『東京SEX 第4話「ラブコール」』(1995)

愛と官能をテーマに、毎回異なる俳優が30分の短いドラマを演じた番組です。

画面に登場するのは、最後のワン・シーンを除いて、依子さん演ずるOLのみ。
舞台も、99%が彼女の部屋の中です。
どうやら妻子ある男性との恋に疲れている様子で、転職も考えていますが、どこも「25歳まで」。
彼女は30歳手前、といった趣きです。
そこにかかってきた一本の間違い電話がきっかけで、この電話の向こうの男性との会話が始まります。
最初は距離を置きながら互いの身の上を少しずつ話すうち、彼女はめくるめく官能の世界へと…
といっても、民放の30分番組ですから、そこはそこ。
制限を逆手にとって、視聴者の想像力をくすぐるところが、なかなかエロティックです。

そして、洞口依子さんが、この届きそうで届かないような悩ましさにピッタリなのですね。
画面に登場した瞬間、「あ、仕事と恋に疲れてるな、彼女は」と、言われなくてもわかってしまう
このゾクリとするようなリアルさはなんなんだ。
ものすごくよけいなお世話ですが、この作品での依子さん、表情がお疲れではないですか?
演技なんだろうな。そうなんだろうけど…あまり起こりそうにない設定のなか、
やけに等身大の洞口依子の生活感が持ち込まれているような気がします。気のせい?
でもそのことが、このドラマの窃視感と共振して、ちょっとした仕種ひとつひとつの
官能数値を増幅させていっているように思います。
壁にかかっている時計が8時半で、「電車で30分揺られる」という言葉から、
そうか、8時前まで残業してきたのか、そんなに仕事人間というわけではないな、
なんてことにまで思いをめぐらしてしまったり。
じつはそういう想像がいちばんエロだったりしますもんね。

愛という名のもとに』の項でも書きましたが、ここでもまだ、ヒロインが使っているのは据え置き電話です。
キャッチホンなんてのが、小道具として出てきますね。
ということは、彼女はまだ携帯電話を持ってないのでしょう。パソコンも持ってないようです。
最後に男性の部屋で出てくるカセットは、ひょっとしてDATかな?MDですらないですね。
1995年だから、そういうこと諸々の起こる、まさに前夜です。

だからなんだと言われると非常に困るのですが、私は最近、mid '90sレトロに興味があります。
また、テーマ曲がコーザ・ノストラ、というのも泣かせます。
「アシッド・ジャズだぁ!」と言わんばかりのグルーヴ感バリバリのキラー・チューン。

なぜでしょう、この時代が、今いちばん懐かしく感じます。

これが『東京SEX』の小説(ノヴェライズ)版です。

角川書店から1996年2月9日初版発行になっていまして、
巻末に掲載されている放送データによると、
この日は最終話のオンエア日でもあったようです。

著者名は連名で野尻靖之・川嶋澄乃・楠本ひろみ・葉山陽一郎・笹生八穂子
と脚本家の方々のお名前がクレジットされています。

この回の1シーンが見開き写真で掲載されており、
受話器(据え置き。←しつこい!)を耳に当てて横たわる依子さんの下、
ベッドが真っ白な光を放っています。
バックがベランダへ通じる窓の闇で、この照明が彼女を熱帯魚のような孤独な艶かしさに彩っています。
これはどうやって撮ったんでしょうね。かなり強い光が下からあたっているはず。
相当な熱を受けているはずです。
このドラマでの依子さんの気だるい瞳は、暑さのせいでもあったんでしょうか!


(洞口依子さんからのメッセージです)

澤田鎌作君のこと - よりこ

2008/08/27 (Wed) 17:24:06

鎌作のことが書いてあったので一言。
あの子は愛という名のもとにから現場ではしっかり私のフォローをしてくれていたADでした。
その頃から監督になったら第一回作品は私が出演してあげるからねと、
私も何様のつもりで言ったのでしょう、よく覚えてないのですが、
それが彼の監督第一回作品『東京SEX』になったという次第でございます。
今や立派になられて本当に自分のことのように嬉しく思います。
今後とも澤田鎌作の名前を見かけたらコイツは面白い監督ですから宜しくお願い申し上げます。
って、アタシは何様のつもりなんでしょうか、、
まぁいいか。
 



1996年11月6日 
深夜0:50〜1:20
フジテレビ系にて放送
澤田鎌作 演出
楠本ひろみ 脚本

*「90年代レトロ」にもうちょっとおつきあいいただけるかたには、
愛という名のもとに』(1992)
雀色時』(1992)
夏ソリトン モンド宣言』(1994)
イルカに逢える日』(1994)
四姉妹物語』(1995)
唄を忘れたカナリヤは』(1997)
のページを、それぞれご覧ください。



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