〜洞口依子 出演作品解説〜

『マジすか学園3』(2012年)


「洞口依子さん、いまAKBのドラマに出てますよね。 ファンとしては、どうなんですか?」

そんなようなことを聞かれた。 
相手は、特に誰かのファンというのでもないらしく、なんとなくテレビを見てたら、女の子たちがプリズンに入っていて、それをモニターで監視する怖い女所長がいる。 
「あれ? 洞口依子じゃないの? AKBのドラマに?」
それで私に話を振ってみたようだ。

AKB48、SKE48、HKT48のドラマ『マジすか学園3』に洞口依子さんが出演。 
洞口さんは、過去に『セブンズ・フェイス』、CDの『
ROOM2』、インタラクティブ・ドラマの『DUETと、秋元康さんのプロデュースした意欲的な作品に出演している。
また、2009年の「
洞口依子映画祭」のパンフレットに寄せられたお祝いのコメントには、秋元さんからのものもあった。
それらを別にすると、AKBとの取り合わせに意外性を感じる人がいても、わからなくはないのだが・・・

ただ、どうだろう。 洞口依子さんは、どんな作品内でも、他の要素とどこか異なる独自のものがあって、ファンにはそこがまた魅力だったりする。
今回も、取り合わせの意外性とその異質さから広がるいろんな想像も含めて、「AKBと洞口依子」の報に心ときめかせた人が多かったのではないだろうか。

AKB48についていうと、私は映画『Documentary of AKB48 』の第2弾(2012年)を観に行って、ようやく何人かの名前と顔をおぼえた程度だが、
それはとてもいい映画だったし、彼女たちにも好感を持った。
しかも、「洞口依子さんに似てる」と思っていた島崎遥香さんが『マジすか〜3』の主演と聞いて、すでにジンワリと期待があったうえに、
洞口さんの演じるのが敵役だと知ると、これはきっとぱるると母娘の設定にちがいない、などと勘ぐったりしながら楽しんだ。

そうなると、早く二人が向き合う場面を見たくなるというものだが、この対峙がなかなか来ない。
途中で一度チーム全体として直に対面はしても、所長は前半のほとんどをモニターを通してパルを見ている。 
物語も、前半はチーム間の抗争劇なので所長との対決はずっと後まで持ち越される。

「テッペン」をめぐる抗争劇は、私には実際のAKBのTEAM 4で起きたトップ交代劇と重なって見えて、
所長の存在が実は「総合プロデューサー」なのではないか?と邪推してしまった。
とくにこの段階での洞口さんには、パルに対する「おもしろい子が入ってきた」と呟くときの視線に、
仄かに人間的な温もりが含まれているかもしれない、という可能性をまだ感じさせた。
どこか影を背負っていそうな、いわくありげな雰囲気には、洞口さんが『
ジュテーム』(2008年)で見せた未熟な者へのいたわりに転じそうな気配もあった。
AKBのメンバーたちが励ましあい競いあうなかで成長していくのを見守る、そんな役割を担っているのではないかとさえ考えていた。

ところが、そんな予想は全部覆された。

この所長、囚人の女の子たちを個人名で呼ばない。 
全員にニックネームが付いているのだけど、最終回である人物を本名で呼ぶ以外は、重要な役柄であるノブナガも、中盤でパルと戦う子のことも、所長はニックネームですら呼ばない。
この点は、木村靖司さんが快演する看守長がウルセーヨにしつこくつきまとったり、サディスティックでありながら親しみを感じさせるのとは対照的だ。
(その後、ご指摘いただいて確認したところ、ちゃんと「パル」などと呼ぶシーンがありました。たいへん失礼しました!ご指摘ありがとうございました)

所長の過去には同情を誘う部分があるのだが、洞口さんはその設定も突き離し、妄執として演じている。
そのぶん、「七つの子」を口ずさむ姿はコワいし、手にしたガラス瓶までもが異様な迫力を帯びる
(所長が登場する部分のバックで流れていた音楽は、「七つの子」を逆回転したものらしい。 AKB48関連のスレッドにあったネタ)
どの囚人の名前も口にしない彼女には、名前を呼ぶ相手がいない孤立感が漂い、パルたちとは別の意味で囚われている人間にも見える。
細身の体につけたサスペンダーが『愛の嵐』のシャーロット・ランプリングを連想させるのも、その印象を強くする。

そんな鬼気迫る洞口さんを見ているだけでも楽しい。 
焦りや怒りや嘲笑を大きく表して制御をなくしてゆく第11話、そしてクライマックスで更に壊れてゆく最終回の第12話などは、間違いなくドラマの見どころだった。
ストーリーの進展、洞口さんの加速、そして初回ではまだ覚束なく映ったメンバーたちがどんどん輝いてくる様子、この3つがピタリと合っていたのもよかった。
とくに、回が進むにつれて凄みを増していく後半は、洞口さんと同じ場面で演じている竹内美宥さんや松井珠理奈さんや木崎ゆりあさんなどが、まるで本当に怯えているかのよう。
「AKBと洞口依子」に期待した以上のものがあったと思う。

「国民的アイドルグループ」を向こうに回した、見事な妖女っぷり。
過去にさまざまなタイプの人間を演じた洞口さんでも、ここまで極端にレッドゾーンに振り切れまくる役は珍しい。 いや、初めてではないだろうか。
そんな新しい役柄を、ものすごく楽しそうに演じている洞口さんがカッコいい。 もっと見たいくらいだった。
冒頭の問いに、私はそう答えたい。


2012年7月13日〜10月5日(全12回) 毎週土曜 0:12〜0:53
テレビ東京系にて放送

監督 佐藤太 豊島圭介 廣田啓 佐野友秀
脚本 長谷川圭一 徳永友一 山岡潤平 鎌田智恵

出演 島崎遥香 木崎ゆりあ 川栄李奈
    松井珠理奈 竹内美宥 大場美奈 入山杏奈
    矢神久美 島田晴香 阿部マリア 木本花音
    高橋朱里 永尾まりや 山内鈴蘭 村重杏奈 市川美織 加藤玲奈
    洞口依子 木村靖司 福山一樹




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洞口日和