ジュテーム〜わたしはけもの』(2008)

(当サイト「洞口日和」は、山藤純子役の洞口依子さんを応援するサイトです。
この『ジュテーム』の解説は、依子さんのキャラクターを中心に語るもので、
いわゆる作品解説とは趣旨が異なります)


前に『愛という名のもとに』について、洞口依子さんの出演場面のみ解説するという、
グーグル・アースの「拡大」クリックみたいなことを試みて、
あの番組のファンのかたから呆れられたり喜ばれたりしましたが、
ここでもそれを試みることになるのでしょうか?

現段階では、まだ各回で依子さんがどれくらい登場するシーンがあるのかは不明です。
なので、思いきって端折る回もあるかもしれませんが、そこは「ジュテーム〜わたしは怠けもの」ということで。

なお、監督の星田良子氏は『海猿2』で依子さんと仕事をしています。

vol.1 (2008年4月10日放送)

昼は百均ショップ(ダイソーが協力してます)でアルバイトしながら、
コールガールの世界にも足を踏み入れていく21歳の由佳を、芦名星さんが演じます。
彼氏ともしっくりいかず、ある日、偶然、飛び降り自殺する女を目撃した頃、
夜の仕事をやらないかと声をかけてきた女がいます。これが依子さん演じる山藤純子。
第1回は、コールガールのアルバイトを始めた由佳が、最初の客をとり、
その帰りにタクシーの運転手に叱責され乱暴されそうになったところを抵抗し脱出、
世界がジャングルなら、わたしはけものになる、と腹をくくるまでの展開です。
自殺した女の遺書にあった「わたしを勝手に理解しないでください」という言葉が、
由佳の心の叫びとシンクロしてきます。

依子さんの山藤純子。
細かい設定はまだなにもわかりません。たぶん、明らかにはされないんじゃないでしょうか。
年齢も不詳ですが、このネーミングには、21歳の「村上由佳」との差別化が感じられます。
まぁ、純子という名前には昭和の匂いがしますし、「藤純子」が織り込まれているのが、ちょっとイカす。
これだけで、娘盛りを渡世に賭けた感がにじみ出ます。
「由佳」は、ちょうど彼女が生まれたと思しき1987年頃に女の子の名前として流行していたような気がします。
このへん、2つの世代をめぐる何かが絡んでくるのでしょうか。

芦名星さんが自転車に乗って街を行く姿があったり、動的なイメージで撮られているのと対照的に、依子さんは静的です。
2人が出会う真昼の街角の場面は、由佳の動が純子の静に吸収されるかのようで、
また極力セリフを絞って、そのあとカフェで話すような説明を入れたりせずに、ぷっつりと切れさせています。
そして、やはり依子さんのまなざしがいい。
いろんなものを見てきたであろう純子の、世界を冷静に見据えている経験値の高さと、
どこかで由佳の苛立ちとも共振できているかのような、幸福の不全感。

そしてなによりも、この純子の人物造型には、洞口依子ファンとしては、やはりあの女の影が、ちらついてしまいます。
言っちゃおうかな。
次回、確認してからにしましょう。
ふふ。あの女。

vol.2 (2008年4月17日放送)

相変わらず、昼はダイソーでアルバイトしながら、コールガールとしても働く由佳。
ある日、彼女の安アパートの鍵が盗まれ、留守中、何者かに侵入される事件が起きます。
鍵を付け替えるまでのわずかな間、不安に苛まれている彼女のもとに、山藤純子からの電話。
新しい客が、女性2人との「パーティー」を希望していると。
出向いた由佳ともう一人のコールガールを前に、大金をちらつかせる若い成金男。
お客の要望に快楽を演じながらもそれを楽しんでいるパートナーを、由佳は「きれい」と思います。
そして、自分もきれいになってやる、と決意するまでがこの回。
今回も依子さんが司令塔というか、仕事の仲介人として登場します。
このシチュエイションだけで、『勝手にしやがれ!!』シリーズにおける羽田由美子役、
闇の仕事を卸す謎の女を想起しないわけにはいきません。

コールガールのグループでどういうポジションにいるのかはわかりませんが、
『ジュテーム』の山藤純子も、由佳に仕事を与える、プロフェッショナルの女です。

由佳のアパートの部屋と比べると、嘘のように広く、光をいっぱいに取り込んだ真っ白い部屋で、
山藤はソファに腰かけ、窓辺にもたれています。
狭く生活感のある部屋にいる由佳に、焦りや迷いからくる動の表情があるのに比べると、
山藤はいつも沈着冷静で、そしてどこか悲しげでさえあります。

この表情がこのドラマでの洞口依子さんのポイント。今のところ。
とくに今回、由佳のもとにストーカーが侵入した件を聞いて、ほんの二言三言、彼女に恋人や友人がいるかを聞くところ。
いいですねぇ。カメラもいいところ撮ってくださってます。
ホント、前の『海猿2』のときも思いましたけど、いろんな角度から顔を撮るんですよね。とくに斜め。
山藤の顔は、正面からが多いように思うんですが、ときどき、顎下あたりから撮った絵がきれいにはさまって。

洞口依子さんの場合、カメラがじっくり顔をなめまわすようにとらえて、「この女には何があるのか?」という興味を
かきたてるような絵を見ることが多いのですが、この作品では、あたかも静止した彼女のイメージが積み重なるかのようです。

前回の解説で、由佳が山藤にスカウトされる場面が長くない、と書きましたが、小出しになって挿入される趣向みたいですね。
由佳が何度か精神的に躓きそうになったとき、その原点のようなモチーフとして出てきます。
そしてその回想(と言っていいのかな)シーンでは、依子さんの静の力が、なにげない街の風景を悲しいような切ないような色で
染めてます。

羽田由美子のことを書きましたが、あのときと現在の依子さんの持っているものの違いが、
似て非なるふたつに仕上げているのではないでしょうか。

山藤は、生と性のどちらの意味でも美しく強く生きるよう由佳を導く役割に思えるんですが、
美しさと強さを口にするときの、依子さんの儚げな目が、もう、最高、たまらなく素晴らしいです。
弱きもの、さ迷う者を、慈しむような目です。
それでいて、プロの厳しさがある。こういう依子さんは、はじめて見た気がします。
新しい魅力の開花と言っていいと思います。

コールガールというと、どうしてもお客と電話でつながるところから始まるように思いがちですが、
由佳が電話でつながってるのは山藤なんですよね。
電話をかけてくるのは山藤なんですけど、由佳にとって、レスキュー的な意味合いがあります。
でも、それは山藤にとっては・・・?
そのへんに注目したくなりました。

女は、快楽を商売にしながら、ちゃんとそれを愉しむことができる、という言葉を今の依子さんから聞くと、
うれしくて、泣きたくなっちゃいます。とても重く響く言葉ではあるのですが、カッコいいです。
それでこそ、洞口依子。強くて悲しくて美しい。
依子さん、やっぱり女優続けてよかったよ、ほんと。



vol.3 (2008年4月24日放送)

今回は由佳の携帯待ち受けのアップに、「山藤」の文字が飛び込んでくるところからです。
若手代議士のもとへ、「プレゼント」として派遣するよう、ある人物からの依頼。
この代議士・進藤が加藤雅也氏。これまでも数カットずつ登場していましたが、ようやく本登板です。

豪華なホテルにある進藤のプライベート・オフィスを訪ねる由佳ですが、
陰謀の臭いを察した進藤は、人目もあって彼女を帰すに帰せず、部屋の中にいるよう命じます。
コールガールという職業と、それをカジュアルに務める女を憐れむ進藤に由佳は反発。
そっちこそ偏見の塊りじゃないかと口論になりますが、進藤もまた誤解を受けやすい人間であると知り、
コールガールと客としての関係を築こうと、服を脱ぎます。ここまで。

これまでの回は、由佳の質素な部屋と山藤の部屋、そして客のいるホテルの部屋との対比がありましたが、
この回は、ほぼ全編を通じて、生活感のまるでない進藤の部屋。

進藤に部屋から出ることを禁じられた由佳が、山藤に電話し、状況を説明すると、「誘惑してごらんなさい」と笑う山藤。
そうです。ここへきて、ようやく封印をといたかのような笑顔。

しかし、この部分、ちょっとトリッキーなセリフになっていまして、
「誘惑してやったら?私なら絶対、こっちを向かせてみせる・・・って、そう思って」というアドバイスです。
一瞬、山藤純子が「私なら誘惑してみせるわ」って言ってんのかと思い、ドキドキしました。
すでにもう、彼女のキャラクターというもの、その言動の範囲が、私の中には想定されていたんでしょうね。
あんまり、そういうニュアンスでの色っぽさで来るとは、思ってなかった。
これまで幾多の悪女を演じてきた洞口依子さんの、必殺の一撃を感じました。

このセリフを言うときの依子さんの目が妖艶そのもの。
電話を片手に、室内を二、三歩歩きまして、ソファに体半分沈めて、
自分の手を顔の前にかざして、あいまいな視線を注ぐ。
まったく、だれが誘惑してんだ、ってくらいの濃度です。かといって、ねっとりしてない。
透明感のある妖艶さなんですね。
ここはもう、伝家の宝刀と言いますか、お家芸と言いますか、
しかし、山藤って、何者?

やはり斜め上からのアングルが刺激的です。
これまで、依子さんをこのアングルから印象づけられたことって、あんまりなかったと思います。
それから、「引き受けてくれるかしら?」のときの、振り向いた顔。ここも美しい。
こういうところに、まだまだ羽田由美子っぽさを思い出してしまいます。

依子さんの基本姿勢はソファに腰かけています。
その姿を、正面やや斜め下から、画面の左側にとらえる絵も、このドラマの特徴です。
彼女の室内が白く空間が多いので、この図だと、右半分が余白になります。
こういうところも、依子さんのヴィジュアルを本当によく活かしてくれているなぁと感謝いたします。

vol.4 (2008年5月1日放送)

進藤が由佳を抱きしめようとするまさにそのとき、彼の携帯に電話が入ります。
顔が蒼ざめていく進藤。由佳を残して、一人、部屋を出て行きます。それが進藤の失踪の始まりです。
山藤と連絡をとる由佳。携帯の履歴を整理し、しばらく鳴りを潜めて生活しようとした矢先、
昼の職場に刑事が現れて任意同行となります。
厳しく陰湿な取調べにもめげず、秘密を守りぬいた由佳は、山藤のコネクションで釈放。
しかし、誰が由佳を警察に売ったのかとなると、元彼以外に思い当たりません。
そんなある日、由佳のアパートに押しかけてきた元彼の達也。
複数の男たちを伴って、由佳をベッドに押し倒します。ここまで。

今のところ、この第4話が、映像としていちばん見ごたえがありました。
セットの華美さだけでなく、日常のふとした仕種や体のパーツを丁寧に拾いあげて美しく描き出しています。

依子さんのファンとして見ても、今回はかなり得点数が高かったです。
斜め上からねらう、というのが山藤純子の基本的な構図なのだなと確信。

初回では、彼女が由佳にとって母性的な導きを担うのかなと勘ぐっていたのですが、
こうして上からのショットが重なると、山藤の上にさらに大きな視線を感じずにはいられません。
もちろん、組織の上層部ということではなく。
山藤は由佳の上に立って彼女を育てるというより、もう少し並行した場所にいる存在なのかな、と思います。

そういえば、この由佳という女の子には、同性の友人がいないようです。
そうやって考えたとき、由佳と電話で繋がっている山藤の存在に思いが当たります。
依子さんが落ち着いた中にのぞかせる儚さや曖昧さの表現が、この役のキャラクターに層をもたらしています。

などと愚考を弄せずとも、今回の依子さんは、目で見て味わう美しさでした。
おなじみの斜め上ショットでは、彼女のうなじをさりげなく画面左にとらえた絵が、なんというかもう、
大正解と呼びたいくらいに好ましいです。
それから、電話でしゃべりながら横に流すあの目線ですよねぇ。あれ一発で、画面が淡く靄がかる。殺しの視線。
見れない人、ごめんなさい。でも、これは見なきゃわからんです。

それにしても、じつに毎回、ソファで受話器に向かってしゃべる依子さんです。

vol.5 (2008年5月8日放送)

寸でのところで怖気づいて逃げ出す達也の仲間たち。
由佳は達也に毅然と対峙し、顔をひどく殴られてその場を逃れます。
職場では、接客ができないので自宅待機を命じられ(この脚本展開にOK出したダイソーも偉い)、
顔の腫れがひくまで、壊れた自転車を直し、少しずつ心も回復してゆく由佳です。
ある日、自宅付近の植え込みで、倒れている進藤代議士を発見。
自暴自棄になりながら気を失った彼を抱えて、自分の部屋で手当てします。
気がついた進藤は、最初、由佳のことを認められませんでしたが・・・

今回は山藤さんの出番なし。
彼女は由佳に仕事をまわす役にあるので、進藤代議士の問題のほとぼりが冷めるまで、
由佳との接触はありません。

山藤純子は由佳にアドバイスを与える役割にあるわけですが、
セリフ上、とくに由佳の内面にまで入り込んで彼女を救おうとする言葉はありません。
あくまで、仕事上の心構え、男にはどう向き合えばいいか、女として何ができるかを助言する上司です。
それがドラマ上、迷いが生じているときの由佳にとって、大きな後押しになっているように思えるのは、
そのセリフを発する依子さんの表情を視聴者が見ているからで、由佳にはそれは見えないのです。

由佳との電話に向かって話すときの依子さんの表情というのは、
優しく包み込むというより、むしろ不安感を醸しだす、晴れ晴れとしないもので、
ファンにとっては、サスペンス・ドラマの要所要所ですっかりおなじみの「疑惑」の顔でもあります。
その表情が、由佳に対する心配、ケアを微妙に感じさせるところが、『ジュテーム』の依子さんのポイント。
そして、あともう二言三言、なにか由佳の支えになるような言葉をかけそうなところで言わない、
この思いやりの寸止めが心憎いのであります。
悪い人でないことは伝わるのだけど、どのくらいいい人なのかが曖昧になっている。
ベタベタしない、ドライなぬくもりがあります。

今回は、傷を負った由佳が回復する過程を重点的に見せていますが、
彼女はそれは「治る傷」だとキッパリ言ってのけて、日にち薬で自ら立ち直り、
進藤を介抱するまでに持って行きます。
襲われたときに壊れた自転車を、由佳が自分の手で直してゆく描写を丁寧に積み重ねていき、
それが彼女の立ち直りを自然に反映してゆくところに、このドラマの芯の部分を感じました。

山藤純子が母親的な存在であれば、ここで由佳に電話をかけてくるのでしょうが、
壊れたものを自分で直し、それに乗って街へ出て行く由佳にとって、それはやはり不要なものです。
このへんの関わり方には、洞口依子という女優の持つ、距離をとった存在感が効を増しているように思います。

あとは、山藤純子の目に浮かぶあの曇った色合いが気になりますね。
あれは彼女が由佳に対して感じる気持ちというより、彼女の存在自体が放つ哀しみではないかと。

以上、まったく登場しない山藤さんについて私が思う二、三の事柄でした!



vol.6 (2008年5月15日放送)


由佳があのときのコールガールであると気づいた進藤。
ふだんの彼女の質素な暮らしぶりに驚きつつ、ありのままの君のほうがいい、裏の仕事などやめろ、と諭します。
これに対して由佳は、表も裏もない、どちらも自分なのだと自分の意見を述べます。
進藤はある政界内部の告発がもとで、情報のソースを求める政敵から追われているのでした。
由佳は彼に鍵をあずけて仕事に出ます。
今度の客は車椅子の青年。
親にコールガールをあてがわれたことでプライドが傷ついた彼を包むように抱きますが、
生きる勇気のためにと、青年が携帯で彼女の写真を撮ろうとすることは拒否します。
アパートに帰ってきた彼女を、進藤は礼を言うために待っていました。
彼女に感謝し、去っていきますが、じつは行く宛てもなく公園でたたずんでいるのでした。

由佳、たくましくなっています。
自分で判断し、自分で行動する。
判断基準と何を信用するかの規準が、彼女の中で備わってきたことがうかがえる展開です。

凝った画面構成です。
由佳と進藤の二人だけの質素なアパートの部屋。
前に会ったときと正反対の、生活感がにじむ空間に、コールガールと代議士が対峙しているわけですが、
由佳の自転車越しに二人をとらえたり、進藤と鏡の中の由佳を隣り合わせに映したり。
その鏡の中の由佳がきっぱりとした意志のある表情なのにくらべて、身の振り方を考えあぐねている進藤の頼りなげな面持ち。
とくに加藤雅也さんのような、体格がよくて彫りの深いマスクの男前が居場所をなくしていると、いっそうその状況が際立ちます。

どちらも殴られて顔を腫らしている由佳と進藤は、きっとお互いにどこか通じ合えるものを持っているはずなのですが、
進藤はよくある勝手な男の思い込みで「きみはそのままがいい」と言うし、由佳にはその言葉は押し付けに聞こえてしまいます。
そこに山藤さんからの電話。
山藤さんという人の存在は、由佳が困っているときには心強いアドバイスを与えるように思えますが、
今回は、あっさりと仕事を卸すのみ。
依子さんの撮りかたも、第4回のときのようなドキドキの正面ショットを排して、斜め、斜め、もひとつおまけに斜め上と、
もはや「純子アングル」と名づけていいほど斜めにこだわった短いカットで十数秒つなぐのみ。

由佳の部屋の場面では対流型ストーブが印象的で、それが温める安アパートの一室のぬくもりが、
由佳と進藤の距離が少し縮まったぶん、伝わってくるようです。
山藤さんの仕事の電話はそれをいったん引き離す効果があって、依子さんのクールな表情がビックリ水の役割を果たしてます。

彼女の登場はあと1場面。
車椅子の青年の心も体もほぐし終えた由佳が、写真撮影を拒否するときに挿まれる山藤さんの姿。
これはいちばん初めに彼女が由佳に声をかけたときの服装でしょうか、「お客の撮影は断りなさい」と、
電話ではなく対面で心得を伝授しているようす(または由佳にとってのイメージ)です。
客の青年に心を開きそうになっていた由佳が、思わずはっとして「わたしは誰も信用しない」と我に返る瞬間。
やはり、ここでも山藤さんはビックリ水の役割ですね。

独りで生きていくうえで、他人をどのくらい受け入れればいいのか、由佳にとって人との里程を測る存在なのでしょうか。

というわけで、次回が最終回。
なお、最終回の再放送は、イレギュラーで、5/26(月)朝4:00〜4:30ですって。

vol.7 (2008年5月22日放送)

拉致の恐怖にいまだおびえる進藤に部屋の鍵を渡して、由佳はダイソーのバイトに出かけます。
帰り道で待ち伏せていた元カレの達也にしつこく復縁を迫られますが、
「オレはおまえのすることは何でも許す」(出た〜、男の「上から目線」!)の言葉を、
「私はあなたに許しをもらうことなんか、なにもない」とキッパリ拒絶します。

部屋に戻ると、進藤が夕飯の仕度をして待っています。
買い物の際、変装に使ったのでしょう、由佳のキャップを逆向きにかぶった加藤さんが、ちょっとキュートです。
由佳と進藤は、以前よりずっと打ち解けているのですが、進藤は由佳を勝手に理解しようとするし、
由佳は「私は人に理解してもらいたいと思わない」と反発します。
そんな彼女に、「俺はいま、世界中の人に自分を理解してほしい!」と心情を吐露します。
そこに山藤からの電話。
「引き受けてもらえるかしら?」の声のあと、あいかわらず、斜め上からのショットを挿んで、ワン、ツー、スリーと短いカット。

由佳がホテルへ出向くと、待ち受けていたのは二人の男。
「約束がちがう」と電話の向こうで抗議する山藤の声もむなしく、由佳は男たちに組み伏せられます。
何度か、山藤の手回しでしょう、フロントからの電話で時間をかせぎ、
やってきたのは山藤純子その人。毅然と男二人に対峙し、由佳を解放します。
救われた由佳を包むように背中を暖める山藤。
「守らなくちゃならない人がいるのは、幸せなことなのよ」と彼女に最後のアドバイスです。
由佳と別れてタクシーを出させる山藤。
そして、コールガールへの変身時にクローゼットとして用いていたウェアハウスが、空っぽになっているカット。
山藤の言葉を反芻しながら自転車で家路を急ぐ由佳の姿で、ドラマは終わります。

山藤さん、大活躍。
由佳との出会いのシーンがこれまで彼女が最も動いた場面でしたが、比較にならない動きです。
山藤さんの素性は最後まで明確にされませんでしたが、
縛られた由佳の手足をほどくときの目、男たちに隙を与えない所作など、
彼女がこうした場数を踏んでいることをうかがわせる身のこなしです。
このへんは、演出というより、俳優の持っている存在感でしょう。

解放された由佳の背中を包み込んであげるところでは、渇いた優しさやぬくもりが伝わります。
全編を通じて、電話という距離のなかで、由佳への気づかいをベタつかずにクールに見せる間合いが、
ここでもしっかりと保たれているのは見事です。
一人で生きていくということは、じつは守り守られながら他者を受け入れていくことだという、
人間関係の新たな認識にめざめた(であろう)由佳にとって、非常に大きな存在だったのでした。
別れ際、タクシーの中でことさら笑顔を見せることなく、最後まで突き放したような視線を崩さないあたりも、
洞口依子さんならではの見せ場だと言っていいでしょう。

さて、このページでは、私はさんざん予想めいたことを書いてきましたが、
ちょっと正誤を見てみましょうか。

(vol.1)
「山藤純子。細かい設定
はまだなにもわかりません。たぶん、明らかにはされないんじゃないでしょうか。」
「『由佳』は、ちょうど彼女が生まれたと思しき1987年頃に女の子の名前として流行していたような気がします。
このへん、2つの世代をめぐる何かが絡んでくるのでしょうか。」

前半あたり、後半はずれ。世代は関係ありませんでしたね。それやっちゃうと、山藤の素性を描くことにもなっちゃいますよね。
いかに私が場当たりで書いていたか、よおくわかります。

(vol.2)
「コールガールのグループでどういうポジションにいるのかはわかりませんが」
最終回で「社長」と呼ばれてました。ただ、これは、由佳が対外的に言ってるセリフかもしれません。

「山藤はいつも沈着冷静で、そしてどこか悲しげでさえあります。この表情がこのドラマでの洞口依子さんのポイント。今のところ。」
これは当たりでしょう? この「悲しげ」がさらなるポイントでした。強くてカッコいい部分と、はかなくて悲しげな部分が同居している。
これは山藤というより、依子さんの、(俳優として)持って生まれたものかもしれませんね。

「由佳が山藤にスカウトされる場面が長くない、と書きましたが、小出しになって挿入される趣向みたいですね。」
はずれ。そんなに繰り返されませんでした。

「電話をかけてくるのは山藤なんですけど、由佳にとって、レスキュー的な意味合いがあります。でも、それは山藤にとっては・・・?」
これも私の早トチリ。そこまで山藤の内面は描かれませんでした。山藤の人間性に由佳と通じる弱さがあるのではと思ってたんです。

(vol.3)
「やはり斜め上からのアングルが刺激的です。」
作り手が意図的に見せていることなので、これを「当たり」だなんて、鬼の首にもなりません。

(vol.4)
「こうして上からのショットが重なると、山藤の上にさらに大きな視線を感じずにはいられません。
もちろん、組織の上層部ということではなく。
山藤は由佳の上に立って彼女を育てるというより、もう少し並行した場所にいる存在なのかな、と思います。」
これはどうでしょうね。単なるマスターではなかったけど、「並行」とは言い難かったですね。

「そういえば、この由佳という女の子には、同性の友人がいないようです。
そうやって考えたとき、由佳と電話で繋がっている山藤の存在に思いが当たります。」
友達、いませんでしたね!電話という点では、由佳と山藤の繋がりは決して弱くなかったです。

(vol.5)
「山藤純子は由佳にアドバイスを与える役割にあるわけですが、
セリフ上、とくに由佳の内面にまで入り込んで彼女を救おうとする言葉はありません。
あくまで、仕事上の心構え、男にはどう向き合えばいいか、女として何ができるかを助言する上司です。
それがドラマ上、迷いが生じているときの由佳にとって、大きな後押しになっているように思えるのは、
そのセリフを発する依子さんの表情を視聴者が見ているからで、由佳にはそれは見えないのです。」
あ、これは我ながらよく言った。かな?
電話というのが、視聴者に対するトリックになってたと思います。

「あともう二言三言、なにか由佳の支えになるような言葉をかけそうなところで言わない、
この思いやりの寸止めが心憎いのであります。」

これも前半、顕著でした。優しい言葉を飲み込んでるのでは?と勘繰らせるところ、ありましたよ。

「山藤純子が母親的な存在であれば、ここで由佳に電話をかけてくるのでしょうが、
壊れたものを自分で直し、それに乗って街へ出て行く由佳にとって、それはやはり不要なものです。
このへんの関わり方には、洞口依子という女優の持つ、距離をとった存在感が効を増しているように思います。」
ちょっと、考えすぎでした。でも、最後の一文は、死守したい感じかな?

「山藤純子の目に浮かぶあの曇った色合いが気になりますね。
あれは彼女が由佳に対して感じる気持ちというより、彼女の存在自体が放つ哀しみではないかと。」
いやぁ、解釈は自由ですねぇ。そこまでドラマはぜんぜん踏み込んでませんでした。
もっとも、これは、私の依子さんに対する思い込みですね。なんにもわかってませんです。すみません。

このvol.5って、山藤さん不在の回じゃないですか!なにやってんだ、私。
この回は最後に「わたしは、考えすぎない」のキャプションがあるとよかったですね。

(vol.6)
「凝った画面構成です。」

凝った画面構成でした!楽しめました!

「由佳と進藤の距離が少し縮まったぶん、伝わってくるようです。
山藤さんの仕事の電話はそれをいったん引き離す効果があって、依子さんのクールな表情がビックリ水の役割を果たしてます。」
前半はわりと自分を律していく、みたいなテーマを感じたのですが、
後半になると、そのうえで他人といかにかかわっていくか、ということも考えさせられました。
全体に、ベタつかないクールな風を送り込んでいるのが依子さんだということは、否定できないでしょう。

「独りで生きていくうえで、他人をどのくらい受け入れればいいのか、由佳にとって人との里程を測る存在なのでしょうか。」
あ、すでに書いてたんですね。忘れてた。

文中にもあるように、この山藤純子役は、『勝手にしやがれ!!』シリーズの羽田由美子役を思わせる属性もありました。
でも、ちがうものになってましたね。
羽田由美子の魅力は、いつも物語の推進力からははずれたところにあって、真っ直ぐに進む流れがあるとすると、
彼女のところだけ小さな渦を巻いていたり、底なし沼になってたり、ストーリー進行の拘束を受けない、みたいな自由度があります。

山藤さんは、もっと大きく関わってきますからね。そのぶん、依子さんの曖昧な魅力を求める気持ちは、くすぶっちゃったかも。
ただし、このドラマで依子さんが、室内で電話口に向かって一人で芝居を続ける中で、これだけいろんなニュアンスをつけて、
興味を惹きつけたりはぐらかしたりするさまは、とても楽しめました。
そして、そんな依子さんの表情を、凝りに凝った構図やアングルで細かく重ねていく見せかたも、忘れられないものになるでしょう。
また、美しく強く生きることを由佳に語るとき、その言葉とは逆に依子さんの目や表情に、はかなさが浮かぶところも、
さすが洞口依子、アンビバレントの表現です。

上記のように、予想はほとんどはずれましたが、それだけ依子さんの魅力が単層ではないものだと・・・
あ!俺、はずれたのをぜんぶ依子さんのせいにしようとしてる?

劇場版の解説はこちら

鎌田 敏夫 脚本
中山 和記 企画
星田 良子 演出
貸川 聡子 プロデューサー

2008年4月10日より毎週木曜日23:30〜24:00放送

「この人を見よ!」へ


←Home (洞口日和)