『悪の仮面』(2001)

翻案ものぽいなと思ったら、原作はシャーロット・アームストロングの「あほうどり」という作品らしい。
倦怠期を迎えた夫婦(名取裕子、布施博)の夫が、旅先で誤解から一人の男の頭を殴ってしまう。
後になってこの男が死んだことを知った夫婦は、遺された彼の妻(小柳ルミ子)と彼女の車椅子生活の妹(洞口依子)を家に呼び寄せ、
親身になって新生活のための世話をする。が、この姉妹が徐々に夫婦の家庭を乗っ取り始めて・・・というのがおおまかな物語。

洗濯物やゴミ出し、それにキッチンの掃除など、妻が他人に入り込んでほしくないであろうテリトリーを、姉がひっかきまわす。
開き直ったり、哀れみを誘ったり、挙句はひとの亭主に秋波を送ったり、直接対決を展開するのは小柳ルミ子さんの役割。
洞口依子さんは終始むくれた表情で夫婦とコミュニケーションをとろうとせず、インテリアや服などに矛先を向ける。
同情されるはずの状態にある彼女が振りまく、主人公たちにも視聴者にも理由の判然としない拒絶感がドライで強力で、
姉とは別種の得体の知れない不安感をかきたてる。
私が翻案ミステリーぽいと思ったのはこのドライな感覚からで、依子さんの個性が、視聴者の同情をあまり買わない悪の役柄と
相性がいいということなのだろう(『50億を相続する女』でもそうだった)。
また、車椅子に乗った役どころの依子さんはあまり他では見ない設定だけれど、その視線の持っている力がどれほど強いのか、
家の中を移動する姿から発せられるオーラが十分に証明していると思う。

脚本は中島丈博さん。
洞口依子さんとの関連でいえば、『からくり人形の女』『炎立つ』『』がある。
私は脚本の当て書きといったことに詳しくないし、これら作品での彼女の役がどうなのかは知らない(『蔵』はあきらかに違うけれど)。
でも私は中島脚本の作品で見る洞口依子さんがとても好きだ。
どの作品でも、集団やコミュニティに属しきらない人間像と、洞口依子さんの醸す孤高の魅力とが結びついていると思う。
この『悪の仮面』では、平和な家庭に入り込んだ他者という設定にもちろんそれを感じることができる。
しかし、それだけではない。さらに皮をめくったところ、姉妹のあいだにある他者の部分が少しずつわかってくる展開で、
この妹が本当は何に「属しきらない」でいたのかが明らかになってくる。
それまでの挑戦的な態度の中に自我のもろさを忍ばせて、依子さんの演じる変化が新たにサスペンスと謎を惹き起こすようになる。
私はここがとても面白かった。


2001年9月9日(日)21:00〜22:54 BSジャパン
2001年9月12日(水)20:58〜22:48 テレビ東京
「女と愛とミステリー」にて放送

シャーロット・アームストロング 原作
中島丈博 脚本
久野浩平 演出

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