〜洞口依子 出演作品解説〜 |
『So long!』(2013年) |
この作品での洞口依子さんを見ていると胸が熱くなる。
悲しみの表現に心動かされて、というのもある。
ある場面で泣いている洞口さんの姿、それはほんとに悲しい。
思いきり泣いている人が、一瞬、思いきり笑っているようにも見える、そんな痛ましさがある。
どちらのときも、人は口を大きく開け、顔をくしゃくしゃにして、体を震わせたり揺らしたりする。
それで、相手が泣き出したのか笑い出したのかわからなくて戸惑ってしまう。
この作品の中で慟哭する洞口依子さんには、そんな戸惑いを感じさせるほどの大きな悲しみがある。
もちろん、そこは彼女が泣く場面だと予想はできるし、泣きだす声もはっきりと聞こえる。
けれど、その姿はどんな言葉もかけようがないくらいの悲しみに崩れていて、もはや涙とか笑いとかの輪郭すらも消え去った感情の爆発にふれて、
まず戸惑うことで突き離され、やがてじわじわとその悲しみに引き寄せられていった。
でも、作品全体からいうと、こういうことでもある。
このAKB48の30枚目のシングル「So
long!」のPVは、大林宣彦監督が手掛けた64分の長編だ。
大林監督の近作『この空の花 長岡花火物語』を引き継いだ作品と言ってもいい。
あの映画のうねりそのままの、奔放な展開と語り口、強力にオリジナルな時間の流れがあり、人と風景と物と文字が唖然とするほどのスピードで結ばれていき、
こちらの心の窓もどんどん開放されていく。
無邪気なほど素朴に映る合成画面と、その中で演技をしている出演者の人たちが、まるで、なんにもない世界で、表現の喜びの原点、その尊さと強さを、
大胆におおらかに謳いあげているかのようだ。 なぜかレスリー・キャロンの出ていた『リリー』を連想したりもした。
そんな、「創る」ことのうねりと渦に洞口さんがいて、彼女の涙も笑顔もぜんぶこの作品に彼女がもたらす輝きになっている。 だから私は嬉しくて泣けてきたのだ。
それは、秋元康さんが大林監督に描いてほしいと依頼した、AKB48の「人間的な美しさ」にも通じるものだと思う。
また、洞口依子ファンには、こんな楽しみかたもある。
洞口依子さんは大林監督のほかの作品にも出演している。1995年公開の『あした』。
この映画にも洞口さんの泣く場面があった。 「私、悪い子になるよ。 生きてる人に恋をするかもしれないよ」というセリフがせつなかった。
内藤忠司監督作で、大林宣彦「総監督」の1998年公開の『マヌケ先生』。 『あした』とはまったく異なる、洞口さんのコミカルでとぼけた味わいが佳かった。
AKB48とは、言うまでもなく、『マジすか学園3
』での共演で強烈な印象を与えた。
あのドラマでは、洞口さんと並んだ松井珠理奈さんたちが本当に怯えているように見えるほど、敵役を演じる洞口さんには凄みがあった。
秋元康さんが携わったドラマ『セブンズ・フェイス』、CDの『ROOM2』、インタラクティブ・ドラマの『DUET』に洞口さんが出演し、
それらの企画と彼女の存在感の取り合わせがとても面白かった。
この作品には、そんなカメラの向こう側の人と人の「縁」を想像させてくれる何かがある。
うまく言えないけれど、そのことと、先述したようなこの作品の持つ「創る」ことのうねりとは、関係がありそうな気がする。
ファンの勝手な思い込みであるのだろうが、それでも30年近く見続けてきた女優さんの、あの作品でのあの出会いが2013年にこんな形で繋がったのかという感慨は大きい。
今回洞口さんがAKBメンバーと同じ場面で共演したり、一般の学生さんたちを見守る姿を見ながら、今度はここから、いつか、新しいものが生まれてほしいと思う。
きっと、真っ直ぐで清々しいこのPVの表現力の若さがそんな期待を抱かせるのだろう。
ここで繋がってできた線を新しいスタートラインに、また次へ繋がっていってほしい。
このCDのジャケットの、プラスティック・オノ・バンドのライヴ盤みたいに真っ青な空を見てるとよけいにそう願いたくなる。
監督 大林宣彦 |