『ザ・ギャンブラー』(1992年)

にっかつ創立80周年作品として、作家の矢作俊彦さんが監督した映画です。
日活(無国籍)アクション映画へのオマージュとのことですが、
私はそれほどたくさんの日活アクションを見たわけではないので(見たものは全部好きなんですが)、
細かい設定などの原典については、残念ながらわかりません。

「昭和74年」の、無国籍地帯と化した町が舞台で、アメリカ帰りの若いギャンブラー松田ケイジさんと、
伝説のギャンブラーで今は落ちぶれた「エースのジョー」、宍戸錠さんの駆け引きを中心に、
傭兵として世界中を渡り歩く女、依子さんがからみます。

依子さんの役名は「ソルジャー」となっており、松田さんも「プレイヤー」で、この映画で人名を与えられているのは
「エースのジョー」のみ。
依子さんは、私の知りうるかぎりでは、『ストリート・オヴ・ファイアー』のエイミー・マディガンと『爆裂都市』の町田町蔵を
足したような衣裳を着込み、クールにポツリポツリしゃべります。
もうちょっとアクションがあるのかと思っていたら、この映画全体がアクション場面よりもカジノの場面が多く、
こういう世界に疎い無粋な私は筋立てもよくわかっていません。

依子さんで印象的なのは、しょっちゅう歯磨きをしていることで、こういう男勝りの女傭兵が歯に気を使っているような
ディテールが、日活アクション的というか鈴木清順的で面白いなぁと思うのですが、ほかに引用元があるのでしょうか?
もともとふっくらした魅力的な頬の線が、歯ブラシでより強調されるのが、けっこうポイントではないでしょうか。

カジノで松田さんと宍戸さんが息詰まる駆け引きを繰り広げているあいだは、男物のスーツにタイまで結んでの、
バーテンダー姿も拝見できます。
また、最後の最後には、赤いオープン・カーで乗りつけ、髪も下ろして黒いドレスに身を包んで別れのシーンを演じます。

この映画は、矢作監督のこだわりなのでしょう、全編、日活アクション直系といえる殺し文句やキザなセリフの応酬です。
私はこれがたまらなく好きで、アンダーライン引きたくなっちゃいますね。
もはや日本人の会話では一生に一回言うかどうかも怪しいくらいのセリフが続き、
俳優さんたちも、あたかも外国映画の吹き替えのようにそれを発します。
依子さんも当然言うわけですが、けっこうなりきってますよ。あ、女優だから、それが仕事か。

あと、時代設定の昭和74年、つまり西暦1999年ですが、この映画が製作された1992年から、にしては、
よく考証(この場合は、未来だから、想像か?)できているのではないでしょうか。

1992年にはまだ携帯電話は重かったはずですが、松田ケイジさんの持っているのは、確かに7年後の軽小さですしね。
そしてなにより、ワン・カットのみですが、依子さんがエヴィアンを飲むシーンがあるんですね。
日本ミネラル・ウォーター協会の統計によると、日本人1年間のミネラル・ウォーターの消費量は、
1992年では2.8ℓだったものが、1999年には8.9ℓ、つまり3倍に増えています。
2006年で18.4ℓだったので、1992年当時には現在の7分の1だったのです。
私の記憶から言っても、1992年にはまだ水を買って飲むという習慣は、それほどなかったように思いますね。
アメリカではすでに、「ジェネレーションX」と呼ばれた世代にとって、ファッションのひとつみたいになってたみたいですけど。

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