言される男性もいて、これは私が連想した『子宮会議』とのオーバーラップと似た感想なのでしょう。

「今後、どういう役を演じてみたいですか?」との問いに洞口さんが即答したのは「老婆」。ここ十年ほど、当サイトのインタビューなどでも答えられている事ですが、洞口さんは三十代から老け役をやりたいと考えていたそうです。
これは洞口さんのように早くからヨーロッパの映画に親しんでいた感性にはごく自然な話で、フランスやイタリアなどの女優さんには「歳をとらなければ生み出せない色気とカッコよさ」があります。
それまでに積み重ねてきたものが外見にも魅力的に反映されるのは、一般には男性の渋みだと思われがちですけど、女性もそうなんです。だからグレタ・ガルボは「はやく涙が(目じりの皺で)横に流れるようになりたい」と言ったのだし、洞口さんも「老婆」と即答するのでしょう。
これから十年か二十年たって、洞口さんには岡本かの子の「老妓抄」を演じてほしいものです。あの役は洞口依子にしか出来ない。間違いなく、惚れ直すと思います。

と、ここでひょんな例えばなしから、”キングジョー”の名前が飛び出しました。じつは、この日、洞口さんは襟元にウルトラ警備隊のバッヂを付けていました。
神戸は、ウルトラセブンがペダン星人の送り込んだロボット(型怪獣)のキングジョーと死闘を繰り広げた地でもあります(「ウルトラ警備隊西へ」の回)。ロケも神戸を中心におこなわれました。
もうひとつ、話題に出た映画があります。『紅の流れ星』です。渡哲也と浅丘ルリ子が主演する日活アクションで、なんと「ウルトラ警備隊西へ」と同じく1967年の公開。そして、この作品も元町と三宮界隈を舞台に物語が展開します。

この2作をめぐって、洞口さんはじつに洞口さんらしい神戸の旅を満喫されたのですが、このことについては、洞口さんのエッセイ『のら猫万華鏡』の「のら猫警備隊、神戸へ!」でご堪能ください。

この神戸探索のエピソードはトーク・イベントの空気を沸かせました。とりわけキングジョーの名前が出た瞬間の、参加者の男性たちの目の輝きを私は見逃しませんでした。みなさん、洞口依子さんに会いに来てキングジョーの話を聞いていることに驚きつつも、心のどこかで深く肯いておられる。やっぱり自分の好きになった女優さんは、やっぱり実物もこういう素敵なセンスの人だったか!と。
私はその嬉しさの波動が押し寄せてくるのを感じながら、こんな場を、少しずつでもいいから、もっと増やせたらいいな、と思いました。

(写真:元町映画館提供 元町映画館の皆さまに心からの感謝を申しあげます。)

(これは私が撮影した写真…)

2007年のインタビュー→ 

2008年のインタビュー→ 

2009年のインタビュー

2010年のインタビュー 

2011年のインタビュー 

依子さんも途中参加の「原口智生監督インタビュー 

熱くヨーリーを語る「當間早志監督インタビュー 

インタビュー&イベントレポート 



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洞口日和