『刑事殺し〜完結編〜』(2009)

当サイトは洞口依子さんのファンサイトです。
この記事も、作品中の洞口依子さんに関するもので、作品自体についてではありません

・・・とはいえ、面白かったです!

この『刑事殺し』は1作目も2作目も佳かった記憶がありまして、
今回も前2作同様、坂上かつえ=脚本、内片輝=演出で、これが「完結編」と銘打ってのオンエアです。

2人の刑事とその家族、2つの殺人事件とそれにまつわる過去の出来事が錯綜する物語設定。
言葉で追うと、入れ子構造が複雑にも思える筋立てなのですが、
生活感をにじませた演技の迫真性がシンプルで太い牽引力になって、緊迫感があります。
その引っ張り具合がとっても心地よかった。

このドラマの洞口依子さんについて書くとなると、どうしても筋を追わなければならないので、
再放送でご覧になるかたは以下は読まないように。

張り込み中、主人公の野津刑事(仲村トオルさん)が、家族の急用で現場を離れなければならなくなり、
その不在時に、相棒の六平直政さんが刺殺されるという失態をおかしてしまいます。
後悔と自責の念にかられ、大杉漣さんの刑事と共に弔い合戦に臨んだ彼のもとに飛び込んできたのが、
同じ時刻に起きた、現場の真向かいにあるアパートに住む女性の殺人事件。
証言などから、被害者女性は若い男につきまとわれていたらしいこと、
殺された刑事は、彼女の犯人を目撃した可能性があることが次第に判ってきます。

この被害者女性・柏木寛子が依子さん。

すでにこの世にいない被害者の役としてすぐに思い出すのは『留守宅の事件』でのとき。
あれは、開巻まもなく哀れな遺体となって発見されて、彼女の生活を追ううち、
さらにその哀切がつのる、という展開でありました。
そんな流れを予想しつつ見ていると、このドラマは大きくひっくり返されることになります。

彼女が登場するシーンは、全部で7箇所。
まず、「柏木寛子が若い男につきまとわれているのを見た」という証言者の回想。
(ちなみに、2名の証言者はサンドウィッチマンの2人)
これは遠目に見た目撃証言なので、夜の歩道でのやりとりを街路樹か垣根越しに引いて撮っています。
ニットキャップをかぶった男の顔は確認できず、ストーカー行為に困っている女性、という印象。

2つめは、彼女の経営する美容室でのシーン。
決して裕福ではないはずの寛子が、なぜか「300万円の現金入り封筒からお金を支払った」と、出入り業者の証言。
ここは、業者の男性とのやりとりが斜め上から撮られていて、彼女の表情は正面からとらえられません。
女手ひとつで慎ましくも店を経営する女性の健気な生活のワンカット。
隠し撮り風に表情をとらえないのが、その後の運命を知っている視聴者の哀れを誘いもします。

3つめ。結婚してつくばに住んでいた頃の寛子。茨城の警官の証言です。
介護していた舅を、不覚にも交通事故で死なせてしまい、その現場で泣き叫ぶ姿。
ここで初めてカメラが彼女の表情をはっきりと映します。
過去が露わになるほどに、その不幸が見る者の同情を引き寄せるのは、ここがピーク。

4つめ。大杉さん演じる刑事が寛子に後ろ暗そうな金を渡しているシーン。
大杉さんの息子が見てしまった、という証言です。一気に「悪女」の旗印(フラグ)が掲げられます。
不服そうに、封筒の中の札を数えるなどして・・・これ、短いけど依子さんと大杉さんの共演なんだよなぁ。
感慨深いなぁ。私はですね、この2人が並ぶと頭がショートしそうになるくらいあのシリーズのファンなんですが、
どうでしょう、この「映画の国」のにおいと佇まい。

5つめ。ストーカー(と思われていた)大杉さんの息子が中野英雄さんに殴られる美容室のシーン。
出ました、中野さん。みなまで言いますまい。
ここは2番目のシーンとほぼ同じアングルで、物語の経過が先にあった意味合いを反転させて、
このドラマは、こういうところに要所要所しっかり留め金がかけてあります。

6つめ。大杉さんの息子が寛子の部屋を訪ねるシーン。
ドアを開いてのぞかせる依子さんの顔は、もはや険が立っています。
右の眸の下あたりに、うっすらとあの独特の翳が浮かんできて・・・

そして7つめ。3番目のシーンに返っていくのです。
舅の事故死に立ち会う夜。あの涙の前にあった彼女の本当の姿。
徘徊に出た舅を追いながらも、日頃の疲れや夫の浮気への怒りなどが足どりを徐々に重くさせていきます。
そして追いかける気力を失って立ち止まった彼女の耳に、車の急ブレーキの音。
ゆっくりと振り向く彼女が肩から上の絵でとらえられて、その表情が驚きからほんの一瞬、
唇のはしがピクリと皮肉な笑みに動いたか動いてないか、その判定は私にはどっちでもよくて、
この瞬間のドス黒さが伝わったとき、彼女の目の下によりくっきりと、サッと、翳が立ち現れるのです。
「ヨーリー・シャドウ」、頂戴しました!

証言者の目に映った寛子像を、ほとんど前後の繋ぎや話の流れから隔たれたところで演じる依子さんでした。
後から見直しても、同じ女の別の顔、として納得させられます。


2009年8月22日(土)21:00〜22:54
テレビ朝日系列『土曜ワイド劇場』枠にて放送 
内片 輝 演出
坂上 かつえ 脚本


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