『ディア・フレンド』(1999)

(当サイトは洞口依子さんのファンサイトです。
このページは、作品中の洞口依子さんについて語るもので、
作品自体についての記事ではありません)

このドラマが最初にオンエアされた1999年の11月には、
やはり依子さんが出演した『好き?-誰かを愛してますか?-』というドラマが
放送されています。
そこでの依子さんの役は、小学生の息子をさほど親しくない同窓生におしつけて、
自分は恋人と温泉旅行にしけこむ母親。
おしつけられた財前直見さんは、男の子を車に乗せて自分の故郷・仙台へ向かう、
という設定でした。

『ディア・フレンド』で依子さんの17歳の一人息子を演じる岡田准一君を見ていると、
『好き?』のあの小学生が不幸なまま成長しちゃったような錯覚をおぼえます。
岡田君の場合は、母との不和から屈折して非行には走り、現在は保護観察の身。
その彼と、ひょんなことから腐れ縁でオン・ザ・ロードとなる老人が緒形拳さんです。

保護司の伊東四朗さんが母子の住むアパートを訪ねると、
いくらなんでも荒れすぎだろうというくらい酷い散らかりよう。
そこへ久しぶりに帰宅した依子さんがバツの悪さを隠すような笑みで、
「あの子は私がいると、家に寄りつかないから・・・私も帰ってないんです」。
暗に男の存在をにおわせるこの笑み。

依子さんのこういう微笑みは、彼女が弱い人間を演じるときによく見せる表情ですね。
』(1995)の芸者・せきが最初そうでした。
愛という名のもとに』(1992)の則子にも、そういうところがありました。
自信のなさやおのれのダメさをカバーするかのような、防御の笑み。
洞口依子さんは、こんな笑みをその人物の存在感に変えて演じます。

だいたいこの母親は、息子の出来の悪さを世間様に詫びる口調でありながら、
お客さんでもある保護司に出すのはペットボトルの烏龍茶だし、
そのへんのスナック菓子をバラバラと客人の目の前で皿に盛って、まず自分が先に頬張るし、
そりゃただでさえオカンをうっとうしいと感じる思春期の男の子が、軽蔑に近い感情を抱くのも無理はない。
この、言ってることがやってることに打ち消される所作に、ダメおんなを演じてもうまい依子さんの魅力があります。

ところで、このすさまじく汚い部屋を見たとき、私が真っ先に思い出したのは、
思い出トランプ』(1990)で依子さんが演じたトミ子という女の子。
干物女か、と言いたくなるだらしなさで、夏の暑い昼間も冷房のない狭い部屋にスリップ1枚でくすぶって、
前に買ったスーパーの惣菜を冷蔵庫から出してつまみ食いするあの姿です。

ただ、トミ子のだらしなさには、何を考えているかわからない、
そしてどう爆発するかわからない凄みがこもっていましたが、
それから年月を経たこの『ディア・フレンド』や上記の諸作品での「ダメおんな」は、
トミ子の持っていたネガティヴにねじれた鬱屈の気迫ではなく、
マイナス方向へ逃げようとする浮き足だった軽味が感じられます。

この浮力は、ちょうどこの作品と前後して依子さんが
CURE キュア』(1997)や『富江』(1999)や『ニンゲン合格』(1999)で見せた、
地に足のつかないような浮遊感、あいまいさを持つ人物像からそう遠く離れてはいないのではないかと、
線を引っ張ってきたくなりますね。
依子さんのシリアスな重みには、弱さやもろさ、はかなさの成分に、こうした軽味が隠されているのかも。

こじつけなので、私もバツの悪さを笑みでごまかしつつ。

1999年11月29日 
TBS系列にて21:00〜22:54放送

竹之下寛次 演出  
山元 清多 脚本

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