Yumikomania!!
-羽田由美子(『勝手にしやがれ!!』シリーズ)について-


『勝手にしやがれ!!』シリーズは、1995年から1996年にかけて作られた黒沢清監督の6作品。
いわゆる「Vシネマ」のひとつで、低予算、短期間(2作ずつをまとめ撮り)での制作ながら、
随所に黒沢監督ならではのユニークな映像感覚が横溢し、はじけるような明るさとユーモアに包まれています。

洞口依子さんがこのシリーズの全作で演じるのは、羽田由美子という女性。
雄次と耕作という2人のしがないチンピラ(未満)に「闇の仕事」を斡旋するエージェントです。

黒沢監督も語られているように『傷だらけの天使』での岸田今日子さんのような存在で、
もっと抜け目なく、つかみどころがなく、食えない女。
強面の男たちを相手に、ゲームにでも興じるかのように条件を交渉し、
それをいつも自分に有利な取り分で雄次や耕作たちに卸ろすキャラクターです。

鈴木先生(雄次の高校時代の先生らしい)が店長を務める喫茶店を根城にしている彼女は、
主人公2人がダラダラとコーヒーを飲んだり漫画を読んだりしているそばを、
店の奥から前、または前から奥へとゆっくりティーカップを手に歩き、
仕事のグチをこぼす雄次を、「あぁら雄チャン、ずいぶん偉くなったのねぇ」と小馬鹿にしたり、
正当な分け前を主張する耕作に、「耕作クン、あたしそういうあさましい人きらい」などと
理屈に合わないことをしゃあしゃあと言ってみたり、
そうかと思うと、突然前をぼんやり見つめて黙りこくったり、
と思いきや、急に「ねぇねぇ、じゃあそのお金、あたしと半分コしましょうよ!それがいいわよぉ!」と
はじけたような笑顔で話に加わったり、その態度たるや猫の目のようにクルクル変わって正体がつかめません。
まさに洞口依子さんのためにあるようなキャラクターです。


羽田由美子を演じる洞口依子さんに魅了されるのは、男性だけではありません。
今回は特別に、依子さんの大ファンであり、黒沢清監督の熱烈な信奉者である由香子さんに、
その魅力について、寄稿していただきました!


Yukako 
on  Yumiko
 


ボロ自転車を必死に飛ばして「由美子さぁ〜ん!!」と叫びたい大好きなこのシリーズ。
わたしにとって劇中での由美子姉さまの衣装や髪型などは憧れであり、
当時随分真似をしていた思い出があります。
しかし当然ながらあの独自の妖艶さには足元にも及ばぬコドモだったことは言うまでもありません・・・。

 

『強奪計画』から『脱出計画』にかけての由美子姉さまの髪型はもっとも好きで、
ゆるく夜会巻き風にまとめて耳元には大ぶりのゴールドのイヤリング・・・相当真似してました!
『脱出計画』最後のシーンではかっちりとした黒いつば付の鐘吊型の帽子がカジュアルになり過ぎず、
ドレッシーな感じがとても素敵♪

 『黄金計画』では、ぱつんと短めの前髪にきっちりまとめた黒髪、 
全身黒のロングワンピースが印象的。
店でヒロインの律子とおしゃべりしているシーンでは白いカットソーをラフに着てますね。
それにしてもこのシーンの会話に私も入りたい!私もこの店でバイトを!
「・・・ユカコはさぁ、別の仕事のほうがいいんじゃな〜い?」
あっさり言われてしまうかなぁ・・・。(妄想)
 

『逆転計画』は、由美子姉さまの登場シーンはシリーズ中もっとも少ないですが
なんといっても和服姿が印象に残ってます。
紋が入っているし喪服と思われますがちゃんと確認はできず・・・。
依子さんの着物の着こなしは本当に素敵で、とても参考になりますが、
いかんせん私が着ると“粋”とは程遠く”店で指名が取れない残念な人風”になっちまうんですねー・・・。

黒沢監督の映画では、どんな役柄であろうとあまり派手な
女性は登場しないと思う事がよくあります。
華やかであっても決して下品になっていない感じ。
『成金計画』では、めずらしく由美子姉さまは明るいサーモンピンクのワンピに
クラッチ風にも持てそうなゴールドのミニバック。
結婚式に招待されているのかしらん?
前作の喪服同様謎のまま。
 
このシリーズの作品から約6年後に黒沢監督は衣装に北村道子さんを迎え(『アカルイミライ』)、
これまでにはない奇抜な服装の人物を作品に登場させますが、
不思議とその突飛さが映画全体の流れに馴染んでいるから、流石!と唸るしかありません。
様々な姿で現れる羽田由美子という人物は存在が突出する事のないように思わせているけれど
やはり強烈に引き付けられる魅力がある。
それは羽田由美子が洞口依子だから。
私は勝手にそう思っているのです。



ご寄稿くださった由香子さん、本当にどうもありがとうございます!
『逆転』の和服と『成金』のパーティドレスは、私にも謎です。
ちなみに、私の由美子ベスト3は『脱出』、『黄金』、『英雄』のときです。

シリーズが進むにしたがって、最初はVシネマらしく(やや)ハードな要素もあったのが、
徐々に黒沢監督らしいねじれて脱力したユーモアと、奔放にして優美でさえあるカメラワークが前面に出るようになり、
それにつれて雄次のキャラクターも少しずつ変わっていきます。
じつは由美子もこの例にはもれず、最初と最後ではずいぶん違う印象を与えるのですが、
全6作を見ると、不思議とそれは「変化」というよりも「べつの面」に近いんじゃないかと思えてきます。
そしてそれは羽田由美子の多面性であると同時に、洞口依子という女優の、とらえどころのない多面的な魅力が大きいです。

ということを、各『計画』での羽田由美子=洞口依子さんにフォーカスを当てて、あれこれ書き続けてきた雑文が、
ようやく全6「計画」ぶん終わりましたので、ここに改めてまとめます。

下の画像をクリックしていただくと、それぞれの作品での依子さんの出演場面解説に飛びます。


(左から、強奪、脱出、黄金、逆転、成金、英雄の各「計画」)




全6「計画」を収納したDVD-BOX!
2009/4/24発売 品番:JDXO26680




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洞口日和 

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