〜洞口依子 出演作品解説〜

『さむらい探偵事件簿』(1996〜1997年)


松田優作主演のドラマ『探偵物語』の時代劇版を、というコンセプトで作られた異色作にして快作。
江戸の町で「探偵」を営む本間五月(高橋英樹)の活躍に、奉行所の同心の新城半兵衛(石橋蓮司)、おかっ引きの文六(有薗芳記)、
遊女のトキ(洞口依子)、おねえ言葉の質屋の又造(梅津栄)らが絡み、パロディーや時代考証を無視した八方破れな展開で
弾けるように笑わせてくれる。
残念ながら現在ソフトとして入手できないのだけれど、「時代劇チャンネル」で放映されたりしている。

トキ役の依子さんは、まるで最初からこのドラマの世界に生まれてきたかのようになじんでいる。
『オトコの居場所』(1994)、『パパ・サヴァイバル』(1995)、『鬼ユリ校長、走る!』(1995、1996)と、
彼女はユーモラスな作品でも個性を発揮するし、とくにこの90年代半ばではホームコメディ調の作品でそれが光っていた。

ただ、それらは周囲から大なり小なり浮いたキャラクターとして映ることが多かった。
この『さむらい探偵』での彼女は、声を張り上げて浮かれ騒ぐほど、飛び跳ね走り大笑いするほど、作品の空気に溶け込んでいくのが面白い。
オンビートで突っ込んでくる彼女が、全体のオフビートに揺れてじつにカッコいいグルーヴを感じさせる。
ノリにのって演じる彼女とトキという役の色気と気風のよさがぴったり重なって見えるのだ。
可愛いが、可愛らしすぎないのもいい。徹底してドライ。それがまた人間的な可愛さを倍加する。

きっと、このドラマと演出(村川透、齋藤光正、長谷部安春、井上泰治)や共演(石橋蓮司、梅津栄)の人たちのバックグラウンドと志が、
依子さんの「それはおもしろい!」という意気込みの大きさと、みごとに一致したからではないかと想像させる。
いや、そうした思いは、このドラマに携わった人たちが共通して持っていたのだろう。
だってこれ本当に面白いんだもの。
画面の隅々から、見終わった余韻から、本当にやりたいことをやってやろうとする作り手の真剣な遊び心が伝わり、それが哄笑させる。
美しい作品だ。そしてここでの洞口依子さんも、そこからまったくブレることなく美しい。



『さむらい探偵事件簿』 
1996年10月29日から1997年3月4日まで 20:00〜20:54
日本テレビ系にて放映

制作:長富忠裕、高橋靖二
プロデューサー:内堀雄三、広松肇、今井正夫
脚本:柏原寛司、扇澤延男、いずみ玲、奥村俊雄、田部俊行、金子裕、酒井直行
演出:村川透、齋藤光正、長谷部安春、井上泰治
音楽:宇崎竜童、井上堯之
制作:日本テレビ  制作協力:東映太秦映像



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洞口日和