〜洞口依子 出演作品解説〜

『示談交渉人・甚内たま子裏ファイル(3)』(2004年)


このシリーズ全体の洞口依子さんについての私の感想は、『示談交渉人・甚内たま子(1)』の解説で
概ねだがまとめた感がある。
そこでも書いたことの繰り返しになるのだけど、依子さんの演じるハピネスジャパンの立木美保は
第1作目と
第6作目(2008年オンエア。現時点の最近作)ではキャラクターの印象が変わってきており、
その変化はこの3作目あたりから見受けられる。

ストーリーは今回やや込み入っていて、冒頭から3つの事故が立て続けに起こる。
水道修理工(布川敏和)の運転する車が飲酒運転の若者に衝突されて死亡。 
加害者はたま子側の保険加入者で、保険金の支払いが滞っていたばかりか、自賠責にも入っていなかった。
被害者の弟(前田耕陽)は満足な金額が得られないことに激怒し、たま子は改善策に乗り出すが、
別の日にはねられた老人(つじしんめい)の事故を調べると、その加害者は先日の事故の被害者の弟。
また、この老人は、たま子の息子(山田孝之)のアルバイト先のスーパーでやはり事故に遭っていたことがわかる。
最初の死亡事故の被害者はハピネスジャパンの保険に加入していたため、例によってたま子と立木は現場で遭遇。
ただし、今回は明らかにたま子側の加入者が悪く描かれており、立木美保は最初からごく自然に優勢に見える。
そのためか、今回は人情派のたま子が理詰めの立木を逆転してゆく図は強調されていない。

立木美保は、あくまで現実的な状況を合理的に解釈して進める人物であり、姑息な手段を弄せずフェアプレーで人情派のたま子の前に立ちはだかる。
依子さんのポーカーフェイスで冷静さを崩さない所作や口調が、渡辺えり子さんの馬車馬のような奮闘ぶりと向き合ったとき、
狡猾な存在ではなくひとつの正当な仕事のあり方として手ごわく映る。
また、立木美保が心情的にたま子の側に引き寄せられていく展開というのが必ずあって、
その箇所で一瞬不意をつかれたように戸惑いを見せるところも、「洞口依子による立木美保」像の魅力だと思う。
この3作目では、自らの誤りに気づいた彼女がたま子にどう協力するかの展開が後半の流れを作っており、
そこでたま子の味方をしながら、尚もそれを素直に友情として示さない性分が、依子さんの天邪鬼な可愛さをほのかに匂わせていて佳い。

足を棒にして歩き回るたま子と気がつけばそこに立っている美保。
たま子のポリシーに近づいてゆく立木美保がいて、立木の姿勢に仕事のシビアさと厳しさを認めるたま子もいる。
そんな彼女たちのライバル関係とそれぞれの筋の通し方を楽しみにしている私には、ちょっと立木さんが好人物すぎるのが惜しいが、
シリーズの中の1エピソードとしてこういう回はあってほしい気もする。

6作目での依子さんもとても良かったし、今後も続いてほしい。立木美保に事故の嫌疑がかかる、なんてストーリーはどうだろう?


示談交渉人・甚内たま子裏ファイル(3)』 
2004年1月19日 21:00〜22:54
TBS系『月曜ミステリー劇場』にて放映

演出 本橋圭太 
原作 柳原三佳、浦野道行 
脚本 金谷祐子 




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