『浅見光彦シリーズ26 津和野殺人事件』(2008)

(当サイト「洞口日和」は、洞口依子さんを応援するサイトです。
この『津和野殺人事件』の解説は、依子さんを中心に語るもので、
いわゆる作品解説とは趣旨が異なります。
また、ネタバレです。真相も犯人もばらしています)


加藤治子さんのあの笑顔と笑い声。
とくに、どんな辛い出来事のさなかにでも「あはは」と張り上げて笑うあの声、
あれを聞くだけでなんだかジンワリ切ない気持ちになります。
浅見光彦のお母さん役です。
そして、同じ場面で顔合わせはありませんが、かつての向田邦子ドラマを思い起こさせる、
洞口依子さんとの共演です。

それだけではなく、物語の中心となる旧家の大奥様を演じるのが岡田茉莉子さん。
岡田さんも『タンポポ』にテーブルマナーの先生役で出演されましたが、
あの映画の構成上、依子さんが共演したとは言えません。
今回は、依子さんも、憧れの岡田さんとの共演にすっかり舞い上がったようです。
(→http://blogs.yahoo.co.jp/yoriko3182006/43000939.html

依子さんにとっては、フジテレビの『金沢殺人事件 』(浅見=中村俊介)以来、
5年ぶりの「浅見光彦もの」出演となります。 
また、この『津和野〜』も、フジで一度作られたとこがあります。

津和野の旧家、朱鷺家の本家分家の長が一堂に会するものものしい集まりがオープニング。
「大奥さま、お入りになります」とひと声かけて、下座の端に座って手をつくのが依子さん。
この家の使用人、敬子です。
その感情を押し殺したようすは、まるで『山のあなた 徳市の恋』で演じたお凛が、
そのまま津和野で雇われたかのようにも思えたりします。

岡田茉莉子さんの数歩後を伴して庭前を歩く場面などもそうです。
歩くあいだ、両手を前に組んで大奥様の肩のあたりを見ています。
そして、奥様がふと立ち止まって、庭の木々などに目をやると、
最初はその同じ方向を見るのですが、やがてそっと視線を足元に落とします。
大奥様と彼女に代表される朱鷺家の由緒に畏敬を感じながらも、
それとはべつの気持ちをどこかに隠し持っている。
つまり、この女性をマークせよ、と。
そのことが視聴者にさりげなく伝わる場面です。

この敬子という女性、大奥様の息子で当主である慶四郎(村田雄浩さん)と恋仲にあります。
2人のことがどこまで公になっているのかはつかめませんが、大奥様は「知っていました」と述べているので、
敬子の薄曇ったようなようすには、そのあたりの後ろ暗さもあるのでしょう。
そのいっぽうで、慶四郎と交わす笑顔は、自然にほころんだような柔和さがあります。

大奥様の命を受けた慶四郎を手伝って、浅見光彦たちを尾行する敬子。
気づかれて逃げるとき、彼女の草履がぬげて立ち往生しているところに、慶四郎があらわれます。
ぬげた草履を慶四郎に履かせてもらっているあいだ、彼の肩につかまって、
はにかんだようにうっすら微笑む敬子。
その直前までの思いつめた曇天の表情から光がさしたかのような笑顔です。
古いたたずまいの津和野の町並みの中で、奥ゆかしく微笑ましい大人の純情が点描されて味があります。
そのいっぽう、彼女の役割が明らかになったとき、犯した罪がどういう思いを背負っていたのか、
この照れた笑みが重要になってきます。

慎ましくまた有能でもあろう使用人の敬子を、依子さんは、可愛さと情念を秘めた女性として演じています。
冷静さと同時に、じつは人間くささを併せ持った女性像は、彼女の犯行が描かれるとき、
毒殺したばかりの男を見て吐き気をこらえる細かい表情からも伝わりますね。

ロケがとても美しいです。
さすが水の町として名高いだけあって、川といい側溝といい雨といい、後半はとくにその音もまじえての、
潤んだ情緒が魅力です。
また、岡田茉莉子さんの後ろに洞口依子さんが控えて座っている室内での絵など、
まるで映画を見ているみたい。 


2008年9月29日21:00〜22:54 
TBS系「月曜ゴールデン」枠にて放送

内田康夫 原作
石原武龍 脚本
村上牧人 演出

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