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「『マクガフィン』トークイベント」  (2008年7月5日、沖縄)


(右は當間早志監督。)

大阪空港を13時台に出発する飛行機の空席を探したのだけど、残念ながら取れませんでした。
大阪空港、すなわち「伊丹空港」。 伊丹13時。 伊丹十三時・・・

スケジュールの都合で『マクガフィン』上映に間に合わないことはわかっていたので、
出発前夜にDVDで見直すことにしたのです。 
そうするともうだめで、これをスクリーンで見るチャンスを逃す自分が歯がゆくてなりません。
後悔の念でいっぱいになりながら、強い日差しのなか、那覇空港から桜坂劇場にたどりつくと、
劇場の前で立ち話をしている當間早志監督と洞口依子さんに遭遇。
「トークイベント間に合ったね」との言葉にほっと胸をなでおろし、場内に入ったら、
扉のすぐ近くに立っている紳士は(『マクフガフィン』にも出演されている)平良進さんではないですか。 
自分が沖縄に来たことを強烈に意識した最初の瞬間。
(でもその数秒後にパイティティの武富良實さんに声をかけられて、
あれ?やっぱり東京の居酒屋だったかな?としばし混乱)

お客さんを見渡しながら、はじめて『マクガフィン』を観た人もいるんだろうな、などと考えているうちに、
壇上に當間監督、依子さん、平良進さん、そして制作にも関わった良實さんが並びました。
 
依子さんはここでは一歩退いた感じで、ほかのお三方のお話をリラックスして楽しんでいる様子。
いわゆる「上映後トークイベント」とは少しちがった空気が流れています。
平良さんのお話など、ちょっとネタバレしてしまうので詳しく書けないのが残念ですが、
演じられた安谷という人物像について、名前にまつわるユーモアをまじえての語り口が絶妙でした。

『マクガフィン』で使用された代行車は、じつは良實さんのものであったこと、
しかも当時良實さんは依子さんの移動の際にハンドルを握ったはいいけれど、運転免許取りたてで、
現場に到着するといつの間にか依子さんが運転席に座っていた話など、
それだけで短編が撮れそうなおかし味があって爆笑してしまいます。

「家族ぐるみのつきあい」と依子さんに紹介された當間監督は、依子さんに妊婦役を充てるまでの逡巡、
クライマックスをどう描くか迷っていたときに依子さんのアイデアに助けられたことなど、
作り手ならではの説得力のあるエピソードを披露。

女優が脚本に大きく関わった、と書くと大きな語弊が生じてしまいますが、
つまり、彼女にしかわからない、彼女の現実と彼女の創造性が扉を開いた脚本であること、
その扉がこの日の桜坂劇場にまでつながっていることに、深い感慨をおぼえます。

そしてこの日、場内のお客さんが大きくうなずいていたのが、
「洞口さんには、演じるということで、何かを生み出し、残せるということを伝えたかった」
という當間監督の言葉。
私も以前書きましたが、人を魅了し、影響をあたえ、なにかのきっかけとなることにも、
生み、受け継がれてゆくということの希望を託すことはできると思います。

洞口依子さんのファンにとっては、この映画は、彼女がふたたび輝きだすまでの姿をとらえた作品として、
何度観ても胸にこみあげてくるものがあります。
役柄を差し引いても顔色に少し強張ったところが窺えた港のシーンから、
クライマックスであんなに美しい表情を浮かべるようになるまで。
そしてこの日、桜坂劇場の舞台に立つ彼女は、まるで『ドレミファ娘の血は騒ぐ』の秋子みたいに目をくるんと見開いたり、
不思議の国のおかしな生き物たちと茶会を開いているみたいに、いたずらっぽく笑ったりしているのでした。

「アタシがアタシをうむ」の言葉を待つまでもなく、本当に『マクガフィン』で彼女は生まれたのだなと、
あらためて祝福の言葉をかけたい時間でした。


(当初、「撮影は順撮り」と書きましたが、順撮りではないそうです。私の誤認です。訂正してお詫びいたします) 

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