『スタジオパークからこんにちは ゲスト・ 洞口依子(2010年4月15日)』(2010)

洞口依子さんがNHKの『スタジオパークからこんにちは』に出演するのは今回が2度目。
前回のオンエアは1995年6月20日で、そのときは2週間前に『
』が始まったところで、
15年後の今回はやはり『
激恋・・・運命のラブストーリー・・・』スタートを受けて、ということになります。
この15年は長かった。 
なんといっても、『激恋』で主役をつとめる荒井萌さんのお誕生日が1995年の3月3日とのこと。
前に『スタジオパーク〜』に出た頃に生まれた人が、成長して高校生になり、依子さんと母娘役で共演しているわけです。
そしてその15年ぶんの長さと重さが、笑顔とパイティティの音で昇華されてゆくような内容でした。

番組は、まず昨年の『洞口依子映画祭』の話題から始まりました。
デビュー25周年を記念してのイベントを自分でプロデュースし、ファンや仲間たちや家族と手作りで作っていったことを振り返り、
とても大変な経験だったけれど、自分でもこんなことができるんだという自信に繋がった、と笑顔でコメント。
そして、自分の旧作を上映することで、映画館に足を運ぶ人が増えてくれればいいなと思った、とも。
これまでにも、フリートークはあまり得意ではない、との言葉がある依子さんですが、
今回も「あがっています」と言いながら、その弾けるような笑顔からは緊張の色はほとんど窺えません。
むしろ、多くの作品の中での彼女をイメージしていた人には、このトークの冗談を交えたノリなんかはびっくりするほどだったのではないでしょうか。

『激恋』の紹介。
同番組はNHK初めての「ケータイ小説」のドラマ化ということで、依子さんも「ケータイ小説を読んだことは?」の質問に、
「このドラマの出演が決まって初めて原作を読んでみました」。
この日の深夜にオンエアされる回から、依子さんの出演場面を見てのトークでは、夫婦ゲンカの修羅場を演じる自分に、
「昼間っからお見苦しい夫婦ゲンカを・・・」と笑わせながら、「自分の芝居を見ながらビックリしちゃった!」

(現在の荒井萌さんと同じ)15歳の頃に依子さんが表紙モデルになった『週刊朝日』の写真について。
自分では「うまく人前で笑えない」女の子だったと語る依子さんですが、当時の篠山紀信さんの談によると、
「笑顔がいい。『悩みはないみたい?』と聞くと、『あるわよ。年ごろだもの』」。
いやはや、栴檀は二葉より芳しというか、蛇は寸にして人を呑むというか・・・すごいエピソードですね。
その場にいてそのやりとりを聞いてみたかった気が強くします。

そして今回の『スタジオパーク〜』、最初の大きなテーマともいえる、『子宮会議』のこと。
「闘病体験記だけでは、同じ病気に罹った人以外には手にとりにくい。私独自の世界観で表現してみた」と依子さんのコメント。
そこから4/4に名古屋でおこなわれた『子宮会議』リーディングセッションの一部がビデオで紹介されました。
「自分で書いたものを、自分の声で、さらにそこにギターという自分の声以外の音とセッションすることが、表現者としてできることだと思う。
元気になって、こういうことをやっていますよ、という活動なんです」

そんなふうに活動できるようにはなった現在ではあるけれど、手術を受けるに当たっても苦悩し、そこからがんと共存しつつ生きるという、
本当の意味での闘病は苦しいものだったこと。
それを支えてくれたのが音楽であり、そして沖縄という土地とそこに住む親しい人たちの存在だったこと。
それまでリゾート感覚でしか知らなかった沖縄から、友人やその家族の中に入っていくことで大きな安らぎを得ることができたことを、
当時沖縄で撮った写真数点が如実に物語ります。
自然の中に身を置くこと、旅をすることで人と出会い、自分自身を成長させることができること。
こうした事は、これまでにも雑誌や新聞の記事、講演会などで見聞きする機会はありましたが、手術直後の『徹子の部屋』(
こちらの記事中に一部を収録)で
同じいきさつを語っていたときの思いつめた表情と比べると、いまの依子さんの口調は見ているこちらの顔を自然にほころばせます。
続いて『
探偵事務所5 マクガフィン』、クライマックスの「地球にいいものを産む」シーンを堂々紹介です。
これを見ながら涙ぐんでしまう依子さんですが、この涙はとても明るい。 そして、その明るい光を浴びると、泣けてしょうがない。

パイティティ。
石田画伯はボ・ディドリーみたいなスクエア・ボディー(にスマイルマーク!)のウクレレに、妙ちきりんなハット(アップで見せてほしかった!)という出で立ち。
なんだかそれだけで、セットが『
テクニカラー』かストーンズ主催の『ロックンロール・サーカス』かという、
いかがわしくもキッチュな可愛さを合わせ持った「桃源郷」に変わります。
おなじみの坂出さんに今回はパーカッションの佐藤さんと、ヒカシューのリズム隊、それにファルコンとヨシミさんも加わっての「パリのアベック」は、
私が知るかぎりでも屈指のご陽気なサウンドと空気が絶品でありました。

いや、ほんとにここでのパイティティは良かったです。
画伯のイントロのカッティングがめちゃくちゃカッコよかった。 どのくらいカッコいいかというと、最高にドライヴィンなときのレノンのギターみたい! 
背中を向けていた坂出+ファルコン+ヨシミの3氏が、シンバルの炸裂と共に前を向いて、花吹雪まで振りまいての大賑わいもわけがわからなくて楽しい。
終盤で、画伯がソロを取るとそこへ他のメンバーが寄り添ってのキャンプな大見得では、あのファルコンが、加入時とキャラが変わったんじゃないかと思うくらいの賑々しさ。
この日、着物で臨んだ依子さんはウクレレを弾くのに不利だったかもしれないけれど、ウクレレとトイピアノは普段にも増して力強いし、
メロディーが粒になって弾け飛ぶよな躍動感です。
ていうか、着物のおねえさんと酒屋さんが踊りながら演奏してるぶっとんだセンス! 
さっきまでの涙とこの破顔と、どちらも同じところから来ているから、本気で楽しいのだし、本気で泣けるのでしょう。

とてもいい番組でした。 メッセージが、言葉だけでなくて、笑顔や笑うしぐさや、写真や、仲間たちの姿や、音楽から伝わってきました。
力強いものがこのオンエアで全国に流れたことに拍手したい気持ちです。
前回があって、15年後に今日があって、本当に良かったと思います。


2010年4月15日13:05〜13:55 NHK総合にて放送


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