『フリーター』(1987)

大学2回生の秋、友人と電話(もちろん固定)でだべっていたときのこと。
彼が最近見た映画として、この『フリーター』の話をしていました。
どうやら、大阪でとあるバイトの説明会があり、ヒマだったので遊びがてら出かけたところ、
帰りに交通費(出たんですね!よっ、1987年!)とともに、この映画のタダ券をもらった、と。

「ふうん、おいしいな。で、誰が出てんの?」
「えっと、いいとも青年隊の羽賀研二に金山一彦」
「ふうん」
「鷲尾いさ子」
「おっ、ラッキーやったね。」
「洞口依子」
「…」
「浅田美代子に三浦友和…」
もう、相槌打ってるだけで聞いてない。
ひととおりそのその映画の話を聞きながした私は、
「で、その説明会って、いつまでぇ?」

制作にリクルート・フロムエーが関わってたんですね。
ただ、そのバイトの説明会は直接リクルートの関連ではなかったけど(行ったのか!)。
私のなかで、なによりもあの時代とこの映画と自分を結びつける思い出です。

冒頭のエピソードで山手線が出てくるので、もしや!と身構えたんですが、
ちゃんと「JR」に変わった後、でした。
調べたら、この年の4月に「国鉄」から変わってました。
惜しい。なんだかわからないけど。
でも、そうですね、『フリーター』という映画で「国鉄」はちょっと。
このへん、あの時代を同年代の若者として過ごした人間の実感です。

鷲尾さんが綺麗ですね。輝ける美貌。
かのナンシー関が、彼女の美貌には文句が出ない、と舌鋒を弱めたくらいです。
『瀬戸内少年野球団』と同じ年、鉄骨飲料の2年前だから、当然か。
たしか、依子さんのお友達なんですよね。ブログに書いてあった。
当時のGOROを見返すと、このお2人が同居している号がけっこうあるんです。
でも私は、洞口依子の決して解決しない美のほうを信じる人間。
あと、その頃のGOROでは、ゴクミと共演したときの仲村トオルさんの写真もよく見かけたりして、
妙に納得したりするんです。

大学生を中心に、ビジネスや会社に縛られないアルバイト組織を運営するという話は、
その後定着した「フリーター」像とは大いに異なります。
依子さんの役は、グループのセンターやや右横くらいにいる存在の、津村香織という女の子。
『土曜倶楽部』で、いとうせいこう氏のMCにケラケラ笑って、ときどき突拍子もないコメントを述べていた頃。
ちょっと不思議系の色っぽい女の子です。小動物っぽさもある。

『ドレミファ娘』で戸惑いを見せていた80年代モラトリアムのクラゲのような浮薄な世界に、
ここではどっぷり入り込んでいます。
部屋で仲間たちが商売のミーティングをしているのを俯瞰で撮ったシーンがあるんですが、
依子さんだけがちょこまかと、アイスコーヒーか何かを持って動くんです。そこが印象に残ります。
この子みたいな女の子に焦点を当てたら、『愛という名のもとに』の則子役が浮かび上がってくるんじゃないでしょうか。
とくに、おふざけで何か言うときの目の細めかたに、「ヨーリー道」とでも名づけたい独特の人なつっこさを感じます。

それから、やっぱり鷲尾さんとの対比ですね。
依子さんは、自分はアイドルに向いてはいなかったと語っているように、
たしかにいわゆる純愛で胸がドキドキするようなヒロインを演じたことはありません。
それはそれで、私のような男に屈折した幻想を育ませてくれたのですけど、
この20代前半に1作くらいあってもよかったかな。
でも、いいんだ。
汚れた役でもなんでも、彼女の涙と笑顔が純白だったのは知ってるから。

最後に、これは蛇足ですが、リクルート・フロム・エーの映画を、
横山博人監督で、主題歌を小山卓治作曲というところに感じるこの独特な1987年の感じを、
誰かわかってくれないものだろうか。

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