Paititi Goes To Pop Planet/ 2007年11月16日 渋谷デロリでのパイティティ

1.チキンが焼けるまで

そういえば、前回は汗だくになりながらこの宮益坂をのぼったんだった。
夕暮れの冷気に冬の寒さがにじんでいるのを確かに感じながら、
3ヶ月ぶりに同じ場所を目指して歩きました。
それが、デロリ。50人も入ればいっぱいになってしまいそうなお店。

天井から脳みその入った籠が吊るされていたり、
ウォーホルのバナナがでっかいクッションになって、人食い植物のように誰かが座るのを待っていたり、
様子のおかしい人間みたいな人形が鎮座ましましていたり、
ロキシー・ミュージックやルー・リードやジミー・スコットが流れる空間。

「パイティティ、ポップ惑星に行く」と題された今回のイベント。
当初あったブラジルの色合いは、どっかに行っちゃったみたい。
前回は、ドアでメイドの格好をした女性陣がいて、メンバーもパイロットがいて、アラブの富豪がいて、
なぜか酒屋さんもいて、とにかく、よくわからないけどフライトというコンセプトが立っていたけど、
今回はそのへんもゆる〜くなっているような感じが、やけに和ませ、笑わせます。

カウンター前でゲラゲラ笑い合っていたメンバーが、ちょっと椅子の上のビールを取りに来たような
軽い面持ちでポジションについて、ライヴがなんとなく始まる。
もうこのグダグダな出だしから、パイティティの音は、(鳴ってもいないうちから)鳴っている。

やってる人間が楽しんで音を出すことが一番だ、というノリがさらに強まって、まずは男性メンバーのみで、
ジャコ・パストリアスの「ザ・チキン」なんて、明らかにメンバーの大半が少年時代にやられたであろうインストでスタート。
ブレイクがひたすらカッコいいこの曲、カオルさん(ドラム)の長い腕が踊るようにスティックを叩きつけます。
石田画伯も少年のように目を輝かせながら、鬼のようなカッティングをキメます。
熱いオヤジたちの燃えるような…おおっ、最年少のファルコン氏がなぜかまったく同様に、
「70年代を生きた」人のようなたたずまいで弾いている!
まったく、この若いギタリストは、なんでそうなるの?!どこまでやるの?ドンといってみよう!と
いつも呆れながら喜んでしまいますね。

それからヨシミさん。酒屋の御用聞きみたいな---というか、そのものの格好で、口琴をビヨ〜ンミヨ〜ンと鳴らす飛び道具。
毎回思うのだけど、この口琴の音が、聞こえてるようで聞こえない、あるいはその逆のときというのがオツなんですわ。

今回サポートで参加されたのは、ベースの坂出さんとサックスの齋藤さん。
このお二方が加入されたことで、今回のパイティティは一気にR&B指数を高めたと言っていいでしょう。
(ちなみに、坂出さんのバンド、ヒカシューはヨシミさんが口琴を手にする大きなきっかけだったそうです。
また、このバンドには一時期トルステン・ラッシュ氏も在籍しており、彼は『勝手にしやがれ!!』シリーズの音楽を担当された
ということで、世の中と言うのはよくしたものです。)

2.踊るファム・ファタール

この「ザ・チキン」が終わると、休憩をはさんで、依子さんのスライド・セッション。
ちょっとこれは後述にゆずりますね。

いったん引っ込んだパイティティは、依子さん抜きでもう一度ステージに登場。
ぜんぜん聴いたことのない妖しげなアルペジオ(和音を一音ずつ弾くこと)を画伯がゆっくりと弾き出します。
と、依子さんがフィンガー・シンバルを鳴らしながら登場。
これは「水晶玉の秘密」というタイトル(マイク・オールドフィールドが元ネタかな??)のインスト。

続けて始まったのはブルース・セッション。
ここで、前回同様、某航空会社勤務の佳人Nさんがマイクの前に立ち、機内アナウンスを読み上げるという粋な趣向。
こういう遊びと音楽とぶつける姿勢はパイテイティの本領ですね。

そこからはパイティティの王道ナンバーの演奏です。
、「パリのアベック」「アイスクリーム・ブルース」「ウクレレ・ランデヴー」「クロックワーク・ドールハウス」
そして「ボナ・ペティ」。
今回は、とくに画伯がノリノリでリラックスしています。
ノリノリでリラックスというのも変な言い回しですが、「ガンガンゆるゆるしようぜ!」とでも言いたくなるような、
遊ぶことに燃える姿勢がみなぎっています。
おかげでいくつかのギャグは空回りしましたが、それはそれで面白い。

「アイスクリーム・ブルース」は、今までわりと音響というか、酩酊感のほうが前面に出ていたと思うのですが、
この日の演奏は、ボトムを強調したリズム志向に聞こえました。ベースがかっこよかった!
これはこれで新鮮でしたが、この曲は思いっきりサイケに歪めてほしいです。もう、唖然とするくらいユラユラなのを、
一度聴きたいです。
パイティティにとってのブラックホールみたいな曲だと思うので。
「クロックワーク・ドールハウス」、ヨシミさんの低音コーラスが効果的でした。
「パリのアベック」「ウクレレ・ランデヴー」「ボナ・ペティ」は、これまで聴いた中ではいちばんファンキーな仕上がり。

そしてこの日の収穫は、最後に演奏された「宿命の女(ファム・ファタール)」。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲で、依子さんがヴォーカル。
依子さんによると、デロリで演奏するのでこの曲を選んだとのこと。しかも前日。
ワタシ、この歌にはいろいろ思い入れがあって、愛してやまない一曲なのですが、
この歌にこういう表情があったなんて思いませんでした。

依子さんの歌は、つぶやくように、囁くように、ときに痛いくらいに、でも感情をできるだけ露わにしない。
それよりもなによりも、「洞口依子の『宿命の女』」というのは、出来すぎじゃないのかと思うくらい似合う。
ワタシの知るかぎり、女がこの歌をうたうときというのは、完全に人生において何がしかの波を乗り越えたあとです。
「私は」ではなく「彼女は宿命の女」と繰り返されるリフレイン。「彼女」についての歌。他人事。
これを依子さんの歌で聴ける日が来るとはなぁ。ナマで。

バックでは、男性メンバーが総出で「She's a femme fatale」とコーラスを歌います。
ピンキーとキラーズか(「恋の季節」もカバー希望!)。
「宿命の女」を優しくユーモラスに包み込むような男性陣のコーラスを聴いていると、熱いものがこみあげてきます。
こういう「宿命の女」もあるのか。
そして齋藤さんのサックス・ソロが、迸りそうなくらいホットな情感にあふれていて。
ものすごくいい味。この歌をもっと好きになりました。
(この歌について、
こちら にも書きました)

パイティティが出番を終えると、ベリーダンスの時間です。
舞うのは前回同様、プラハさん。
今回はバンデイロという、タンバリンに似たスペインの打楽器を叩く長岡さんとの共演です。
8月のデロリでもめまいがしそうなくらいエロティークなベリーダンスを踊り、
そのあまりの熱気に店内が陶然とし、みんなが我を忘れて踊り狂ったあの夜の扇動者。
そして長岡さんのバンデイロって、なんでこんなに凄いのに、楽しそうに演奏されるのだろうか。
何をどうやってどう叩いてるのか、どう音が出てくるのかわからないくらい凄いのに、
長岡さんは、「ほら、こんなに楽しいよ、面白いよ」としか言ってないようなんだな。

圧倒されていると、プラハさんに手招きをされて、二人目のベリーダンサーがやってくる。
これが依子さん。
2人、向き合うと、それぞれに体を見せ合うように、悩ましく踊っている。
姉妹?恋敵?いや、恋人どうし?デロリだから、調教?いろいろ妄想がはじけとびます。
依子さんの踊りは、まったくの我流らしいです。
それでも、観ている人をトランスに陥れるような光を発散しています。
表現をするとき、自分を自分の中に押し込めていないんですね。

3. スライド天国

さて、後回しにしたままのスライド・ショウについて。

前回のデロリでのライヴの模様を白黒の躍動感溢れる写真に撮ったtsutomさんが、
今回はカラーで撮った依子さんの写真。
これに、依子さんのポエトリー・リーディングと、ファルコン、カオル両氏による演奏を
共演させる試みです。

写真は、店内奥の薄手の垂れ幕と、それを透かして向こうの壁に映し出されます。
じつは、店内の照明との調節に限度もあったのか、スライドは鮮明には見えませんでした。
それでも、このスライド・ショウに、私は心を動かされました。

ファンだから?
もちろん、そうかもしれない。
そりゃあ、好きな女優の顔が大きく映し出されていれば、それが楽しくないわけがない。
おまけに彼女は詩を朗読してくれる。
そこにすばらしいパーカッションと、すばらしいギターが寄り添う。

tsutomさんの写真は、ブログの
この日を境に、わりとよく目にしてきたもの。

最初、ファルコンのすでに何度か聞き覚えのあるアルペジオ(ファルペジオ!)に導かれるように
写真が映し出されたとき、私はてっきり「子宮会議」のリーディングが始まるものと思っていて、
少し心を構えました。
ところがそれは、詩だったんですね。
細部までよく聞き取れなかったけれど、たぶん、ブログで掲載された依子さんの詩だと思います。

missing loveという言葉のリフレインがある英語の詩も朗読されました。
missing love、不在の愛。
ファルコン氏のギターは、この日、いつになく感情をはっきりと前に出したようなエモーショナルな演奏で、
かきむしるような焦燥感に満ちたギターが、それに答えるパーカッションとの音楽による会話に発展していきました。
そうすると、目の前に映る依子さんの写真の、奥のまた奥の表情までもが見え隠れするようになる。

笑っている顔の奥にある泣いている顔。
無表情の奥にある笑顔。
露わになった肩のくぼみからイメージが広がる悲しい話。
その悲しい話を笑いをこらえて聞いている顔。
不安に曇りながら、シアワセの予感に笑い出しそうな顔。
ひとときのよろこびに綻ばせながら、どこかでその果てが視界に入ってしまっている顔。
どれひとつとして、単純な表情はないけれど、どれも余分なものがない。

こういう表現に出会えるところに、私は彼女の魅力があると思うし、
こういう表現であるからには、やはり依子さんには女優であることが必要なのでしょう。
これらの写真は、依子さんが「とにかくカメラの前に立って表現したい」と切望して企画したものです。
いま、こうして出来上がった作品を見て、その言葉の意味がわかりました。

それにしても今年は、ファンにとって忘れられない一年だな。
新しい洞口依子が誕生するのを目撃し、体験できた年です。
「体験」というのは、直接目の当たりにできたファンはもちろん、ブログやいろんなレポートで見聞きできた人もそうです。
そして、本当のお楽しみは、まだまだこれからなんですよね。



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