パイティティのつくりかたpart3
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-2008年2月2日、パイティティのアルバム・レコーディング現場を潜入レポート-


part3 


「カッパくん」登場。私の携帯にコール。
「カッパくん」から電話が入る、という事実だけで、
とくに張りつめた緊張感のなかったスタジオを、一気に、
さらにデレンデレンに緩ませる、この脱力という名のチカラ。

私の顔を見るなり、
「なんだ、東京に住んでるんじゃないの、マネージャーさん?」
住んでません。それに、マネージャーさんじゃありません!
だいいち、マネージャーが東京に住んでなかったら、どうなるんですか。

ややあって、薫さん登場。
ここでパイティティのメンバーが、「バンド」らしいたたずまいを帯びた気がします。



私は薫さんの大ファンです。

若輩者が失礼を重々承知で申しますが、
このかたは、カッコつけようとすれば、
どんだけでもカッコつけられるくらいカッコいいのに、
あえてそこから外れたところに身を置いてるようで、
しかもそれがまたオリジナルにカッコいい。

また、ダジャレひとつ取っても、
落とし処をちょっと薄暗くしてあるというか、
派手にこけさせるのではなく、ひねった後味で笑わせてくれたりする。
とても好きなセンスです。

デロリで最初にライヴがあった夜、
ちょうど店内にロキシー・ミュージックの「アヴァロン」が流れて、
私は隣の薫さんに、
「この曲のリズムって、なんでしょうね」と話を振ったところ、
にこっと微笑んで、
「なんでしょうね。サンバのようでもあり…」
と身を乗り出すように答えてくださって。
「レゲエも入ってますよね」
「うん、レゲエも入ってる」
「変わったリズムですよね」
「おもしろいリズムですねぇ」
こういう会話があったことが忘れられません。

画伯が薫さんに録った音源をいろいろと再生して聴かせ、意見をうかがいます。
さっき軽く練習した手拍子を、「ノリがよくない」とズバリ指摘。



ファルコン、依子さん、薫さん、私、そして「カッパくん」の5人で本番に臨みます。
「俺、リズム感ないんだよ」と言って笑う「カッパくん」が何度かずれるのですが、
ずれが一定しているので、なんとも愛嬌のある手拍子にも聞こえ、オーケーに。
私もこういうのは合ってないほうが好きですが、これ、使われるのだろうか。

今回初めて聴いた曲が、なかなかの傑作です。
じつにもう、「離陸!」という空への思いをかきたせるアレンジと
とってもおぼえやすいメロディー。

この曲のギター・ソロをあれこれ検討して、
ファルコンのスライドがいいだろう、という漠然とした期待は一致しています。
曲調が洗練されたコード感あるものなのですが、
あえてここにドロ臭いブルース・ギターをぶつけてみたい。

というわけで、ファルコンがフライトに旅立ちます。
画伯、ヨーリー「行ってらっしゃい!」
ファルコン「じゃあ、ちょっと行ってきます。ははは」

さすがにうまい。
緩急も端整についているし、畳みかけるようなフレージングも、
きれいにまとまっています。

しかし、

本人にとっても、なにかが足りない。

何度かテイクを重ねるほどに、全体の航路も見えてきたようです。
演奏はこなれてくる。
ただ、曲と一体になったようなドライヴ感の点では、
まだまだ、はじける余地がありそうです。

いったん、休憩。

薫さんがギターを手に取ります。
このへんのニュアンス、バンドをやったことのある人ならわかるでしょうが、
信頼関係ですね。


薫さん、スライド・バーをノリと勢いに任せてギュンギュンに滑らせます。
後半、つんのめったり走ったりも構わずにフルスロットル。

薫さん「はははは、やりすぎたかな」
画伯「そのくらい突っ走っていいんだよ」

依子さんから
「ファルコン、今日は車でしょ。明日おもいっきり飲んで弾きなおせば?」

ファルコン、気をとりなおして、再チャレンジ。


弾き終わって…


 
オッケー・サイン、いただきました。
ただ、やはり翌日、酒を入れて録り直すことに。
 
今回、取材するまで気になっていたのは、デビュー・アルバム制作の意気が込みすぎて、
暑苦しいものになるんじゃないか、ということでした。
とくに、ビートルズ好きの石田画伯のメーターが後期ビートルズの方向に振り切れて、
緻密なアレンジや多彩な楽器構成に傾倒しすぎた場合、
それはそれでおもしろいけど、せっかくのファースト、
一発録り並みにフレッシュで鼻息荒い音のほうがいいのになぁ、
という心配もあったのです。

しかし、この現場を見て安心しました。
画伯はパイティティを広い空に向けて離陸させようとしているし、
なによりも演奏のグルーヴを重視している。
メンバーも抽斗の多さを躍動感で表現しようとしているようです。


セッションの後半は、ほとんど画伯とファルコンのふたりだけの世界になりました。
画伯がコード譜を書いていって、ファルコンがフレーズを紡いでいく。

依子さん「まるで男子校の部室だよ」
私「付き合いだして一週間のカップルでも、あそこまで仲良くないでしょう」
依子さん「私たちがここにいなかったら、どうなってるの?あの2人は」

私は依子さんに、ギターを「持つ」ことを強力推薦。鬼プッシュ。
依子さんは、ウクレレを手にしても武器に変えることができる。
それくらい、ギターを「持つ」美しさに恵まれた人。


「アタシもスライドできたらいいなぁ」とヨーリー。
シド・バレットもスライド者だ!なんでもあり!がんばれ、ヨーリー!


これもありかも。


そして、今回私がいちばん好きなのが、これです。

やっぱり、依子さんはこういう佇まいのとき、魅力満開ですね。

のようなわけで、
できるだけセッションの空気を味わっていただけるよう、まとめましたが、いかがだったでしょうか。

ちなみに、終わったのが深夜1時前。外は雪が降り始めていました。
われわれが、当初9時ごろかな、と言っていた食事に出たのはこのあとでした。


 
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