那覇桜坂劇場その2 (2008年7月5日、沖縄)  (←「その1」へ 「その3」へ→ 「その4」へ→)

パイティティLIVE




19時開場。

劇場の薄暗がりの中で最初に目があったのは、カウボーイ・ハットをかぶった原口智生監督。
『ミカドロイド』で洞口依子さんと殺人ロボットのジンラ號を闘わせた人で、日本の特殊メイキャップの第一人者。
ちなみに、パイティティ内で特撮フリークとして知られる良實さんにとっては、雲の上の存在だそうです。
私は以前、このかたに、『ミカドロイド』での自分の好きなシーンを語って、
「洞口っちゃんのファンだけあって、ヘンタイだねっ!」と、嬉しそうに呆れられたことがあります。

この夜のパイティティ・ライヴは、原口監督が演出した「ウクレレ・ランデヴー」のPVで幕を開けました。
http://jp.youtube.com/watch?v=WmcHpdGN_8Q
私の感想は、このPVは「洞口依子出演作リスト」にほしい!ということ。さっそく、登録(→
ここ )。
やはり依子さんは、スクリーンの上に映し出されるべき人なんだなぁと実感しました。

PVの終了とともに、パイティティがステージに登場。
今回のサポート・ベーシストは坂出雅海さん。
ヒカシューのメンバーで、
昨年11月のライヴやアルバムのレコーディングにも参加されています。
もちろん地元のヒーローたる良實さんも口琴で参加。
彼はヒカシューの熱狂的なファンでもあるわけで、彼にとって二人の「神」的存在を前にしての、酒屋の前掛けなわけです。
あれは戦闘服でもあり聖衣でもあるんですね。
 
いろんなところでパイティティのライヴを10回近く観てきましたが、いつもオープニングはけっこうユルユルです。
「あ、これもう本番?」というくらいのノリで始まったこともあります。
拍手に迎えられて華々しく登場、というのが照れくさい人たちなのかもしれません。
オープニングくらいは、もうちっとお客さんの中にいけにえとして身を捧げるような勢いがあってもいい。
と思う反面、この部活みたいなノリと演奏の深さのギャップがたまらないのだから、痛しかゆし、か。



1曲目、「パリのアベック」。
画伯のイントロでピシャリときまるかどうかが重要で、この日は少し緊張していたのかもしれませんが、
それが好い方向に牽引力として働きました。バンドが、さっとリズムの蜜に群がるようにグルーヴが練られていきます。
また、トイピアノを叩くように弾く依子さんの姿にもただならぬ迫力があり、
 彼女のフォトジェニックな魅力に観客が心を動かされ、それがまたバンドのメンバーを動かしている。
とくにファルコンが乗っているのが伝わってくるのが、ふだん冷静な彼には珍しい。



そのまま「入って」きたファルコンのノリが絶好調で引き継がれたのが「アイスクリーム・ブルース」。
この曲は伸縮自在、カラリングも変幻自在で、ファルコンのギターが鍵を握っています。
この日の彼は、私が観た同曲の演奏ではベスト。出てくる音の波に漂うような、自然体の彼のブルースです。
また、その底から音をぶつけるような坂出さんのベースが、この編成ならではの味わい。

3曲目はデビュー・アルバムから「ピクニック」。
当初「レス・ポールとマリー・フォードへの手紙」として作られていた曲ですが、
イントロの2本のウクレレのからみが旧タイトルをしのばせるほかは、文字通り「ピクニック」な趣き。
それも薫さんのドラムがラフなR&Bっぽい色気をふりまいて、オフロードの風景が浮かびます。
ファルコンのスライド・ソロの直前、画伯が「ファルコ〜ン!」と叫んだのはよかった。
それに即反応して薫さんと坂出さんがファルコンを(音で)煽りだしたのは、さすが百戦錬磨の兵です。
バンドマン!という音になっていて、いなせでカッコいい瞬間でしたね。ファルコンも燃えていたし。


その次が、沖縄でやるからにはこれを聴きたかった「マクガフィン?」。
これはもっともっとライヴで演奏してほしいんですよね。素晴らしい楽曲です。
ある意味、これがあるからこそパイティティなのだ、とさえ言いたくなるくらい。
この日も、なぜウクレレでこの音が出るのか、謎をジューシーに含んだ果実のような演奏でした。
坂出さんのベースが縦横斜めにうねって、知恵の輪を解いてはもう一個ひっかけるような、
音楽のミステリーに満ちたスリリングなプレイ。
もっと思いっきりハメはずしてもいと思います。10分とか。やってるメンバーが「長ぇよ」と愚痴るくらい!
ディープに酩酊させるパワーを持った一曲です。


5曲目は「ねむりねずみのうた」。
アルバムでは中西俊博さんのすすり泣くようなヴァイオリンが素晴らしい効果をあげていますが、
ここではウクレレと依子さんの囁くうたで、サラッと聞かせます。
依子さんの声のベタベタしないクールな色気が囁きに乗ったとき、意外なふくよかさがあります。
彼女の朗読や演技での声の魅力が、少しわかったかも。

カヴァーが2曲続きます。
まずはビートルズのIn My Lifeをインストで。パイティティが画伯と依子さんだけで結成された頃から練習していた曲。
ウクレレ・デュエット用にいいアレンジがされていますが、少し演奏に手間取ったようです。
去年の6月に、胸に響くようなこの曲のカヴァーを、やはりこのデュオで聴いたことがあるので、
これは次回に期待です。

続くカヴァーは「涙そうそう」。(動画
これも沖縄を意識してでしょうが、依子さんの歌が入ると、ちがった物語が紡がれるから不思議です。
いまは会えない人に向けて唄われるこの歌。
彼女の過去の作品をいろいろと見てきた人には、さまざまな顔が思い浮かぶでしょう。
いまを生きることのできる幸せと、会えない人たちへの思いが絡み合うように交錯して、
そして彼らのぶんも生きていく気持ちが高まって、感極まって間奏で涙ぐんでしまった彼女。
「会いたくて会いたくて」とうたうときの彼女は、シャーマンのようでもありました。

その場にいた誰もが、彼女を通して、自分の「涙そうそう」を聴いていたのではないでしょうか。
バンドの演奏もよかった。
画伯とファルコンが、こういう曲調を、楽曲の良さに導かれるように出す音が、意外なくらい太くてよかった。
そして、薫さんのドラムが感傷に甘く流されるのを見事にくい止めていて、これもさすがです。

この次が「ウクレレ・ランデヴー」。


このしんみりした雰囲気をどうあの世界で持っていくのかと少し心配になりました。
「ランデヴー」こそが、依子さんの演技にかかっていますし。
と思ってたら、やはりそこは女優でした。
しかも、前で泣かせたぶんに反動がついているので、この日の「ランデヴー」はかなり可愛くはじけます。
いやいや、それとも泣いたあとの女の顔だから、よけいにそういうことなのか。
会場の空気がいま一度華やいでいくのが伝わってきます。
 
そこへ次の「クロックワーク・ドールハウス」です。
良實さんの低音コーラスも入ったアルバム仕様で、彼のユーモラスな佇まいもステージを盛り上げます。
ただ、曲に入るまでのMCがちょっと長かったです。前の曲から間髪おかずに入ったらなぁ!
アルバムではとにかくパイティティのコアな部分を拡大濃縮したようなこの曲、今後のライヴでの展開がとても楽しみ。
少人数の編成であのくらいのものができればね、それはすごいと思うんだけど、
ランラランラとスキャットを足して、お客さんにも一緒に歌ってもらうとか、
観客参加型で盛り上がるのがいいと思うのですが、どうでしょう?

 

ここで依子さんのお色直し。
この間、急にステージを仕切る人がいなくなって沈黙が続いちゃったのには、オイオイと笑ってしまいました。
こういうところが持ち味のバンドでもあるんですよね。
パイティティTシャツにミニで依子さんが再び登場し、「シュガータイム」。
依子さんの貝殻スライドは回を経るごとにオキャンになっていっているのがいいです。
しかし、これ一曲のためにしては出で立ちがやけにポップでアクティヴだなと思っていると、
やってくれました次の曲。

ヒカシューの名曲「パイク」です。(動画
6月にヒカシューライヴにゲスト出演したときにカヴァーしたと聞いて悔しがったところだったので、
これは嬉しかったですねぇ!
80年代頭の東京ニューウェイヴの影響をまともにくらった依子さんが、「ヘンタイよいこ」なアクションで歌うはパイク。
ヒカシュー命の良實さんが坂出さんと同じステージで歌うはパイク。
やはり同時代で、絶対にこの曲のアイデアにやられたはずの画伯がウクレレで弾くのはパイク。
これはもう、坂出さんがいるからサービスで、というレベルではなく、
ウクレレ・ロックの夜明けと呼んでもいいくらいの見事なカヴァー。いやほんと。最高でした。
パイティティのウクレレ・サウンドが、ニューウェイヴからも水を引いていることがハッキリとわかりました。

しかし依子さん、このバンドが本当に初めてなのか?なんなんだ、この堂々たるヴォーカリストぶりは。
天性のパフォーマーとしか思えないですね。
 
彼女がバンドでフロントに立ったらということを、それこそ高校生のころから妄想したことはありましたが、
20年以上たってそれが実現し、こんなにズッパマリではまっているのを見るなんて!
たぶん、場内にいたこの曲を知らない人も、この奇っ怪でシンプルなメロディーの繰り返しと、
意味不明の歌詞、そしてメンバーのこの曲への思い入れにあてられたんじゃないかと思います。
たとえ低く見積もってそれが当惑だったとしても、熱い嵐が渦巻いていました。
いいんですよね、これが。最後の一線で人を煙に巻く感じといいますか、尻尾を見せないところ。
私個人としても、洞口依子さんに出会って、いまこうしてパイティティを好きになるというのは、
しごく当然の流れだったのだと思い知らされるのはパイク。



最後の曲は「ボナペティ」。
これも『マクガフィン』収録ということで、沖縄にゆかりのある曲。
「パイク」では、自分たちが奏でる音楽の力に驚いていたであろうメンバーの勢いが、
そのまま自然にすうっと移行したいい演奏でした。
この曲には聴く人の心を油断させる人なつっこい魅力があると思うのですが、
それがいい具合にフィナーレと結びついたと思います。

そしてアンコールは、「上を向いて歩こう」。4曲目のカヴァーということになります。
パイティティはコンセプトの面白さと演奏の説得力を備えたバンドなので、
カヴァーはどんどん採り入れるといいと思います。
どうでしょう、パイティティのHPでカヴァーのリクエストを募ったりしては?




(下は沖縄そばのお店が、特製ラベルに包んでくれたマクガフィン泡盛にご満悦の画伯。)


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