ほしをつぐもの』(1990)

「ガイラ」の異名をとる小水一男監督の作品。
小水監督はもともと若松プロのピンク映画畑からキャリアをスタートした人。
80年代に『箱の中の女』とそのパート2というポルノ映画があって、
その筆舌に尽くしがたい(当時の表現でいうと)「エグい」作品の脚本もこのガイラ監督でした。
若松プロということで、『一万年、後・・・・。』 の沖島勲監督まで繋がる、太い線が見えます。
洞口依子さんの関わった映画と映画人を追っていくのは、こんな面白さもありますね。
日本映画の表の歴史からは到底及びもつかないようなことだらけ。

たとえば、ほら、この作品で田中邦衛さんの長女を演じている女の子。
黒沢あすかさんだったんですね!
今回はじめて気がつきました。なにせ、もう20年くらいぶりに見直したもので。
そういえば、妙に色っぽいしゃべりかたの娘だなぁとボンヤリ思った記憶はありますが、
彼女だったとは知らなんだ。
彼女なんかも、ここで『ほしをつぐもの』に出たばっかりに、
3年後の『おかえりなさい 』では依子さんにあんな目に遭うし(私、このネタ好きね、ホントに)、
『六月の蛇』とか『でらしね』とか、瀬々さんの『サンクチュアリ』に出たりするようになっちゃった!
なんて、運命というか、やはり線の存在を信じたくなります。

撮影が89年。洞口依子さん、20代まっただなか。
89年というと、『からくり人形の女』もあり、『芸術家の食卓』もあり、『北の国から 』もあり。
それでもってこの1990年になると、テレフォン・ショッキングに出ているんですよね。
当時の実感としては、「おぉ、この子、大波が来たなぁ、サーフズ・アップだなぁ」と思っていました。
勢いとタイミングに乗った、気持ちのいい打球をかます3年選手、あたりですかね。
ウッチャンナンチャンのコンビニエンス物語 』なんかがいい例ですよね。
計算よりも、身についてきた勘で、考えるより先に体動かしてるような、若さと大胆さ。

田中邦衛さん演じる定年間近の玩具会社員を突撃インタビューする、リポーターの早坂ともよ役です。
ホロ酔い加減で駅にやってきた田中邦衛さんをつかまえて、マイクを向け、
「こんばんわぁ〜、あなたも一杯飲んでラッシュをやりすごすお父さんですか?」
ライトを当てられて驚きながらも、相手がTVでよく見る女の子だとわかった田中さん、
「あ、いやっ、あっ、はやさかともよちゃん?知ってるよ、俺たちオジンのアイドルだもん。理想の娘っつてさ」
そこから夜道を歩きながら、田中さんにあれこれ質問をぶつける依子さん。
田中さんの、例によって、モノマネはしやすいけど決して超えられない、オリジナルなセリフまわし。
依子さんは、これとまったく対照的な、取ってつけたようなスマイルとマニュアルを読むようなセリフまわし。
ニュアンスの塊りのような田中さんと比して、ほとんど感情を見せる場面はありません。

その取材の最中に昏倒した田中さんの、過去への心の旅から物語が始まっていきます。
戦時中、疎開先から東京を目指して山中を越えようとする子供たちの物語。
ちょっと『スタンド・バイ・ミー』を思わせるところもあって、
まぁ、どうあっても、現在の場面に出てくる俳優さんは不利です。
ただし、映画の冒頭と、だいたい中頃と、それから最後にと、依子さんはバランスよく登場するので、
ファンとして観ておいて損はない作品ですね。

重体に陥った田中さんの状況を「中継」できる好運に恵まれたリポーター嬢は、
不安に苛まれる家族にもズケズケとマイクを向けます。
このへんの空気読めない感じ、この時期の依子さんにはわりと馴染みあるキャラクターです。
ことにこの頃、喜劇での依子さんは、旧世代にとって迷惑なくらい自分中心な女の子の役が目立ちます。
その態度に激怒した田中さんの次男が、依子さんの腕をつかんで、壁に押さえつけます。
男の子の顔を見やって、「たくましいのね」。
不意をつかれて一瞬たじろぐ男の子。彼のシャツは、イン。
洞口依子ファンとして見ると、私はこのシーンが一番好きです。
先述の黒沢あすか嬢も、一瞬とんでもなく艶かしい口調でセリフを言うシーンがあります。
それから、彼女の母親役。吉村実子さんなんですね。いいですよねぇ。

この映画では本筋とカンケイないところで、女優さんが色っぽいです。
当時見たときは気がつかなかったのだけど、吉村実子、洞口依子、黒沢あすかが並んでいる病院のシーンは、
なんて贅沢な光景なんでしょう。
なんかもう、日本女性のエロス三景、なんて名勝を勝手に認定したくなります。

たけしが子役の頭をはたく手つきが、軍団に突っ込む時(「バカヤロ!」)と同じだとか、
そういうことすらどうでもよくなってしまう。私も、かなりの因果者ですが。


1990年2月2日(土)松竹系で公開
小水一男 監督・脚本
オフィス北野 制作
105分

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