ウクレレ・ランデヴー (2008年5月22日 パイティティ・ライヴ@Cafe Studio, 原宿)




原宿駅からCafe Studioに向かう途中、「夢影さ〜ん」の声に振り向くと、
ギターのファルコンとベースの小林くんが笑顔でこちらへ歩いてきます。
二人に誘導されて着いた店の前には、パイティティのメンバー、
画伯、依子さん、薫さんが、楽器などの大量の荷物を脇に、立ち話をしています。

お店ではアパレル系のコンベンションかイベントがあったようす。
何人ものかたたちが、搬出に追われています。
店内は、準備中とあってBGMはかかっておらず、自分の靴音がよく聞こえます。
それも、下からだけではなく、耳よりも上の位置からも。
天井が高いのですね。
天然とはまたべつの、心地よいリヴァーブが得られそう。そう思いました。
そう思った瞬間、この夜のライヴへの期待がふくらみました。

(リハーサル。)

ロンドン帰りのマヌーシュ音楽隊、パイティティの凱旋(?)初ライヴ。
8時少しすぎに、おなじみの「ボナペティ」で幕を開けました。やはり、音がいい。
見事なバランスでミキシングされたバンドのサウンドが、
通り抜けるかのように店内を走っていきます。
そして、バンドの演奏が、これまでのライヴでも最高といえるくらいにまとまっています。
求心力を感じるアンサンブル。
うまいのはもちろんうまいのだけど、仮にミスがあっても、音のタイトさが勝ってます。
これまでいちばん好きだったライヴ演奏は、ウクレレ・クリスマスのときのものでしたが、
この夜はそれ以上でした。

(トイピアノにスウィッチングよりこ先生。いやん。)

編成は、サポートにファルコン、小林くん、そしてハープ奏者の夏樹くん。
代々木公園での子宮会議でも激渋のハープ(ハモニカ)を披露した19歳のミュージシャン。
この日は「ボナペティ」「パリのアベック」で、ブラスというか、
J・ガイルズ・バンドのマジック・ディックとはちがう意味で、「ホーンのような」、
ニューオーリンズっぽいニュアンスのリズムで攻めるハープを聞かせてくれました。
と言って、ユーロピアンな趣きに味のあるパイティティの音楽を、アメリカンな方向には持っていかない。
このへんは音楽家としての勘なのでしょうか。

(リハ時の夏樹くんと小林くん)

2曲目は「アイスクリーム・ブルース」。
イントロのファルコンのギターに、今までとはちがう表情を聞き取れます。
バンドのまとまりが強固に打ち出されたこともあってか、
以前のライヴでときおり顔を見せたダーティな色気は、控えめに聞こえました。
ベースとギターのバランスがとにかく良いので、揺さぶる方向には作用しなかったのかも。
それと、うまく説明できないのだけど、ベースの音が、歌ってました。
ギターがアンサンブルに融けこんだこともあり、この曲に広がりがもたらされたように思います。

(歯をみせないファルコン。ホワイト・ストライプスのジャックっぽい?)

そして、「ウクレレ・ランデヴー」。
原口智生監督(『ミカドロイド』で依子さんと組んだ)によるPVの仕上がりも楽しみな曲です。
これまでにも何度かライヴ演奏されていますが、依子さんの歌はこの日がいちばん良かったです。
コーラスに入る箇所を依子さんが一瞬早まる場面もありましたが、気にしない気にしない。
こういうの、ヴォーカリストはけっこう気に病むもんですけど、お客は愛嬌に取るものです。
歌手がうろたえると、お客もうろたえます。

(突然の笑顔だったので、ピント拾えませんでしたが)

事実、この夜の「ウクレレ・ランデヴー」の歌は、女優・洞口依子の演技として良かった。
PVを作ったことが、なにか歌の世界に影響したのでしょうか。
とても、幸せそうでした。いい仲間と、スタッフと、いい音楽に恵まれる喜びとでもいうのか、
いまの依子さんのいい状態が、歌ごころになって伝わってくるのが、見るほうの顔をほころばせる、
そんなことを考えたくなりました。

(全体がラメで覆われた、依子さんのデコ携帯ならぬ「デコレレ」?これも「ウクレレ・ランデヴー」PV用に作られたもの)

続いて、「ピクニック」。ファースト・アルバムに収められる曲。
レス・ポール&マリー・フォードに聞かせたいくらい、粋でワクワクさせるイントロから、
薫さんの、突貫工事みたいにアッパーなドラムが加わり、
ファルコンがスライド・ギターで泥臭いソロを聞かせる名曲ですね。
 

ワイルドに炸裂させながら、ちゃんと一定の振幅内に全体をおさめるドラムがクール!

(リハの薫さん。ファンキー・ダイナマイト。カッコいい!)

パイティティを聞いていると、ときどきこれが、4本弦で、少ないフレットの楽器によることを忘れます。
とくにフレット。
ギターを弾く人でウクレレをかじったことのある人ならわかるでしょうが、
「ギターより簡単」と思っていると、フレットの上限下限で鳴らせない音があります。
弦の数はわりあいすぐに慣れても、こちらはなかなか片付きません。
パイティティの作曲においては、こういうジレンマはどう解消されているのか、
今度画伯に質問したいところですね。
飛車角抜きの将棋みたいなものじゃないかと思うんですが、いつもしっかり王手まで運ぶ。
メロディーがじつに豊かです。
画伯が影響を受けたブリティッシュ・ロックの旋律のエッセンスが、しっかり伝わる。
この「ピクニック」なんかは、少ないフレットの内で、和音に幅を持たせたり、転調も使っていたりするのかな、
フレーズを上昇と下降で切り替えたりする作りに舌を巻きます。
「ピクニック」、いい曲です。大好き。

(ピックを口にくわえて指弾きに早替わりした瞬間。カッコよさの渦巻きです。)


(天才、石田画伯。今日も楽器持ったら即、高校生。ウクレレ界のヒデ)

ここでセット・チェンジ。
画伯、依子さん、薫さんが席をはずして、ステージ上には、
ファルコン、小林くん、夏樹くんの「後に生まれた」人たち。
おっ、ファルコンの仕切りか、と思っていると、
夏樹くんです。夏樹くんが、MCやりだしました!
これはビックリ。アッと驚く染五郎(などというギャグはない)
「ぼくの大好きなレイ・チャールズの曲をやりますっ」
ふと客席を見ると、女性2人連れが、顔を見合わせて、トロンとした笑みを浮かべたりしてる。
「ジョージア・オン・マイ・マインドです」
この年齢で、この選曲。
19歳くらいなら、少し斜にかまえて、レイ・チャールズのレパートリーでも違う曲を選んだりするだろうに。
始まった演奏を聴いて、私は思いました。彼は、この曲が心底好きなのだと。
だって、アドリブのパート以上に、みんな知ってるあのメロディーを、
慈しむように、感情をいっぱいにこめて吹いているのです。
そしてその衒いのない真っ直ぐなハートこそが、この歌の持つ故郷や恋人への愛に近い。
ギターもベースも、いい歌声とセッションしているかのように親和して響きます。よかった。

(夏樹くんのハートフルなブロウ・バイ・ブロウ。)

続いて、ファルコンのオリジナルを同メンバーで。代々木公園で聞いたものと同一かな。
これは、ハープにもう少し突っ込んでいってほしかった。
ファルコンのギターの鋭さが前面に出ていているスリルのいっぽうで、
ハープとベースとの化学反応には届かなかったと思います。
遠慮を感じました。このあたりは、セッションの難しさなのでしょう。

(すっかり音がなじんできた小林くん。すごくあったか〜い人です。)

画伯が戻ってきて、これも新曲「ショコラ・パイティティ」の演奏です。
これは、私にはなぜか明治チョコレートのCM曲を思い起こさせるんですが、
あぁいう、ヨーロッパの森に響くような哀愁に煙るメロディーと、ジャジーなベース、
それにハープのこれまた哀切きわまりない音色が心の琴線にふれます。
インタープレイってやつですよね。ベースが最後までひきつける演奏でした。

夏樹くんのハープ・ケースには、様々なキイ、様々な種類のハモニカ類が入っており、
これを曲ごとに、多いときはひとつの曲の中で何度か取り替えて吹きます。
そのさまがクールです。
むかし、YMOの演奏するさまが、なにやってるかわからないんだけど、
その忙しくいろいろとスイッチングするさまに、「使い手」感をおぼえたのに似ています。
そして!
このサイト管理人としては、言っておかねばなりません。
映画『ラブ・レター』で依子さんが演じたニセ・ダイヤを売る女。
ケースを開けると、蓋の裏側に札束あり、のあの役柄を連想してしまいます。
あの女も「使い手」感ありありでした。
半分、冗談ですけどね。

(かつてニセのダイヤを売っていた女。)

続いて、依子さんと画伯でのウクレレ・デュオで3曲です。
「シュガータイム」。
これも相当にいい曲で、短いなかに、ポール・マッカートニーのDNAが組まれた美しい旋律がキラリ。
さて、ここで登場したのが、依子さんのスライド・ウクレレ!
まるで映画『レット・イット・ビー』でFor You Blueを弾くときのジョン・レノンのように、
ウクレレをひざの上に乗せて、スライド・バーは沖縄で拾ったという貝殻!
ついに、やりましたね。やってくれました。

(スライドウクレレの第一人者。オールマンが空翔ける犬なら、ヨーリーは「スカイキャット」)

そして「ねむりねずみのうた」。
子守唄のイノセンスとサイケデリックのあやうさが同居したようなスローな曲で、
シンプルさが逆にイメージを幾重にも広げていきます。
これから体験するかたのために、みなまでは言いませんが、
依子さんの歌が加わると、今度は、
子守唄のあやうさ、サイケデリックのイノセンスという具合に逆転してゆく、
みごとなセンスを誇る一曲です。
私はこの歌には、シド・バレットの声を聞く思いがします。
今後もライヴのレパートリーになるのかなぁ。
そうあってほしいです。

それから、「上を向いて歩こう」。
これもあまりに完成された曲だけに、アレンジに躊躇するものだと思いますが、
逆にどんなアレンジでやっても、いい曲には変わらない。
ここでは、2本のウクレレのシンプルなフレーズどうしをからめて、
全体をふっくら玉子焼きのように仕立ててます。
ドメスティックな味で、特別な料理ではないけれど、おいしいんだよ!
と言いたくなります。

最後はおなじみ、「パリのアベック」。
じつは今回、夏樹くんがハープのみならず、口琴も演奏していました。
口唇楽器を担当。なんかエロいな。エロくないか。ま、19歳だから、いっか。
いつも、この曲のイントロが鳴ると、心が騒ぎ出します。
たぶん、私がリフっぽい音が好きだということもあるのでしょう。
そういえば、ぜんぜん違うものだけど、ウィングスのGoodnight Tonightのイントロも
同様の胸騒ぎをおぼえたものです。
このイントロが弾きたくて、ウクレレを買いました、って人が出てくるといいなぁ。


全体の感想として、いろんな見せ場があったし、なにより音がよく伝わって大満足でした。
洞口依子ファンサイトなのでこういう書き方もしますけど、
ウクレレを持っている依子さんが、これまでで一番と言えるほど素敵でした。


この日のお客さんは、バンドのことを知らずにたまたま店に入った人も多く、
そういう人たちが自然に音楽に体を揺すっているさまを見ていると、
ますますアルバム発売が楽しみになりました。

また、デンマークから観光で来たという19歳の女の子ふたり連れのお客さんに、
パイティティについてPRしちゃいましたよ。
話を聞くと、じつに多種の音楽を好むようで、感心しました。
なお、デンマークには、ウクレレを演奏するミュージシャンは皆無に近いとのこと。
ちゃんとアルバム発売日と、洞口日和のURLを教えたので、
これで北欧にもウクレレの音が鳴り響くかもしれません。
「パイティティやっぺ?」とコピー・バンドができるといいですね。

(pic by Earl of B.)

そして、私とご同輩のためのサービス・カット。



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