『メトロポリタン・ジャーニー/ 台湾編』(1996年)

この1996年に、洞口依子さんは計3回、『メトロポリタン・ジャーニー』に出演しています。
上海編」「バンコク編」、そして番組の構成に若干の変更があった秋、11月に「台湾編」。
2組のプレゼンテイターのおすすめ観光プランのうち、選ばれたほうをゲストが実際に体験する、という
それまでの構成からプレゼンの部分がなくなって、2組のゲストが2種類の体験レポートを案内して競う、
というものになっています。

今回依子さんとレポート対決するのは、蛭子能収さん。
もう、これだけで勝負はあったようなものですが、蛭子さんならではの漫然としたレポートで案内される台北も、
『悲情城市』(!懐かしい…)のロケ地・九份(ジュウフン)の佇まいが魅力的です。
「洞口依子が『悲情城市』と歩く」…「洞口日和」的にはかなりポイントが高かっただろうと思うのですが、
まぁそれはともかく。

蒋介石によって戦火をかいくぐって運ばれた歴代中国皇帝の財宝と、戒厳令以降に花開いた不夜城・台北の食を体験する。
それが今回の依子さんのプランです。
「上海編」の時の毛沢東、今回の蒋介石(そして『素顔がいちばん』の時のゲバラ)、
そういう人名を口にすることに何ら違和感を感じさせない女優・洞口依子。 そしてそれらを異様に妖しく色っぽく響かせる洞口依子。
だいたい、この番組でオープニングから「戒厳令」という言葉が出てきて、しばらくのちに依子さんが登場すると、
世の「戒厳令」という言葉は洞口依子に発語されるために作られたのではないかと錯覚してしまう。
そして今回も、当時まだ台湾は初めて行ったという彼女の「観光の天才」ぶりが遺憾なく発揮されていて楽しめます。

最初に向かったのは関渡媽祖宮(クワントゥマァズゥコン)。 17世紀に建立されたらしい道教の大きなお寺です。
ここでは、軽くウォーミング・アップがてらに露店の綿菓子を味見。
「うん、綿菓子は、日本と変わらない味ですね」と、やや当てがはずれたような雰囲気をかもし出してヒヤヒヤさせるも、
露天商のオジサンが綿を長〜く宙に引き伸ばして作る技を見てけらけらと笑い出す。
その笑顔が、子供の頃に目を丸くして夜店で買い求めた綿菓子の懐かしい味をほんのり思い起こさせて、うぅむ、できる。

次は故宮博物院。
ここに前述の中国皇帝の膨大な財宝が所蔵されているとあって、依子さんのテンションも相当に上がっています。
特に中に入ってからの浮き足だちかたがすごい。 
興奮した様子でカメラマンに語りかけながら進めるレポートは、つまり視聴者に直に語りかけているようにも感じられるし、
彼女がカメラに語りかけると、それがヌーベルバーグ風の「話法」にも見えますね。

続く康楽市場では、観光客の列からはずれるように狭く湿りきった迷路のような路地を抜けて、龍門客棧餃子館なる店へ。
出てきた評判の餃子に舌鼓を打ちながら、「これは北京の味…北の味がする。 北の餃子みたいに皮が厚い」。
北京の餃子の皮がどれほど厚いか、私は知らない。 知らないけれど、この言葉には参ってしまう。

それから、上海料理の陶陶(タウタウ)へ移動。
アワビのオイスターソース煮、そしてマナガツオのネギ醤油ソースを口にした瞬間、
満面の笑みを浮かべて、「"#$%&'(&'())|~"%!!!!」と、猫がキーボードの上を歩いて出来たような言葉で喜びを表現します。 
ここが今回の最大の見どころです。 

上海編」の解説で書いたことと重なりますが、彼女のちょっとした言葉の背後に蓄積された経験と知識がさりげなく覗いて、
それがレポートに心地いい「しなり」をもたらすんですよね。
だからと言って、現場での彼女はまったく斜にかまえて見えない。 
その瞬間、その場所のいちばん肝のところ、自分の感覚に快いところに、ポーンと飛びこんで行く。
その感性の反射神経的な動きは、こういう旅番組で鮮やかに発揮されると思います。 そして、言葉に表すときの「しなり」の良さ。
この『メトロポリタン・ジャーニー』という番組は、洞口依子さんの旅人としての魅力を見せてくれたいい番組でした。
観光の味蕾が発達した彼女のような人こそ、こういう番組にはふさわしいと思います。

最後には、蛭子さんが訪問体験した豪華理髪店(2時間半かけて全身をマッサージしてくれる。1万6千円也)に、
依子さんも「自由時間に行きました」と大笑いしながら告白します。
蛭子さんには悪いけれど、この回はぜんぶ依子さんのレポートで見てみたかったです。



1996年11月13日
フジテレビにて 21:00〜21:54放送 

(「旅人・洞口依子」の番組なら、『NY者』も!)

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