『ハネムーンは無人島』(1991年)

このサイトは洞口依子さんを応援するサイトで、
この文章も作品中の洞口依子さんについて述べたものです。
作品自体に関するものではありません。

…などと断っておいて、いきなりナンですが、
これは、いわゆる「電子メール」から始まる恋愛を描いた映画としては、
世界的にみてもかなり早い例ではないでしょうか。あまりよく知らないけど。

尾美としのりさん演じるTV局(「JBS」テレビ。TBSが製作に携わっている) の構成作家と
伊藤かずえさん演じる局長の娘が、ハンドルネーム(とは当時言わなかったはず) でメール交信。
そこから恋が芽生えて、いろんな障壁を乗り越え、タヒチへ新婚旅行へ行くまでの物語。

1991年3月公開なので、製作は前年ぐらいでしょうか。
メールといっても、当然、パソコン通信。
私は、その頃には、メールなんてものの存在すら知らず、今日のこの状況は予想だにしていませんでした。
まだ職種や境遇で使う人が選ばれるメディアだったと思う。
構成作家と令嬢という役柄が、これを日常的に使用する設定を肯かせます。
そして2人とも上手く使いこなせています。なにせ恋を成就させるくらいですからね。

この映画、今回はじめて見たんですが、「洞口日和」として見て、発見が山盛りです。
私のような者にはとってもありがたい作品。おもしろかったです。 

何から書こうかな。迷います。

依子さんの役は伊藤かずえさんの親友で、JBSの人気キャスター。
「アイドル」キャスターと呼ばれています。
この設定で、もう私は『ほしをつぐもの』(1990)での田中邦衛さんの顔が思い浮かぶんです。
あの作品では「オジンたちのアイドル」のTVリポーター役だったんですが、
小生意気そうなアポなし取材こそないものの、鼻っ柱の強そうな、手に負えない印象に通じるものがあります。

ここでの依子さんは完全にコメディー演技に徹していて、陰翳のつくキャラクターではないです。
そうなると、彼女の仔猫っぽさが強調されます。
気分屋で気まぐれな性分でもおかしくない女の子ですが、案外いいヤツなんです。
親友の恋路のためにムチャな作戦に加担したりして、本職は大丈夫かというくらいにチョコマカ動く。
だけど、どっか「敵にまわすとやっかい」だろうな、と想像させます。

思えば、『フリーター』(1987)の時もそうでした。
なんとなく、そこにいる。いつも笑っている。でも、なんかクセがある。
そう考えると、私が彼女に昔から漠然といだいているコワさ、いつ引っ掻かれるかわからないアブナさは、
倦怠感や不機嫌な表情を見せる役どころの印象より、こういうコメディーでの印象が大きかったのか、と思います。
それくらい、ここでの彼女は猫っぽいです。

恋に思い悩む伊藤かずえさんを慰めに、動物園を訪れるシーンがあります。
画面中央に一本の樹があって、そのこっちとあっちを、軽やかに往ったり来たりして話す依子さん。
これって、−−あぁ、やっぱり言わずにはおれないなぁ−−『カリスマ』(2000)とイメージをリンクさせてしまうんですよ。
バカだなぁ、俺って基本バカだと苦笑しつつ、背中で伊藤さんの背中に乗っかってふざける依子さんを見ると、
「あぁ…」とタメ息。
まぁ、伊藤さんは振り落としませんけどね。仮に振り落としたとしても、もう一回乗っかりはしないでしょうけどね!

彼女はモテる女の子なので、どこへ行ってもチヤホヤされています。
ディスコへ出かけるシーンがあって、ランバダ(カオマの曲にそっくり。あ、「ランバダ」ってダンスの名称ですね)
で踊るという、1990年らしい展開になります。
ここでふてくされた顔で男をあしらっていたら『ミカドロイド』(1991)になるんですけど、彼女はじつに嬉々としています。

港で尾美としのりさんと三浦浩一さんの間に立ち、連れ立って歩く場面があります。
ここもかなりの猫っぽさ。
そして、基本バカの私としましては、かすかにですが、ロベール・アンリコの『冒険者たち』の3人の姿が、
まぼろしのように心をかすめてしまいます。

それから、まだあるな。
宍戸錠さんが出演しているんですよ。そうなると、『ザ・ギャンブラー』(1992)なんですよ。
伊藤さんと尾美さんが式をあげる船のキャプテンなんですが、
伊藤さんのパパである江守徹さんが、これを阻止せんと、怒りの銃弾をヘリコプターから放つ。
錠さんを得て、もうそれは無国籍アクションの絵で語られているかのようなんですね。
で、上を見て悲鳴をあげたり顔をしかめている依子さんが、これまたあまり他で見ないようなストレートな表情です。
これは私の推測ですが、この『ハネムーンは無人島』って、『ザ・ギャンブラー』と制作上の接点があったのかな?
そんなふうに、あまりに私の妄想をくすぐる箇所がいっぱい。

そしてなによりも、タヒチですよ!タヒチ!
依子さんは行きません。でも、タヒチなんです。
1988年1月と2月のGORO「紀信激写」です。
あの海が出てくるんです。あの緑が、あの砂浜が、あの花々が。

本当はこれを頭に書きたかったんですが、そうなると、たぶん、女性は全然意味がわからない。
でも、いいんです。洞口依子の出演作で、タヒチです。それ以上、なんの説明がいるのか。

ホントはね、行ってほしかったんですけどね。というより、依子さんが行きたかったんでしょうけどね。
この、「海まで行ってるのに泳がない」ような感じは、何かに似ているなと思ったら、
イルカに逢える日』(1994)で、(役のうえで)一人だけ先に島を離れて、ジュリアン・マーリーのライヴを
見れなかった依子さんでした。

というわけで、この映画は、90年代前半の洞口依子さんを俯瞰できる灯台に登ったような楽しさを味あわせてくれます。
「90年代レトロ」の視点からも、見どころ満載。

あぁ楽しかった。


伊藤秀裕
 
 監督  
製作=TBS=ビックバン 配給=松竹
115分 カラー ワイド
1991年3月1日公開


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