『四姉妹物語』(1995)

脚本とはべつに、「台詞」として飯島早苗さんの名前がクレジットされています。
自転車キンクリートの作家のかたで、舞台版『あげまん』の台本も書かれていますね。

と、いきなりえらいところから始めてしまいましたが、
90年代レトラーのみなさま、お待たせいたしました。
『四姉妹物語』の登場です。

これについては、どの程度、解説が必要でしょうか。
清水美砂さん、牧瀬里穂さん、中江有里さん、今村雅美さんが姉妹を演じる、ポッキーのCMがありました。
この作品は、彼女たちのキャラクターを用いたミステリー・タッチのコメディ映画です。
長女・清水美砂さんの親友が結婚パーティーの日に殺され、事件をめぐって、
姉妹がそれぞれの恋模様のからんだ冒険に巻き込まれます。

90年代レトロの視点でまず気になるのは、劇中の携帯電話の普及率。
17歳から24歳までの4人の女性が、まだだれも持っていません。
1995年の1月公開ですから、実質は1994年の風景と言っていいでしょう。
長女と三女が結婚式の招待状とバーゲンの案内状をそれぞれ取り違えて、
そこから事件に巻き込まれるという設定も、携帯があればまたちがった展開が待っていたはず。
何度か危ない目に遭う姉妹も、なにがしかべつのシチュエイションが想定されたかもしれません。
緑の公衆電話も使われます。そこからかける先は、もちろん自宅の固定電話です。

ところが、ここに一人だけ、アンテナを思いっきり立ててですが、携帯を使いこなす人物が現れます。
これが洞口依子さん!
事件の鍵を握る怪しい女として、物語の後半に登場します。
携帯電話というのは、怪しい女、事件に関係していそうな女の側にあるものだったのですね。
まだ非日常的なものだった。
レストランで、意味ありげな内容の会話を携帯でかわす場面。
それを牧瀬里穂さんが盗み聞きしているところは、まるで『二十歳の約束』、♪今までのきみは間違いじゃない。

浅野忠信さんが出ています。『HELPLESS』の公開1年前。
少し不良っぽい匂いを漂わせる若者で、かつて自分が恋した女性を裏切った男が憎い。
この女性というのが、依子さんなんで、依子さんが最初に登場するのも、彼とのシーンです。
朝まだき、洋風の建物の前に黒塗りの車が2台停まって、黒ずくめの男と女が姿をあらわします。
ここだけ、べつの映画みたいです。
というか、はっきり言っちゃうと、ここだけが映画みたい。
ここは見ものです。 洞口依子と浅野忠信がひとつのフレームに映ると、世界が変わります。
二人の表情と佇まいだけで、画面の陰翳が制御され、凄みと緊張感をもたらされます。

もうひとつは、夕暮れの近づいた空をバックに、潮騒の鳴るプールサイドで椅子に腰かけている依子さん。
プール全体がすっぽり納まるくらいのロングで、けだるく身を投げ出すようにもたれている姿が、またいい絵です。
彼女の存在ひとつで、そこが日本でもどこでもない、映画の国の風景になります。
アップになるとまだ少し幼ささえ伺えるこの頃の依子さんの顔だちは、おそらく『私は悪女?』と時期的に離れていないでしょう。
それが「羽田由美子期」へ移り変わっていく変遷の真っ只中、と解釈したくなります。

私が好きなのは、この女性像に憐憫や同情を寄せつけないくらいの、その冷ややかな眼の曇りようです。
この作品でも、彼女がアットホームの対極にあるように思えるのは、
彼女が四姉妹とは対照的に、家の中に姿を現わさず、ひとりだけ携帯電話でしゃべるといった条件づけもさることながら、
依子さんの存在そのものが、『四姉妹物語』の企画(または規格)の範疇にいないということでもあるのでしょう。

主題歌はCM同様、L←→Rの「Hello,It's Me」。いい曲です。
黒沢健一氏はブライアン・ウィルソンはじめ、ポップスマニアとしても有名。
聴いていると、90年代ど真ん中の音が、なぜかいま一番懐かしく響くことに驚かされます。

*「90年代レトロ」にもうちょっとおつきあいいただけるかたには、
愛という名のもとに』(1992)
雀色時』(1992)
夏ソリトン モンド宣言』(1994)
イルカに逢える日』(1994)
東京SEX』(1995)
唄を忘れたカナリヤは』(1997)
のページを、それぞれご覧ください。


1995年1月28日公開 
製作=江崎グリコ 配給=東宝
本田昌広 監督
大川俊道 脚本  
飯島早苗 台詞 
赤川次郎 原案  

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