『警部補佃次郎14 永遠のナゾ』(2002)
(ネタバレ大ありです)


2時間サスペンスでの洞口依子さんの登場シーンで心に残っているのは、たとえば『50億を相続する女』。
冒頭から、サングラスをかけて物陰から顔を出すという、きわめて重要参考人度の高い登場ぶりが鮮やかでした。
この『警部補佃次郎14 永遠のナゾ』でのそれもインパクトはかなり強いです。

新聞記者の殺害事件で捜査線上に浮かんだ渡辺梓さん演じる社長夫人が、玄関先でふと回想するフラッシュバック。
ドアを開けて姿を現わした浅井薫(これが依子さん)と彼女を背後から照射する強烈な逆光!
やがて間を置いて描かれるそのシーンの続きでは、画調がセピアに転じて、疑惑の刻印がはっきりと示されます。
ここまで強調してあると、通行人をゴルフクラブで殴って殺してしまう『殺意』のような、
細部に2時間サスペンスのデフォルメが施してあった作品を想起するのですが、こちらは正攻法。
詰将棋の解説を見ているかのように整然と展開してゆきます。

で、ここからいきなり大いにネタバレなのですが、
この作品、前半で登場する人物がことごとく警察の聴取に隠し事をしていることが暴かれます。
だから回想シーンでの依子さんが話す内容も、視聴者は疑ってかかりますし、登場時のライティングが文字通り後光となって
浅井の疑わしさをいや増します。 でも、彼女は犯人ではなかったんですよね。

2人の女は、火野正平さんの社長を挿んで、本妻、愛人という関係になっている。
そのことに加えて、自分が社長の子を宿した事実を本妻に打ち明けに来るのがこの回想シーンです。
下がり気味の眉も気弱げな渡辺梓さんと、きりりと吊り上った眉を動かさず堂々と臨む洞口依子さん。
本妻に社長と別れてほしいのではなく、自分が子を産むことを認めてほしい、そうでないと母子ともに後ろめたい人生を送ってしまう、
キッパリとそう談判を切り出すんですけど、本妻に対して詫びる気持ち、そうする意志があることを誠意として持っているんですね。
これが駆け引きであることも忘れていない、そのへんの引き下がれないプライドと手腕と人としての情の部分が、
隙のない所作の中にこめられています。 これがいいんです。
言ってることは身勝手なところもありますけど、なかなかシャキッとした女性像ですよ、浅井薫は。
このカッコよさが決まっているから、親子鑑定の際に入れ替わるという提案を本妻が呑む展開の裏に、
奥さん自身のやましい都合があったとともに、この浅井薫への信頼感もあったんじゃないか、なんて想像ができます。

回想シーンだけではなく、実際に刑事が浅井の自宅を訪れる場面もあります。
「いや、今日はお子さんに用があってまいりました」と言う刑事に、依子さんの顔の右半分、目の下あたりを中心に広がる陰翳。
これがあらわれると、一瞬、不安や不審だけでなく、不満や不機嫌などイガイガのいっぱい付いた抗いの空気を呼び起こします。 

女ふたりの思惑がもつれて出来ているサスペンスですが、ドロドロした部分は少なく、ドライにすら思えました。
やはり、依子さんの背筋がシャンと伸びたあの回想シーンが効いているのではないでしょうか。
真犯人である奥さんが逮捕されたことで、浅井薫にもお咎めはあるだろうし、彼女の人生も躓くのだろうけれど、
そこを後日談として(特にエンド・ロールのバックで)拾わないのは2時間ドラマとしては珍しいのでは?


2002年3月12日(火) 21:00〜22:54 NTV系「火曜サスペンス劇場」にて放送

夏樹静子 原作
佐藤茂 脚本
広瀬襄 演出


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