『金沢殺人事件』(2003)

浅見光彦シリーズの、フジテレビ版第15作。
榎木孝明さんからバトンタッチした中村俊介さんの浅見第一弾で、
この回の視聴率は、19.7%もあったそうです。

これ、制作はたぶん、2002年の夏ごろですね。たぶん、このあと冬に『ノースポイント』の小樽ロケ。

夏の金沢は、ちょっと時間が止まったような不思議な味わいがあって好きです。
おもに登場するのは東茶屋街と兼六公園。
泉鏡花とか、あっちの耽美的な町並を依子さんが歩く姿を見てみたいですが、
今回は能登や東尋坊の方面へ場面を切り替えてますね。なので、純粋に金沢の話ではないです。

以下は思いっきりネタバレなので、犯人が誰か知りたくないかたは、以下なにがあっても読まないように。
というような断りをあえて書くほどのことでもないのですが、いちおう、マナーなので。

で、依子さんなんですが、本格的に登板するのはドラマの後半から。
東京で起こった殺人事件の目撃者である音大生の女性が金沢で殺されます。
依子さんは彼女の高校時代の担任教師で、いまは加賀友禅の作家。

登場するのはこの教え子の通夜の席です。
この段階で、2時間サスペンスのファンなら、
「おっ、今日は洞口依子の(犯人の)日か」と軽く納得するんでしょうね!
いいなぁ、「おっ、今日は洞口依子の日か」って。 晩飯のカレーみたいで。

浅見光彦というと、榎木さんの印象が強くて、中村=浅見ではまだ視聴者を惹きつける基盤があやういと
判断したのでしょうか、依子さんのこの犯人ぶりで磐石と言ってもいい安定感を持たせています。
前半にチラ見せ程度に出ておいて、後半の流れを一気に太くしていますねぇ。
さっき、「登板」と書きましたけど、本当に「真打登場」のスケールを感じさせます。

中村俊介=浅見光彦は、いま見ると劇団ひとりによく似てますなぁ。
ここでの浅見は、セリフの大半がオウム返しです。
警部が「金沢なんですよ」と言うと、「え?金沢?」
「加賀友禅の作家で」「加賀友禅?」
「ダムの底に沈んだんです」「ダムの底に?」
「能登の花火大会ですよ」「能登の花火大会?」
こいつ、大丈夫かいなと思わせといて、事件を解決するんですね。
犯人や警察や視聴者を油断させといて、じつは鋭い探偵(本職はルポライター)です。
対する犯人ですが、あまり油断させません。
浅見の幼児性に、大人の女性の色気で対峙します。
つまり、「年上の女」ものの変種として見ることができます。

ヨーリー・マニアとしての視聴ポイントは、繭から織布するシーンの依子さん。
依子さんのことなので、きっと嬉々として機織りにチャレンジされたんじゃないかと思うんですが、
映っている表情は、馴れない作業を健気に根気よく、多少くじけそうになりながらも頑張る姿です。
ちっとも浮ついた感じがないのは、やはり真剣に挑まれたからなんでしょうね。

おでこから下の、顔のアップが目立ちます。
瞳が画面中央から心持ち下にきて、さらに目線がうつむいているので、ものすごく贖罪感が醸し出されます。
これでもう少し仰角のショットがあれば浅見と大胆不敵に対決する、の図になるんでしょうが、
じつはやむにやまれぬ事情持ちの、年下の若者の庇護欲をくすぐる「弱い年上のひと」なんですよね。
そんなこと、ストーリーのどこにもありませんが!

あと、依子さんのうなじをカメラがしつこく追いかけるところが印象的です。
ヒッチコックの『めまい』なんでしょうか。キム・ノヴァクより色っぽい、洞口依子のうなじ。

いまの依子さんで、『めまい』を見てみたいです。あぁ見たいなぁ!
『めまい』の決定版が生まれると思うんですが。
「『めまい』の決定版」という言い方も、われながらムチャクチャですが。
刑事は、やっぱり、役所さんかなぁ…
監督は…誰にお願いしましょ、ねぇ?

2003年2月28日フジテレビ系列放送
内田康夫 原作
峯尾基三 脚本
小平裕 演出

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