『メトロポリタン・ジャーニー 上海の巻』(1996年)

これまで、「プログレ女優」に始まって、「世界一の放心女優」だの「チェシャ猫」だの「世界一怠惰なモギリ嬢」だの、
私も洞口依子さんに対していろんな呼び名を考えてきましたが、久しぶりに発動いたしましょう。
「観光の天才」。
そうとしか言いようのない見事な旅番組ナビゲーターぶりを見せてくれるのが、
『メトロポリタンジャーニー』のこの回です。

番組は、いわばクイズを抜いた『なるほどザ・ワールド』。
最近、若いかたが読んでくれてるみたいですけど、この例え、通じるかな?。

番組は、ひとつの土地に関して、前半で2組の「通」がツアープランのプレゼンを競い、
選ばれたほうを、パネラーの一人が実際に体験します。
この回、上海の見どころをプレゼンするのは景山民夫さんとジャーナリストの小西克哉さん。
先に書いてしまうと、選ばれた小西さんのプランを体験するのが、洞口依子さんです。

スタジオにいるのは、まず総合司会が里見浩太郎さん。
そこに実質的な仕切りの小倉智昭、島田紳助、石田純一、浅野ゆう子の各氏が顔を並べます。
昨今、せちがらい台所事情を伝え聞くバラエティーの現場からは隔世の感あり、です。

前半はスタジオでビデオを見ていまして、じつはここもけっこうマニアには楽しめます。
とにかく、依子さんがよくリアクションをしているし、おもに音声でコメントが拾われています。
ちなみに、この時期、まだこの番組では、「なぞりテロップ」はいっさい使用されていません。

依子さんは、こういう海外の映像を見るのがきっと好きなんでしょうね。とてもリラックスしています。
上海の道路を大胆に横断縦断斜断してゆく自転車の様子に、「オ〜ノ〜!」と声をあげたり、
動物園で金糸猴が映ると嬉しそうに見入ったり、毛沢東バッヂを見ると「マオツーテンバッヂ!」とはしゃいだり。
この毛沢東バッヂに喜ぶ洞口依子の姿、というのは、「映画史的に」(爆笑)正しい絵、でありますね!
私のような洞口者は、この様子を見てはしゃいでしまいます。

東方タワーのディスコの話題が出ます。
紳助の体験談。「そう、あのディスコ、怖いねん。19ぐらいの粋がった兄ちゃんが、17ぐらいの女連れてて、
小林旭の映画みたいな乱闘があんねん!」
その話に小躍りして喜んでいるのも依子さんです。

小西氏がスタジオに持ってきた上海の怪しいおみやげの数々。
豫園というところで買った、かなりトホホな「王様のアイデア」グッズばかりで、
ケッサクなのは「手動ビデオテープ巻き戻し機」。ハンドルでクルクル巻いていくだけの「機」なんです。

さて、選ばれた小西氏のプランを早速実行。
たぶん、スタジオ収録からあんまり日が開いていなかったんじゃないでしょうか。

依子さんは他の番組でも中国語を披露したことがありますが(「紳助のH2O」でもありましたな)、
ここでもタクシーに乗る際や買い物の際にしゃべっています。

タクシーでは、後部座席に案内されるのを、「わたしは助手席に乗らなきゃならないの」と
運転席とプラスティックの仕切りで隔てた隣席に。
そして、実際にまるで舳先をかすめ飛ぶカモメのような自転車や歩行者の通行に驚きます。
ホテルでゆっくり休むまもなく、豫園の市場でショッピング。
まずは屋台で「泡泡水(ハオハオピン)飲料」なるあやしげな飲み物を入手。
これは、ふつうのオレンジジュースにドライアイスを入れて泡を立てただけのもの、だそうです。
かなりウケてます。

それから、これも小西さんオススメのおしるこ。
木の実をつぶしてピーナッツバター状にしたものらしく、ひとくち試したときの表情があまりに正直で笑います。
「おいしくな〜い」
じつは、このしかめっ面が、なかなかポイント。キャプチャするなら、まずここ。してませんけどね。

お目当てのグッズにも出会えました。
お尻を叩くと泣き声をあげる赤ん坊の人形にケラケラ笑い、バッヂではありませんが、マオの顔をプリントしたライターを発見。
値切りを中国語で交渉。40元で2個、手に入れました。バッヂもいいけど、このライターもほしくなります。

依子さんのこの豫園の感想は、☆☆☆(5点満点)。

夕食には地元の人たちしか行かないというレストラン「沈記」。
メニューを見ながら、いちばん値段の高いものを指し、「この、ナントカ孔雀って書いてあるのを」と注文。
見るからに大がかりな鍋の蓋を開けると、ドロドロに濁ったスープ。
「なにも見えないよ〜・・・とかなんとか言っちゃってぇ!」とスープをかきまわすと、出てきました、孔雀の頭!
これをスープ皿に添えて、「孔雀キッス!」と言いながらかぶりつきます。「うひょ〜!って言うくらいにおいしいです!」
この店の評価は☆☆☆☆☆!

翌日は疲れた体を引きずりながら、大観園なる『紅楼夢』のテーマパークに出かけます。
少しご機嫌斜めのようなところも伺えますが、いざ大観園に入って、清王朝の頃のコスプレ体験コーナーに来ると、急に目が輝きます。
もちろん、試さないはずがありません。みごと、『紅楼夢』の花嫁衣裳に身を包み、婚礼の輿に揺られて大満足。
「嫁入りで〜す!洞口、嫁に行きま〜す!」と満面笑みで叫びます。
(彼女がじっさいに輿入れしたのは、この半年後のことでした)
帰路のタクシーの中では、遊びつかれた猫のように寝入っています。

この日はさらにここから次のプランが待っていました。
17世紀の町並みを遺している周庄という村へ。
いわゆる特別保存区域なんでしょうか、入村料を払って中に入ると、「どんどん昔へさかのぼっていくみたい!」。
真ん中を運河が走っている水郷の村で、、お婆ちゃんの船頭さんが歌をうたいながら舟を漕いでます。
その川岸では、洗濯に励むおかあちゃんたちがいます。
なんと半分以上の家屋が、明、清の時代のものなんだそうです。行ってみたい!
(こんなのありました→http://www.youtube.com/watch?v=100Lw-J4qn8&feature=related
「セットじゃないんだよ、昔からある、本物なんだよ!」
「不思議な匂いがするのよ、町自体が!」
依子さんも興奮してレポートしています。
舟の上では、船頭婆ちゃんに習って、一緒になって歌をうたい、漕いでいます。ここ、とってもいい絵。

ただし、この村の淡水魚料理は、あまりお口に召さなかったようです。
ナマズのあんかけ炒めに、「油っこい、 気持ち悪い」とストレートな反応。
残念ながら、この料理に限っていうと、☆一個だそうです。 

村から戻っても、まだ終わりではありません。
くたびれはてた表情で、外灘をトボトボ、スーツケースをひきずって目指すのは、
揚子江クルージングの客船、リーガルチャイナ号。
これも用意された特等船室の素敵さに急に言葉が弾みだします。本当に正直。

純白のチャイナドレスに身を包んでの、ナイト・クルージング。
あまりの夜景の美しさに、「寒さじゃなくて、感動で震えてしまう!」と目を潤ませます。
「わたし、もし大昔に上海に来てたら、参ってしまってたと思う!昔の人たちが上海に憧れた理由がわかりますね!」

それから、船内でトップモデルたちによるファッションショー。
顔もスタイルも素晴らしいモデルたちの腋の下は、裸足の神もびっくりの、天然の草原です。
依子さんもウケてます。
「なんかさ、エッチだよね〜」

さすがに疲労困憊のなか就寝となったはずですが、揚子江の朝陽を拝むため、朝5時起き!
メイクもそこそこ、誰がどうみても数分前に起きた顔でデッキに出ると・・・!
曇りで太陽は見えませんでした。
エベレストに続く世界の名勝を望めるか!と思っていたのですが。
「一番楽しみにしてたのに〜!」ということで、このクルーズの評価は☆☆☆に落ちてしまいました。
でもたぶん、いま冷静に振り返ったら、夜景の美しさのほうが思い出として勝っているんでしょうね。

全体としては、「スケジュールがタイトすぎて 移動が多すぎたので☆☆です」と、いささか厳しい評価。
これも、帰りの空港前での感想なので、当時の実感なんでしょう。
お婆ちゃんの船唄を口ずさみながら空港に入ってゆく足取りも軽快に、番組は終わりを迎えます。

後半30分、実質20分弱の中に、依子さんのまっすぐなリアクションが心地よくはじけます。
彼女は、自分の中に蓄積してきた経験や知識を、一度まっさらにして新しい土地に臨むことができるのでしょう。
しぐさや言葉の用い方に、とっても知的なセンスが光るんですけど、それが素直さや愛嬌を伴って表に出るのが魅力。
才能なんだよなぁ。観光の天才です。

こういう番組を、まとめてプライベートに上映できないものかと、常々考えております。
リクエストが多ければ、実行にうつしたいですね。

1996年6月12日(水) 21:00〜21:54
フジテレビにて放送

(『メトロポリタン・ジャーニー/台湾編』もどうぞ!) 

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