海猿2 〜炎の海に挑む・海上保安官物語〜』(2003)

前に掲示板で、洞口依子さん出演作をレンタル・ショップで探す際、
タイトルの見分けが紛らわしいものとして『呪怨』を挙げました。
同じタイトルでもビデオ版と映画版があったり、シリーズ化されていたりで、
どれに依子さんが出ているのか見定める必要がある。
あと、『富江』もいちげんさんには厳しいかもしれません。

それから、これ、『海猿2』ですね。
NHKの「ハイビジョン・サスペンス」として制作されたもので、じつは、こっちのNHK版がドラマ化としては先です。
演出は、『ジュテーム わたしはけもの』でも依子さんと組むことになる星田良子氏。
キャストは、国分太一、永作博美、杉本哲太、加藤剛といったところ。
たしかソフト化はされていません。
なので、レンタル・ショップで「LIMIT OF LOVE」を手にしても、依子さんは出ていませんので、ご注意を!

依子さんは、温水 「ハデー・ヘンドリックス」 洋一さんとの夫婦役で登場します。
温水さんがリストラされた会社から金を横領し、2人でフェリーに乗って逃走中。
同じ船に乗り合わせた海上保安官の杉本哲太さんに見咎められて思わず猟銃を発砲してしまい、
脚に重傷を負った哲太さんをトランクに押し込んでその場を立ち去ります。
と、そのときの発砲が原因で火災が発生。止める夫をふりきって、現金を隠した車へ一人戻る依子さん。
そこへ駆けつけた国分太一くんとともに3人、沈没の危機にある船内に取り残されてしまいます。
ドラマのクライマックスはこの脱出行です。

このドラマ、カッコいい男たちの険しく迫力ある表情の、やや斜め上下からのアップでグイグイ押します。
特に加藤剛さんの重厚な存在感。海を守る男たちのプライドを一身に背負ったような重みです。
この海上保安官たちを右往左往させることになる犯人が、温水洋一さんという設定がおもしろい。

ヌックンとの夫婦役となると、依子さんのほうが主導権を握っていそうな趣きです。
事実、車の運転をモタモタする夫を「なにやってんのよぉ!早くしてよぉ!」と叱咤して登場します。
依子さんもかなり緊迫感を醸しだす個性ですから、どちらかと言うと強面チームに属するのですが、
ここでの依子さんは、決して豪胆な悪女、という設定ではありません。
 帽子を目深にかぶって顔を隠しているさまには、夫以上の怯えと緊張があらわれているし、
夫への叱咤にもどこか懇願の調子が含まれています。

事件が起こる少し前に、船のデッキで依子さんが何気なく動かした左手に、結婚指輪が光っているのが見えます。
案外、夫婦仲がうまく行ってるのか、決行に向けての結束意識の表れなのか。
これが終盤、だらしのない夫のことを「あんな人だけど、一生懸命やってきたのよ!」とかばうシーンで、
サブリミナル的に効いてきます。
おそらく指輪が映ったのは偶然なんだろうけど、最終的に画面をチェックするのは監督でしょうから、
この場面は、「活かした」んじゃないかと思うんですが、どうでしょう。

挙動不審が天然でハマる温水さんですから、その妻には対照的に落ち着いた女を当てはめがちですけど、
夫婦そろってワルになりきれない小心者ぶりを覗かせることで、アクションに人間臭さがにじんでくるし、
計画性の低い凶行をも想像させて、サスペンスにもつながっています。

水浸しの船内から、傷を負った哲太さんをかばいながら3人が脱出するところでは、
どうしようもなくなって追いつめられた依子さんが笑いだします。
しかも、気を取り直して歩き出してもなお、数歩のあいだはフフフと笑っています。
これがいいです。演出の冴えが、女優の演技と手を取って、作品の真芯をスパーンと貫いたのを見るかのようです。
最後の最後、助かったこの女が、夫と再会するシーンがないのもニクいです。
こういう細かい意外性の積み重ねが、シェイカーのリズムのように、後半の展開を小気味よくバウンドさせていくんですね。

また、ダメ夫とそれを支える妻、という図式にまで還元しますと、そこには加藤剛さんの「お白洲」感が待っていて、
時代劇の人情味でもって無言で包容してくれるのが磐石です。加藤さん、あるでしょう?「お白洲」感。

さらに、さらに。
これはもう、特殊なヨーリー・マニアックの妄想なんですが・・・
ここでの依子さん、何かになぞらえられないでしょうか?
倒れている捜査官と、車と、炎、
現金の入ったカバンへの執着、
状況から脱出しようともがくクライマックス、
傷を負った同僚か、犯人のどちらを助けるかの選択・・・
「倒れている捜査官」を「迷い込んだ捜査官」と読み替えると?
『カリスマ』だ!

輪郭のくっきりとしたキャラクターでありながら、悪女に徹しきれない『海猿2』での依子さんと、
複眼的で多義性に富んだキャラクターで、堂々とした『カリスマ』での依子さん。
この比較を念頭に置いて見ると、さらに面白く楽しめるドラマです。
はたして、私のほかに何人いるかは自信ありませんが・・・


2003年7月19日(土)BS−Hiにて
21:00〜22:30放送。
2003年8月18日 NHKにて
前後編に分けて放送
(前編は20:00〜20:45、後編は21:15〜21:58)。
脚本:長谷川康夫
演出:星田良子
制作:大映テレビ、NHKエンタープライズ21

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