『勝手にしやがれ!!強奪計画』(1995)

黒沢清監督の『勝手にしやがれ!!』シリーズ(全6作)の第1作め。
また、哀川翔サンと黒沢清監督のVシネ傑作の森もここからスタートです。
ちなみに、このコンビによる『(修羅の極道)蛇の道』や『(修羅の狼)蜘蛛の瞳』、
まだ見てないかたは必見ですよ!

ケチなチンピラを稼業としている藤田雄次と吉行耕作という若者がシリーズの主役で、
この2人に「仕事」を斡旋する裏世界の女、羽田由美子が依子さんの役。6作すべてに登場します。

などと冷静に書いているフリをつとめていますが、私は依子さんの演じた役でも
この羽田由美子がかなり好きです。
なぜだろう。たぶん、依子さんが楽しそうに演じているからですね。
それに、とってもフォトジェニック。
動く写真といっても差し支えないくらい、コマ送りで見ても見とれてしまうくらい、
一挙手一投足が絵になってます。

赤と黒の色彩が強烈に印象に残る作品です。
雄次の部屋の壁はまるで昔の廓のような紅色で、そのほぼすべてが陰翳にくすんで見えます。
それから、雄次の黒いコートの下からのぞくシャツの赤い色。
ほかにも、郵便ポストの赤にコーラの自販機の赤。
街のあちこちでも、もう自然と赤が目に飛び込んできます。

これが、羽田由美子の登場するバーでは、薄暗い室内に、赤に代わって目を引くのが、
依子さんの白い肌なんですね。

登場シーンは3つ。
本作での依子さんの映しかたには型めいたものがありまして、
まず画面手前に(おもに)横顔があり、それが画面奥へとセリフを言いながら歩いてゆくんです。
横顔と、あと斜め前からも多いかな。正面からの単独でのショットはないか、目立ちません。
カメラ目線も、ないと思います。つまり、観てるワタシと、目を合わせてくれないのです。
あるのは、暗い室内を黒い衣裳に身を包んで動く彼女の白い顔。
画面手前の横顔がやがて奥へ移動してゆくさまは、白い蝶がとまってゆっくり飛んでゆくのを見ているかのよう。
まるで彼女の持ってる色彩が動かされているのを観ているみたいな気分になります。

ひょっとするとワタシだけかもしれないけど、といちおう断っておきますが、
洞口依子ファンの心理というのは、どこかマゾヒスティックな面があって、
あまりに彼女の魅力が全開に明瞭にサービスしてある作品よりも、
曖昧にされたり、寸止めされていたりするほうに楽しみを見出したりします。
彼女の魅力は、最後の1ピースを観客が探して各々に当て嵌めてみることで完成するのではないでしょうか。
そして、黒沢清監督は、このことをよく知っています。

黒沢監督は、自分は女優を魅力的に撮ることに熱心ではない、と語っています。
もし自分の映画で女優が輝いているとすれば、それはその人の力なのだ、と。
この依子さんを見ていると、そうかもしれない、と思います。
ただ、羽田由美子という役が生きられるように、空気の濃度を、光の強度を、周囲の人間の動作をコントロールしているのは、
やはり監督なんですよね。


1995年4月22日公開
製作 ケイエスエス

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