『女性保安員・二階堂雪 万引きする女』(1998)


警備保障会社から大型スーパーに出向いている保安係・二階堂雪(木の実ナナ)が主人公のシリーズ第1作。
雪は私服巡回のさなか、派手な服装の客・麗香(大沢逸美)の行動に目をつける。
レジ係の真理(洞口依子)の同窓生で、モデル出身の「ファッション・ジャーナリスト」である麗香の万引きを確認し問い質すも、
盗んだはずの商品は見つからず、平身低頭することに。
麗香が取材旅行で姿を見せなくなった頃、地味で目立たなかった真理の服装や化粧が華美になってゆき、
振る舞いも人が変わったように明るくなってゆく。

とても丁寧に作られた作品で、事件のサスペンス性よりも、雪の夫(角野卓造)や娘(中山忍)、
雪の上司(中原早苗)やスーパーの従業員(深浦加奈子)、店長(ルー大柴)らが絡んでの人間ドラマの要素が強い。
とくに中原さんと深浦さんの見事な助演と大輪の花の大車輪のごとき木の実さんとの呼吸が楽しい。
娘がお見合いを前にして「色気のないメガネ」をはずし、失業中の夫が仕事が見つかったと嘘をつくなど、
前半での細かい展開が後半での真理の変貌に重なっていくところなども、本当に丁寧に作られていると思う。
また、ファンとしては『マルサの女2』の鏡台へのオマージュと言いたくなるシーンには心躍るし、
友達2人の軋轢という設定は『とおりゃんせ』、依子さんの醸し出す寂しさには『美空ひばり物語』とリンクさせたくなる。

そしてこの作品での洞口依子さん、これはもう見どころ満載と言っていいくらいの大好演。
事件の部分は『太陽がいっぱい』を下敷きにしてあるようで、依子さんをトム・リプレイに喩えていいだろう。
彼女の変化がドラマの大きな興味の源であり、その種明かしはスレスレのところで言い控えたまま話が進む。
見ている側はもうすべて察しているのだが、彼女がどこまで計画的であるのか、その動機にどこまで同情できるのか、
漠然と祈るような思いでその成り行きに惹きつけられ、真理の純粋さに賭ける二階堂雪の心と少しずつ近づいてゆく。
それは、依子さんが表現する真理の内向的な人物像に見守りたくなるような健気さと孤独感があり、
彼女のズルさ、場当たり的な詰めの甘さを露わにしていく過程でも、視聴者がその2つを追い続けるからだろう。

事件の回想を含めた空港でのシーンは、その2つが彼女から失われていないかどうか、心の綾を覗き込むミステリーがある。
そしてこの謎を演じる依子さんの表情には、ハッとさせられるほど素晴らしい瞬間が何度も訪れる。
そこには「怪しさ」というよりもバランスを失した人間の「あやうさ」があり、ストーリー以上に、
このドラマをサスペンスたらしめているのは、洞口依子という女優の持つミステリーなのだと感銘を受ける。


1998年4月27日21:00〜22:54 TBS「月曜ドラマスペシャル」にて放送
真船匡氏 演出
齋藤珠緒 脚本

出演作リストへ戻る 


←Home