『ヴィラ・デル・チネマ #28(ゲスト 洞口依子 大杉漣)』(2001)

『勝手にしやがれ!!』番外計画。
松尾貴史さんと原千晶さんが、ゲストと映画についておしゃべりをするトーク番組に、
洞口依子さんと大杉漣さんがゲスト出演した回。

依子さんと大杉さん、つまり『勝手にしやがれ!!』シリーズのレギュラー陣、羽田由美子と鈴木先生です。
この番組でもまず最初に『強奪計画』での2人の共演シーンが紹介されます。
この番組出演時で、あの作品から5年がたっていたわけで、しかも直近には1年前公開の『カリスマ
(これも共演作)があったわけですから、『勝手にしやがれ!! 強奪計画』を頭に持ってくるとは、
これだけでスタッフのシネフィル度の高さがうかがえます。

『カリスマ』のDVD特典に入っていたメイキングを見てもわかるように、
大杉さんは、現場ではかなりひょうきんな人のようです。
この番組でもトークが非常におもしろい。
相手の思うところを、簡潔な言葉でさりげなく自分の意見をにじませて返し、すごく賢い人!という印象。
できればその言葉を全部採録したいくらいなのですが、それやっちゃうと、
「洞口日和」ならぬ「お嫁さん日和」になっちゃう!
(周防正行監督の名作『変態家族・兄貴の嫁さん』の原題が「お嫁さん日和」。
当時30代だった大杉さんはこの映画でお爺ちゃんを快演した)

よって、例にならって、依子さんの発言場面を追っていきます。

このときの依子さんは、ストレートのセンターパートを両頬が隠れるまでおろした髪型。
この髪型で大杉さんと並ぶのはちょっと新鮮ですね。
ウクレレを持っての登場で、かたときも腕から離しません。
早速、大杉さんが依子さんのことを、
「つかまえたと思ったらコンニャクみたいにすり抜けて、そこがたまらない」と絶賛。
「番組のスタッフからも、大杉さんが洞口さんにご執心だと聞いてますよ」とキッチュ。
依子さんは、「ホントに?そうだったの?」と照れ笑い。
これを受けて大杉さんのはにかんだ笑みから、決して社交辞令ではないことが察せられます。

大杉さんも話がうまいんですけど、キッチュのホストが巧みなんですね。
ゲストがよぶんな説明なく話ができるように、さりげなく解説を入れながら質問する。
キッチュと大杉さんのやりとりの闊達さ、それを過度に受けずにうつむき加減で流す依子さんの唇に浮かぶ微笑み。
このバランスが絶妙で、見ることに充実感をおぼえる番組です。

依子さんの大好きな映画として『気狂いピエロ』が紹介されます。
ちなみに、出演者全員「きちがいぴえろ」と言っています。
依子さんがフランス映画によく出てくるロケ地を訪ね歩いた93年の旅を振り返って話します。
『勝手にしやがれ』でベルモンドとセバーグが歩いたカフェの前や、『気狂いピエロ』でのヨット・ハーバーなど。
ただ、実際にそこに行くと、「それほど感動はしない。あ?ここなの?って感じ」との感想。
逆にそういう感想のほうがリアルに響きますね。

アンナ・カリーナへの思い(「あの絶望的な目、男だったらたまらないと思う」)は、
実際に自分が撮影に持っていく衣装の話へ移り、『カリスマ』でのあのプリーツ入りのスカートの話題へ。
大杉さんは、あの映画で依子さんが井戸の周りを「ピョンピョン飛び跳ねる」しぐさが大好き、と相好を崩します。
「あのスカートの中にある歴史に思いをはせる」って、うますぎるよ、言い回しが。俺が言いたかった。

この年と前年でなんと25本の映画に出演していた大杉さん(多過ぎさん?)は、
自分は声がかかればどこへでも行く、役者とはそういうものだと思う、と
高校生の自主映画に出演したエピソード(!)を披露。

この回、テーブルに用意された食事は、依子さんがリクエストしたイタリア料理。
映画『月の輝く夜に』でシェールの母親が作った「月のトースト」。
フランスパンをひと口サイズにスライスして真ん中をくりぬき、そこに卵を落としてオリーブ・オイルで焼く。
さらにこの番組用に、卵の代わりにトマトを使った「太陽のトースト」にも舌鼓をうちます。

音楽の話題。
まず、田中要次さんや大森南朋さんと組んだ大杉漣バンドについて。
大杉さんはエレファント・カシマシの大ファンらしく、田口トモロヲさんなどとも
ハージー・カイテルズ(恥かいてるず)なるバンドを組んでいたりするそうです。
そして依子さんは、少し照れくさそうにパイティティの話を。
この時点では「ウクレレ・デュオ」と紹介しており、相方はうまいけど自分はまだまだ・・・と言いながら、
代々木公園あたりでやれたらいいんじゃないかな?と未来予想図。当たってるし(→こちら)。
また、「来年くらいには、できればマキシ・シングルを出せれば・・・」と控えめな願望を。
これも時間はたったけど、アルバム作ったし、ロンドンにまで行った!

最後に依子さんの今後の展望として、
どんな40代になるのか、どうなっているのかはわからない、
と、これまた聞きようによっては消極的な発言があります。
しかしこれ、当時の彼女の本音だったのかもしれませんね。
この『カリスマ』の少し後というのは、ファンとしてちょっと歯がゆい時期というか、
同作であれだけのことをやったのに、アクセルを踏み込んでない観があって、そこが不思議でした。

そういうことも含めて、役者というものについていろいろ考えたくなる番組ですね。
それと、大杉漣さんのような風格の役者さんと並んで一歩も退かないこのアウラというか貫禄は、
やっぱりすごいです。惚れ惚れします。
なおかつ、そこが可愛いという。こういうところ、好きです。

洞口依子さんの周りには、いつもすばらしい音楽が鳴って、おいしい料理のにおいが漂っていますな。
じつに、五感の快楽と切り離せない女優さんだと思います。

2001年5月22日(水) 23:00〜24:00
BS日本テレビにて放送


「この人を見よ!」へ

←Home (洞口日和)