I'm Your Fan! 

洞口依子さんのファンにインタビューするコーナーです。


依子さんについて、たのしくおしゃべりできればいいな、と思ってはじめました。
鼎談でもそれ以上の数でもいいと思います。

ほかのファンのかたとお会いできる機会は限られるので、かなりの不定期更新は覚悟のうえ。

たまには依子さんにも猫だけでなく肴にもなってもらわなくちゃ。
(依子さんへのインタビューなどは、
こちら からどうぞ)


第6回 しのぶさん
 


「違和感やひっかかりのある存在」
(2009年12月5日 京都 伏見にて)

今回のゲストは、愛知県瀬戸市にお住まいの陶芸作家のしのぶさんです。
 しのぶさんは2009年11月の『洞口依子映画祭』に参加されて、
その初日、映像美の洪水に身も心も流されるようにして日帰りで戻られたそうです。
そのときの感想、とくにその日上映された『digi+KISHIN』のこと、
そして最近見たという『パンドラの匣』などなど、
たっぷり1時間半も語っていただきました。

京都ご出身のしのぶさんとは、里帰りされた際にタイミングをあわせて、
伏見の小さな喫茶店で、実がたっぷり沈んだ柚子茶を飲みながらの対談となりました。


しのぶさんは現在、瀬戸市にお住まいとのことですが、ご出身は京都の東山なんですね?
東山というと清水焼で有名ですが、そこから瀬戸へ・・・陶芸人生一直線ですね!

しのぶさん 
(笑)私が作るのはオブジェなどが多いので伝統工芸とはまた違うんですが、子供の頃から窯元が近所にある環境でした。 
幼なじみもそういうお家の子が多かったですね。 陶器屋さんの処分するクズで毎日遊んでました。 
ただ、あまりにも身近にあったせいでしょうか、陶芸に興味を持ったのは遅くて、20代半ばだったんです。
大学で絵画を勉強したんですけど、当時、友達が描いた作品を見たら凄くて・・・自分にはできないけど彼女はやってくれるんじゃないか!とまで思いました。


もともと、造形とまではいかなくとも、美術などには興味を持たれていたんですね。

しのぶさん 
小さい頃から絵を描くのは好きで、マンガを描いて友達に見せたら好評だったのでシリーズ化したり(笑)。
ホラーマンガだったんですよ。 『ハロウィン』というコミック誌が友達の間で流行って、影響されまして。
学校の美少女がいじめられて自殺して、いじめっ子が復讐される・・・ような話でした(笑)

「Jホラー」じゃないですか!それは、しかし、友達から「なに?この子?」とか言われませんでした?

しのぶさん 
「おもしろい!」「続きは?」と言われるままに・・・「おもしろい」って言わせてたのかも(笑)
それと、小学生の時に、官能小説みたいなものも書いていたんですよ。

小学生のときに? それも友達に好評でしたか?

しのぶさん 
まぁ官能小説といっても、今みたらきっと全然大したことないと思うんですけど、さすがにそれは恥ずかしくて捨ててました(笑)
そういうことを書くことイコール「罪深い」!という思いもありましたし。


小学生なりに、性に対して興味があるのと同時に、距離もあるんですよね。

しのぶさん 
私の親が性的な事柄にかなり厳格だったんですね。
あの、TVで『エマニエル夫人』を放映したときに、後から母に「見たやろ?」って問い詰められて、
「いや、見てない」って答えるような。 ほんとは見てたんですけどね!(爆笑)




で、初めて洞口依子さんを観たのは?

しのぶさん 
『マルサの女2』です。 中学生ぐらいのときでした。 TVで放映されたときに見ました。
出てくる大人の表情がギラついていて、ちょっと「触りたくない」(笑)くらいの感じがありました。
とくに、私がそういう潔癖な時期でしたからね。
そんな汚い大人たちに囲まれて、あの映画の洞口依子さんを「なんて可哀想な子なんだ!」と同情しました。
でも、最後のほうになると、包み込んでゆくような大きさを感じさせる。 お墓の中に入るのと、お腹が大きいということも象徴的ですよね。
最初は、父親の借金の担保にされて悲惨だなと思うんですけど、そうじゃない、汚されるだけじゃなくて、むしろ大人たちのほうが弱く見えました。

当時からそう思っていたんですか!当時、彼女は23歳で・・・

しのぶさん 私と同じ年代の、15〜6歳ぐらいかと思い込んでいました。 だからよけいに同情しそうになったのかもしれません。
彼女があの役で、女性の生理的な変化なども表現しているのもすごいですよね!
自分がそういうことに敏感な年頃だったのかもしれませんね。 三国連太郎さんに襲われるシーンなんか、ドキドキしました(笑)




『子宮会議』はどう読まれましたか?

しのぶさん 
読む前には、闘病生活が日記形式などで書かれたようなものかなと想像していたんです。
で、読み出すと「これは一人の女のひとのお話」って部分でグッと引き込まれました。 「お話」というところに。
女性にとって子宮は特別なものですけど、それが話しかけてくる、なんて文章は初めてでした。

「お話」ということだと、たとえば、昔話や童話でも怖い要素というのはありますよね。 
うまく言えないんですけど、それに近い感覚がところどころにあると思いました。
紙芝居のおじさんが出てくるところにある、「紙芝居を持たないおじさんは奇妙だった」という一行なんかに、ハッと掻き立てられる。
想像力だけでなくて、感情も掻き立てられるし、そういうものが意図的なのかはわからないんですが、ちらちらと出てくるのが。
そういう感じがなくても話はつながるんですけど、それがあることの違和感にむしろ魅せられる。
それを気にしなくてもあの本は読めるのかもしれないんですが、「見てしまう」んですね。


あ、「見てしまう」。 それはおもしろいですねぇ。
それに反応したり「見てしまう」のも、しのぶさんの中にある何かと作用しあっているんじゃないでしょうか。

しのぶさん 
(少し考えて)・・・そうですねぇ。 そういうものがないと、あまり興味を持たないかもしれません。
ツルンとしたものよりも、人によってはキモチ悪いとか拒絶するようなものがないと・・・「違和感」ということでしょうか、
そういうものへのセンサーが働くんでしょうね。

もちろん、『子宮会議』のドキュメンタリー的な部分に心を動かされるというのもあるんですよ。 
女性としてダイレクトに感銘を受けるところもあります。
ただ、洞口依子さんの表現ということに、私はもっと惹かれるんです。

  



で、しのぶさんは『
洞口依子映画祭』にも瀬戸市から来られたわけですが、これは初日でしたね?

しのぶさん そうです。 初日の朝から最後まで、ですね。

あの日は、まず宮田吉雄2作品(
『芸術家の食卓』『陰翳礼讃』)がありまして、 
その後は『部屋 THE ROOM』『カリスマ』、そして『digi+KISHIN』と。すごい一日でしたね〜!
あのとき、しのぶさんにお話して、言いえて妙だと思ったのは、
「こんな映像を立て続けに観たら、頭の中を言葉で整理できなくなります」とおっしゃったでしょう。 グチャグチャになりました?

しのぶさん 
(笑)なりましたねぇ。 それぞれの作品の印象的な映像が、パッパッと何度もひらめいたり。
最初に(洞口依子さんとTBSメディア総研の前川さんの)トークと開会の挨拶がありましたけど、
「はじまります!」って感じじゃなくて、脱力と言ったら失礼かもしれないですけど、
(前川さんが)「そういえば洞口さん、25周年だそうでおめでとうございます」という挨拶でしたし(笑)。

『芸術家の食卓』は、あれだけ食べることにこだわっているのに、実際に食べてる映像は無言だったり、「おいしい!」とか言わなかったり。


むしろ、なんともないといった表情で食べてましたよね!

しのぶさん 
調理方法はほんとに凝ってるんですよね。 スモークハウスを建てたり
・・・でも出来上がった料理をそっけなく見せてるでしょう。 あれがおもしろかったですね。

そのへんが、観る人によってはわかりにくいかもしれませんね。

しのぶさん 
『陰翳礼讃』は、たしか「日本女性の白粉を塗った顔を日本家屋の陰翳が際立たせる、あとは闇」
というようなナレーションがあったと思うんですけど、それほど暗い闇じゃないなぁと不思議でした。

なるほど。 ハイヴィジョンで作ったということと関係があるのかな。 
宮田吉雄さんが「自分のアイデアをなかなかハイヴィジョンで描けない」と悩んでいた、とトークの時に話題になりましたね。

しのぶさん あの、スッポン鍋をつつくシーンも印象的でした! おいしく食べているところなのに、これもどこか気味悪くて。

あれも「違和感」というか「異物感」というか・・・おもしろいですよね。




で、『部屋』なんですけど、最初の3分間、寝ませんでしたか?

しのぶさん 
ぜんぜん退屈しませんでした。 むしろなんてきれいな構図だろうと。 あれで惹かれました。
ふふふ、と笑えるところもあるんですよね。 超高級マンションの部屋に案内するじゃないですか。 あの部屋に麿赤児さんがいるだけでなぜか可笑しい。
洞口依子さんが、ずっと抑えて抑えて声も小さくて聞き取れないような芝居なんですけど、最後の部屋でタバコを吸うところで変わりますよね。
あれがカッコいい!と思いました。
画面の中の人物の位置とか、「構図」って言っていいんですかね、それがとにかく魅力的で、それで最後まで惹きつけられました。


で、逆にしのぶさんには『カリスマ』は・・・

しのぶさん 
わからなかったんですよ〜!(笑)  出てくる人のキャラクターも、難しいと思ってしまって・・・

敵なのか味方なのかはっきりしなかったり、観客を惑わすようなところはありますね。
風吹ジュンさんの役も、単純にエコロジーを訴えるようなものとは違いますしね。

しのぶさん あの人の役が一番怖いかもしれないです。 「木が毒を垂れ流している」って・・・これも単純には受け止めらないですよね。

そういう含みとか善悪入り組んだような曖昧さが、ぼくは好きなんですよ。 ラストは初めて見たとき「?」ってなりましたけどね。
でも、予想もできないような撮り方とか、そういうのもふくめて黒沢ファンにはたまらない魅力なんですけどね。




そして『digi+KISHIN』です。 いかがでした?

しのぶさん 屋外の裸を見ていると、本当に気持ちよさそうですね。 
なにもまとわないで、解放された感じがそのまま出てる。 「アカルイハダカ」ってこのことだなぁと。
 『digi+KISHIN』はヌードが多かったんですけど、男性の場合は、美しい!と思うこと以外に、やっぱりエロティックなものとしても見るんですか?

あ、もちろんです。 それはとっても重要なことだと思いますよ。 
昔の「激写」のグラビアが入っているのは知ってましたけど、最新のであそこまで撮っているとは思わなかったですね。
で、ただ「キレイ」なだけだったら、物足りなかったと思うんですよね。 それだけじゃないからの感動でもあるんです。
ある女性のご意見で、「途中から、自分の裸を見せているような気分になってドキドキしました」というのがありましたが。

しのぶさん 
あ、そうですか。 う〜ん、それとはちがって、私の感想は、
依子さんを見て・・・男性に近いかもしれないですけど、セックスしているみたいな、そういうドキドキをおぼえました。
女性なのに、男性になって、最初の章だとデートしているような、それから後に続くにしたがって・・・という。


見ていて思ったのは、スクリーンなのに、肌の水分まで伝わってくる!ということですね。 
それと、最初の『週刊朝日』の表紙が出てきましたよね。 そこから44歳のいまを見ていると、
年齢を重ねるということは、こんなに美しいことなのか、と感動しました。
今は、できるだけ若く見られたいとか若さを保ちたいとか、そういう風潮があると思うんです。
人に見られるお仕事ですからスキンケアとか、それはあると思うんですけど、そういう表面的なものじゃなくて、
内側からにじみ出てくる女性の色気というのがあって、それもあわせて、年齢を重ねていくということは素晴らしいことなんだ!って。

ぼくも今回は本当にそう思いましたよ。 昔の「激写」のものも良かったんですけど、内面から出てくる色気があって、それが年輪を積み重ねたうえで、
こんなにセクシーで可愛くて、もちろん撮ってる人の凄さがあるんですけど、そういうのがあるものなんだなぁと思いましたねぇ。

しのぶさん
 こうやって年齢を重ねていければいいなぁ、と思いました。

なによりも、彼女にとってこれが表現である、ということが大きいと思いますよ。

しのぶさん それは、「女優」として、ですか?

う〜ん、ジャンルを取っ払って、広い意味での「表現」ということだからこそ、これだけ感動したんだと思います。
ほかの、映画のときの彼女とまったく遜色ないし、それ以上のものがあるとも思うんですよね。
よく「若いうちに裸を残しておく」という言い方がありますけど、そういう次元とはぜんぜん違うものですよね。 「表現」だと思う。





しのぶさんは、先日、名古屋で『パンドラの匣』をご覧になったとかで。 いかがでしたか?

しのぶさん 音楽がよかったですねぇ。 あと、バスであの場所に入っていってバスで出て行くというのが、すごく見やすかったです。
ひばり役の染谷さん、彼がとてもよかったです。 17歳の自意識過剰なところとか、それで可愛いところもあって、ひばり役にピッタリですよね。
洞口依子さんのお母さん、声が艶っぽい! ひばりを呼ぶところの声とか、いいですよねぇ。
17歳の男の子なら、ちょっと胸がときめくんじゃないですか?


う〜ん、ま、その年頃だと自分の母親はウザいですけどね(笑)
でも、すごくよくわかりますよ。 少なくとも、あのお母さんはひばりのこと、大好きでしょうね。
思春期の男の子のお母さんって、息子に構いたがるじゃないですか。 息子はそういうのがウザいんですけど。
それが、ちょっと恋愛っぽいところに寄ってる雰囲気は感じました。
とくに2回目に出てきたときに、ね! あのシーンが大好きなんです。

しのぶさん ひばりに向かって、「送ってくださるんですって?」(笑)

あの敬語がいいんですよね、へへ。 それを受けるひばりのリアクションがあっさりしているのも。

しのぶさん 母親と一緒に公の場にいるということが恥ずかしい(笑)

でも、ちゃんと次の場面ではお母さんにもらったものを着けてるじゃないですか。 あの姿がいいし。

しのぶさん いいです!いいですねぇ。 衣装が素敵でねぇ。 
あのナース服は、「地獄先生」と同じですよね?

同じです。 ナースの人たちも、そうですね。

しのぶさん 「地獄先生」では、洞口依子さんのナースが、ほかのナースをチラと見てるのか見てないのかわからないのがいいです。

あ、そうか、ほかのナースがなんとなく見てるような見てないような、気を遣っていると思ってたんですけど、
それは気づかなかったです。 彼女もそうなんですね。 

しのぶさん そうですね。 依子さんカッコいいなぁ。
 
洞口依子さんを形容する言葉として、「小悪魔的」とか「妖艶」とか、いろいろありますけど、「カッコいい」というのは、それとは違う感じですか?

しのぶさん それとは別ですねぇ。 いろんな面があって、その中の一つが「カッコいい」。 でも、占めてる割合は大きいです。
自分があぁいうふうになりたいというカッコよさとは違うんですけど、どんなに頑張っても追いつけないカッコよさですね。

今後の洞口依子さんの、どういう活動を見てみたいですか?

しのぶさん 演技にしても、歌われるにしても、文章を書かれるにしても、いつも独特の奇妙な味のする洞口依子さんでいてほしいです。
違和感というか、ひっかかりのある存在であってほしい。
夢影博士はどうですか?


え? ぼくが質問されてるんですか? インタビューされたことないからなぁ・・・こんなに難しいものなのか(笑)。
そうですね・・・う〜ん・・・質問はなんでしたっけ(笑)? 

しのぶさん どういうものを見てみたいか、ですよ(笑)

そうですね、基本は女優であってほしいんですね。 
そうでなくても、なにかを表現したいと強く望む人で、ジャンルの垣根みたいなものを飛び越えちゃう人はいますし、
彼女はそうだと思うんですけど、女優はベースとして見続けていきたいです。
それと、これからも、洞口依子さんの魅力を本当に必要としているクリエイターと出逢われるといいなと。
それは冨永昌敬監督もそうだし、洞口依子映画祭で、若い世代に彼女の魅力が伝わるということがわかったので、
とくに若いクリエイターの人たちとの出逢いを見たいですね、はい・・・質問に答えるのって難しいんですね!
こんなの答えられないですよねぇ、こんなこと訊くなよ、ってくらい・・・すみません。

しのぶさん はい。 ありがとうございました(笑)


とんでもない墓穴インタビューになってしまいました!
この「ファン対談」は、ほとんど相手のかたの予備知識もないガチの状態で臨んでいるのですが、
質問する側も白紙ならお相手いただくかたも白紙。 で、当然、答えるほうが大変なはずです。
その気持ちが、最後の最後によ〜くわかりました。 海より深く反省。
にもかかわらず、これまで快くお話いただいた皆さん、ありがとうございます。

しのぶさんは、じつはとても柔和ではんなりした話しかたをされるんですけど、
文字に起こしたものを読むと、けっこう尖がったものを秘めてらっしゃるのがわかります。
というか、逆にそっちばかりが目立たないか、気になってしまいます。
「官能小説の件は、オフレコにしましょうか?」と訊くと、
「いや、笑ってもらえれば、それでいいですよ!」と、じつに関西人らしい価値観。

おかげで、トータルでしのぶさんが伝わることになったのではないでしょうか?
ありがとうございました!


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