番外編 <京都みなみ会館 黒沢清・西島秀俊、合格ナイト>
『神田川淫乱戦争』『ニンゲン合格』『ドレミファ娘の血は騒ぐ』『LOFT』(2009年1月17日23時55分〜翌朝6時45分)

(このサイトは洞口依子さんのファンサイトですが、この記事は黒沢清監督のファンのみなさんに読んでいただいても大丈夫な内容です…だと思います)

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みなみ会館は京都駅から南へ徒歩15分、近鉄東寺駅から徒歩5分。
五重塔で有名な弘法さんの東寺が目と鼻の先。席数200弱の映画館です。
いわゆる、マイナーな映画をかけてくれる、依子さんふうに言うと「スウィート・マイノリティ」な小屋。

若者多し。
男も女もお肌ツルツルの、20代前半とおぼしき層でロビーはいっぱい。
女の子は2人連れ率が高く、男の子は1人で来ている人が多いみたい。
なんとなく、わかるよね。

黒沢作品は封切館でも若者が多いと思うけれど、さすがにここまで追いかけるとなると、
「駆けつけた」という心意気が肩にあらわれている人もいる。
期待と、イベントに参加する喜びで、表情が、目が、キラッキラしている。
いいよなぁ、こういうの。

大阪での依子さんのリーディング・セッションに来たというかたに、声をかけられる。
「黒沢って、京都で見るのと大阪で見るのと、なんかちゃいますわ」その人は言う。
「え、どうちがうんです?」
「なんか…シュッとした感じがするでしょ、京都の街って」
「ははは。シュッとしてますかぁ。脱力してません?」
「そうですねぇ。シュッと脱力してる」
「どんな脱力やねん」

あ、「シュッとした感じ」、この表現が通じなかったら、すみません。検索してみてください。
そういう言い方がある、と思ってください。説明がむずかしい。

懐かしい知人とも再会。彼らも若い。
若いけど、鈴木清順が好きだったり、石井輝男を追っかけてたり、
そういう若者はいつの時代にもいるものです。

横で入場を待っている女の子が連れの男の子と話をしている。
男の子が、「黒沢映画では女優が目立たない」というと
「洞口依子がいるやん」女の子がサラリと返す。
おっ、と思わず耳を傾ける。クールな感じの子。
彼女が『カリスマ』を語りはじめる。『ドレミファ娘』もDVDで見たという。
そして話しているうちに、どんどん熱が高まっていくようで、
最後には「洞口依子。めっちゃ好きやねん」と力説してしめくくった。
勉強になりました。
でも、いいなぁ、こういうの。
口角が上がってしょうがない。口角機動隊。

最初に上映されたのは『神田川淫乱戦争』。

黒沢監督の商業映画デビュー作。1983年のピンク映画作品。
スクリーンで観るのは僕はこれがはじめてでした。
やっぱり、音楽が好き。
黒沢監督がどういう音楽のご趣味をお持ちなのかは知らないけれど、
ロックやブラック・ミュージックに浸ってきたぼくみたいな人間には、
思いもよらないようなところからいつも衝かれる。
麻生うさぎさんと美野真琴さんの2人が、窓枠にもたれて外を見ている顔が好き。
そうそう、隣室とのトランシーバー通話が、おもしろかった。
いま見ると、「あっ、ケイタイね」と軽い感じで納得してしまう自分がおかしい。
神田川での格闘シーンを見てると、撮影当日、通りがかってこれを目撃した人はどう思ったんだろうかと、
気になってしまいます。

次が『ニンゲン合格』。

これは解説があるので
そっちをどうぞ。
西島クンの手足の長さが、スクリーンだと際立ちます。
とくに路地裏でよその店の段ボールを踏み蹴りして逃げる場面の脚や、
役所さんに引きずられるのを、病院に連れて行かれたくない犬のようにうずくまって抵抗する腕。
それから、久々に自宅に戻った彼の部屋のカーテン。
すごい風でまくれあがってますよね。黒沢さん、強風、好きですよねぇ。

依子さんのシーン。
土手で座って会話している2人の人物を、あんなふうに撮るんだ。
ホントにウクレレが中央にありますよね。
この映画の依子さんは特にフワフワとつかみどころがないです。
彼女のことをぜんぜん説明しないで、いきなりあの歌のシーンに入っちゃう感覚がとても好き。

ラストのカットも、そして間髪置かずに流れる歌も、
やっぱり何度見ても、「なんかヘンだよなぁ」と違和感があって。
キャッチボールで、すごくいい球なんだけど、なんでこっちに投げるんだろう?、みたいな。
でもその落ち着かなさが気になって気になって、結局好きになっちゃうんですよ。

そして『ドレミファ娘の血は騒ぐ』。

これも
特設コーナーがありますので。

やはり別格。
この映画を冷静に観ることは、ぼくにはできません。
もう何度も何度も見ている作品なんだけど。

地元の映画館で見るのは、これがはじめて。
封切のときは、大阪でしたからね。

ぼくは最後列の端っこに座っていたのだけど、今日つめかけた若者たちのもしかしたら大半は
この映画が封切られたときにまだ生まれていなかったのかも、とぼんやり考えました。
彼らはきっと、『アカルイミライ』ぐらいからの黒沢ファンなんだろうな。
そんな彼らの目に、いったい『ドレミファ娘』はどう映るんだろう?

スクリーンいっぱいに映しだされたオープニングの依子さんの表情。
あぁこれだよ、と目を細める。
ビデオでもDVDでもない。やっぱり、彼女は映画館の暗闇に生きているんだ、と。
スクリーンに映されるためにある顔、とでも言えばいいのか。

今回スクリーンで久しぶりに見て実感したこと。
加藤賢崇さんの素晴らしさ。
この人の動きの面白さ、人を破顔にしてしまう、脳を総入れ替えされるような晴れやかな感覚は、
TVモニターからは絶対伝わらない。
歌唱シーンはもちろん、足の蹴りあいも、そして階段を『神田川〜』ふうに上り下りする動作も、
それからなによりもあの笑ったときの顔がたまらない。あんな変な笑顔、ほかに類がない。

ぼくは洞口依子さんの大ファンであるけれども、
『ドレミファ娘』を好きな理由の大きな部分に賢崇さんがいることが、今日はじめてわかりました。

そしてトリは『LOFT』。

近年の黒沢作品ではもっとも賛否両論に分かれた作品だけども、ぼくはかなり好きです。

これも相当変わった作品ですよね。
ホラーというか、怪談というか、お化けが出てくる話だけども、
『嵐が丘』だったり『ねじの回転』だったり。トビー・フーパーでもあるんだろうし。

こうして再見すると、あれ?結局ドロを吐いたことはナンだったの?とか、
よけいに妙なところに気が行ってしまいます。

最初に観たときは、この映画の妙さは西島クンの妙さなのかと思ってたんですが、
じつはトヨエツの妙さのほうが強力なんですね。

トヨエツ先生が悪夢から目覚めてからの展開が、もうぼく好みと言いますか、
彼がミイラに説教する最高にケッサクなセリフが脱力させてステキです。
あのラヴシーンも、美男美女であるだけによけいに笑いが沁みます。
でも、そういえば、なにが「ロフト」なんだろう?そういう疑問も含めて愛してしまう作品です。

通算7時間。睡魔と闘っている人たちもいたみたいですが、ぼくは平気でした。
終わってから、先述の若い知人たちと座談会。
彼らも、「とってもおもしろかった」と満足げでしたよ。
お開きは午前9時。あはは。青春かよ。
シュッと脱力。

スウィート・マイノリティ、口角上げて行こう!行きませうよ。


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