ボヘミアン・ランデヴー その1
「真夏の夜の夢スペシャル」(JZ Brat 渋谷 2008年8月1日) 前半




8月の最初におこなうライヴを「真夏の夜の夢」と銘打つからには、バンドにも相当な意気込みがあるはず。
そう思ってしまうのは、昨年同じ名前で、同じ渋谷の街で、夢うつつのような多幸感に満ちたライヴを経験したから。
そのくらい、昨年の「真夏の夜の夢」(レポートはこちら)は、バンドにとってもファンにとっても特別なイベントでした。

休憩をはさんでの、2部構成。
いつもの石田画伯、依子さん、薫さん、ファルコンに、沖縄から口琴のヨシミさん、
ヒカシューの坂出さん、サックスの齋藤さん、ハープの夏樹くんに、
パーカッションのクリス、コーラスのパヤッパヤーズ、機内アナウンスのなおこさん、
そしてヴァイオリンの中西俊博さんまでもが参加しての顔ぶれ。

リハーサルが、いつもの数倍長い。
本職の舞台ディレクターでもある薫さんを中心に、緊張感あるチェックが続きます。
こんなパイティティは、見たことがない。

ステージ中央に、飛行機のタラップがセットされています。
「やっちゃったよ」の声に振り向くと、カウボーイ・ハットの原口智生監督が、暗がりの中でニヤリ。
「つ、作られたんですか…?」とタラップを指さして訊くと、
もう一度、暗がりの中で、ニヤリ。

JZ Bratは、ジェームズ・カーターのような、コンテンポラリーなジャズ・ミュージシャンも演奏するクラブ。
そこに、いきなりの特撮魂が注入。
鳴るのはウクレレ、弾くのはジミー・ペイジ狂の映像作家と、女優。
でもってハワイアンなしで、モンティ・パイソンあり。
ベースはヒカシュー。コーラスは素人。

四半世紀煮込んだニューウェイヴのカレー鍋か。


そういえば、今回のライヴでは、「機内食スペシャル・サパー・プレート」として、
オリジナルのメニューが採り入れられていました。

ごはんの上にハンバーグと目玉焼きを乗せたハワイ料理のロコモコに、
「パイティティ=桃源郷」をひっかけて桃を添えた「パイティティ・スタイル」。
オーダーしました。写真を撮る気まんまんで。
来ました。撮るのを忘れて食べちゃいました。
ほかに「ショコラ・パイティティ」にちなんだショコラテリーヌ。
オレンジ風味にミントも添えてあるデザート。
オーダーしました。これは撮らなきゃ。
来たら、忘れて食べちゃいました。美的探究心は食欲に負ける。
というより、意地汚い。

お腹がわしっと詰まった頃合い、客電が落ちると、
「みなさま、本日はパイティティ・エアラインズにご搭乗いただき、まことにありがとうございます」、
なおこさんのアナウンスが流れます。
遊びごころたっぷりのこの演出、今回は、いつもゆる〜く始まるライヴをちょっと緊張感をつけて変えてくれます。

薫さんとクリスの気持ちいいグルーヴに乗って「パイティティ・エアラインズのテーマ」が始まり、
依子さんを先頭に、70年代のスチュワーデス(CAではなかった頃)衣裳に身を包んだパヤッパヤーズが
軽やかにタラップをのぼり、笑顔で客席をながめるこの瞬間は、まさに真夏の夜の夢へのいざない。
 


この夜の演奏曲は、まさにパイティティの総ざらい。順番もとてもよく考えられた流れでした。
「パリのアベック」では依子さんのウクレレが聞こえないというアクシデントがあり、これは残念でした。


「アイスクリーム・ブルース」「ピクニック」と、ファルコンのギターが熱を帯びていく曲が続きます。
「アイスクリーム〜」での坂出さんのベースは本当にしびれます。
サビの部分がスライド・ギターの残響とともにブレイクするところ、
ファルコンがいい意味で抑制が利いていてクールでした。
「ピクニック」は、打楽器類がはじけまくって、いつもこの曲でバンド・サウンドの醍醐味を味わいます。

「血糖値を上げろ」とのおなじみのMCで始まるのは「シュガー・タイム」。
今回、依子さんのスライド貝殻は、映画のロケで行った渡名喜島で拾ってきたもの。
ちなみに、依子さん、沖縄の訛りがとれないようでした!
この日の貝殻では、望み通りの音をキュンキュン鳴らすのが難しかったようですが、
この曲のスライド・サウンドは、少しトホホな感じがするくらいがちょうどよいと私は思います。
そのほうが、電圧220のロンドンでウクレレの音をミックスするようなバンドのセンスに合ってる。


そして個人的にお待ちかねの「マクガフィン」。
この映画『マクガフィン』のセリフを依子さんの語りで入れるアイデアはいいですね。
これもまた、『マクガフィン』とパイティティとそして『子宮会議』のつながりを深く感じさせます。
ひとつの作品から生まれたものが、べつの作品にリンクしていくスリルです。
これには當間監督も喜んでいるんじゃないでしょうか。
繰り返されるファルコンのギター、その幻想的なコードの響きが特に聴き取れた演奏でした。
意外に太いパーカッションの入るタイミングが素晴らしく、それとトイピアノとの絡みがまたいいんです。

ここで画伯と依子さんによるウクレレ・デュエット。
ビートルズの「イン・マイ・ライフ」と「スキヤキ」です。
「イン・マイ・ライフ」は2人の呼吸が合うか合わないか、いつも見ていてハラハラするんですが、
今回はよかったです。
 

「スキヤキ」はその好調のまま始まったのですが、どうも参加するはずのファルコンが呼ばれなかったようです。
始まって少ししてから登場し、苦笑いを隠せない表情で弾きだしました。
でもこれ、演出かと思いました。

前半最後の曲は「ボナペティ」。齋藤さんのサックスが加わると、演奏が引き締まります。
そして、この日の「ボナペティ」は、ヨシミさんの口琴がとてもよく鳴ってました。

不思議なもので、あんな小さな楽器がサックスの色っぽい音といっしょにこの曲に入ると、
曲の持っている表情が豊かになるんですね。
できれば、この組み合わせで、前半終了までにもう1曲聴きたかった。

前半はパイティティのこの1年の成果を披露する、ようなメニューでした。
後半、これがどうなるのか。
いやもう、とんでもないことになりました。

その2へ →


ヨーリーに一歩近づけば」へ戻る

←「洞口日和」Home