『示談交渉人甚内たま子裏ファイルE』(2008)

というわけで、保険会社ハピネスジャパンの立木美保さんを主人公にした・・・
なんてことばかり書いてると、ホントに怒られますよね、しまいに。
しかし、人気シリーズであるがゆえに、なんにも知らずに来られるかたもいらっしゃるわけで、
最初に毎度ちゃんとお断りしたほうがいいかもしれません。
このサイトは、立木美保役の洞口依子さんを応援するファンサイトで、
出演作解説は、その作品での依子さんについて語るのが主旨です。

ついに6作目にもなった今作は、いつにも増して俳優陣が充実しています。
メインの渡辺えり(今作より、「えり子」から改名)さん、依子さん、そして宇梶剛士さんはもちろん、
部長役の小野武彦さん、課長の平泉成さんが今回は大活躍。
さらに、小野寺昭さんに山口美也子さんの夫婦役、いとうあいこさんに三輪ひとみさんら女性陣、
そしてなんと言っても、山本圭さんが大熱演。山本さんは、最近、比較的抑え目の演技を拝見していましたが、
あの、前髪ハラリで思わず議論しちゃいそうな、政治経済の先生みたいな、おなじみの山本節が久しぶりに聞けます。
個人的には、ここがいちばんのツボでした。

今回たま子さんが助けるのは、なんと勝田部長。
小野寺さん演じる旧友の車で移動中、追突事故に巻き込まれます。
警察の見解では、小野寺さんが起こした事故ということになってしまっている。しかし、事実はちがう。
小野寺さんが追突する寸前に、相手の車はすでにガードレールに突っ込んで致命傷を負っていたはず。
それを証明するため、たま子さんらが東奔西走するわけです。

相手方の未亡人いとうあいこさんを訪問した帰り、門の前でばったり遭遇するのが、
立木美保さんと、小林千晴さん演ずる平野さんのハピネス・ジャパン組。
こちらはこちらで、追突されたレンタカーの損害をめぐって動いています。

毎度のことながら、この「偶然ばったり」が楽しみで待ってしまいます。
ここは、渡辺さんの「あら、美保さん!」もいいし、依子さんの「たま子さんじゃない!」もいい。
もちろん、両者とも、視聴者にあいさつしているわけです。
そしてサラリと友好的にこの場は別れるのも、毎度おなじみの趣向です。

次に美保さんが登場するのは、少しばかり先。ここも、毎回、だいたい引っ張ります。
今回は、ハピネス・ジャパンの本社をたま子さんが訪れます。
警察の見解を崩してでも真実に近づこうとするたま子さんが相談に来るわけですが、
「それは私たちの仕事じゃないわ」と断る美保さん。
細い。依子さん、非常に細いです。

美保さんは、たま子さんの人情派ぶりを際立たせる存在なわけでして、
たま子さんよりもビジネスライク、よけいな干渉も感傷もしない人。
な、はずなのだけど、物語の展開とともに、そうでもない面がのぞいてきます。
今回は、死亡した運転手の愛人がハピネスジャパンにやってきて、
レンタカーの代金を払ったのは自分だから、自分も保険金を受け取る権利がある、と主張。
これが三輪ひとみさんでウマいんですけど、彼女がしゃべっているあいだ、
美保さんは立ち上がって窓から景色をながめている。
この背中で聞いているシルエットにみなぎるカッコよさ。
そしてほんの少し横に向けた顔が、あ!山藤純子だ!
(山藤純子って誰?というかたは、『ジュテーム〜わたしはけもの』の解説をどうぞ)
同じ時期の撮影ですからね。少しけだるい視線の動きが、まさに「引き受けてくれるかしら?」。
そのまま愛人の隣りに腰をおろすと、
「保険にはルールってものがあるのよ。あなたは、奥さんがいるのを知ってて、あの人とつきあってたんでしょ?
だったら、ルールを守らなきゃ」
立木美保さんは確かにこういうキャラではあるけど、今回は色っぽさ倍増です。

そして美保さんはこのあと、彼女の相談に乗ってあげることになり、最終的にはかなりいい役どころを持っていきます。
また、最後の最後、今度は未亡人のもとを平野さんと訪れるシーンでは、
何も言わずに画面左奥に坐っている依子さんに、鞘におさまった名刀のような凄みと切れ味を感じます。
依子さんの、この「いい人」を制限しながら演じるさじ加減、今回はとくに冴えていました。
たま子さんが人情によって事件に向かう人であるなら、美保さんは、遵法が先に立つわけですね。
意地悪とかそういうんじゃない。
このへんのバランス、悪い人じゃないけど、簡単にいい人でもない見せ方が板についてます。

いっそのこと、スピンオフを作ってはどうでしょうか。
人情物もいいけど、媚売らないヒロイン探偵って、ウケるんじゃないかなぁ。
『立木美保の”表”ファイル』。いまの時代にあってるような気がしますが。


2008年5月26日(月) 21:00〜22:54
TBS系列  「月曜ゴールデン」枠にて放送
金谷祐子 脚本
佐伯竜一 演出

(シリーズ5作目はこちら

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