はたらく女優さん
洞口依子さんドラマ『トリハダ2』収録現場を取材!(2007/9/18)


このレポは、「
一万年、後・・・・。 」の解説から続いています。

朝の6時半。
この日、早朝から洞口依子さんのドラマ『トリハダ2〜夜ふかしのあなたにゾクッとする話を“ネック”』 の収録があり、
見学させていただけることになりました。

ということで、郊外の某所まで、複数の線を乗り継いでやってまいりました。
ドラマの収録現場というと、むか〜し子供のころ東映太秦映画村で時代劇を見て以来。
マネージャーさんにお出迎えいただいてたどり着いたのは、午前8時すぎ、住宅街と小学校が並ぶ国道沿いにある倉庫。
ふだんは冷凍貯蔵に使われているそうです。

中に入ると何もないだだっ広い倉庫に、スタッフのかたが5〜6人。
機材やコード類が集められた横に椅子が数脚用意されていて、そこが待合になっているようです。
ここはどうも搬入用スペースのようで、奥に大きな分厚い壁があり、その向こうが倉庫になっていて、
いまそこで本番が収録されているとのこと。
壁の手前にモニターが数台あり、真剣な目でそれを見ているスタッフ。
小道具の監視カメラの動作をチェックしているスタッフ。
台本を手に、隅の方で何度も同じ細かい動作を繰り返しているのは共演のかたでしょう。
平均年齢は、20代後半くらいでしょうか、非常に若々しい。

15分ほどして、壁の向こうから依子さんが戻って来られました。
昨夜のリーディングのときもそうだったように、髪を下ろしている依子さんはやけに新鮮に映ります。
早朝からとあって少しお疲れのご様子ですが、表情が明るいので安心しました。

こういう現場に不案内な私は、収録のあいまというのは、セリフを確認したり、いろいろ大変なのだろうと思い、
挨拶だけしてすぐに引きあげるつもりでいたのですが、外に出ましょうよ、と依子さん。
その立ち居振る舞いというのか、現場の勝手を知った感じは、さすがに音楽を演奏しているときともちがいます。
ゆえにこのレポのタイトルは、

はたらく女優さん。

さっそく、前夜の『一万年、後・・・・。』に感激したことを依子さんにお伝えします。
あれだけキャリアのある監督が、あんな心乱れるような映画をまだ作ることが凄い、ということで意見が一致しました。
ほかの沖島監督作をお薦めいただいたり、こういう話になると、ホントに依子さんは映画がお好きなんですね。
また、リーディング・セッションでは依子さんもかなり緊張したこと、『子宮会議』以外でもあぁいう試みを続けたいと依子さんは語ります。

出番が再びきて、そこからは私も見学させていただけることになりました。
壁の向こうはさらに広い打ちっぱなしの空間で、天井は高く、ここにもモニターが2台と、カメラが1台入っています。
パイプ椅子が並べられており、その上に依子さんふくむ4人の役者さんたちが、ある異様なかたちで立ちます。
それがこのドラマ(放送日時などは正式決定後、報告します)のタイトル「ネック」の由来で、サスペンス/スリラーのようです。
照明のかげんを調節するため、スタッフのかたが天井まで届く高い脚立に乗って、即席のマスキングを施しています。
ラフな出で立ちの若いスタッフがキビキビと動いているこういう現場はいいですねぇ。

モニターに映る映像は、実際に肉眼で見えるものと、光の具合がちがいます。
当たり前なんでしょうが、シロウトにはこういうところが新鮮です。
ライヴ感を大事にした表現もいいのですが、カメラを通して作りあげる記録された映像に私はより魅力を感じます。
依子さんもよく、「生々しい表現はあまり好きではない」と言いますが、つくりものなればこそのリアリティーというのはあって、
そういう虚実皮膜のおもしろさが、女優というお仕事をつねに意識させるのではないでしょうか。

リハーサルを見ていると、少しあっけないくらいに役者さんの体の動きが少ないのは、設定上の都合もあるけど、
そこが演劇とのちがいなんでしょうね。
そのぶん、アップで映っている表情などが重要となって、カメラと俳優とのあいだに密接な空気があるのでしょう、
この間、マネージャー氏は依子さんの立つパイプ椅子を支えたり、台本を手渡したりしています。
あとでお聞きすると、台本で担当のタレントの部分を把握するのもマネージャーのお仕事なんだそうです。
また、次の収録シーンはどれか、どの部分が済んでいるのかなどの前後関係や脈絡の整理もしておく必要があるようです。
このマネージャーさんはまだこの業界に入りたてだそうで、「やりたい仕事だからやっています」と力強く答えていただきました。

本番となると、空気にも緊張感が張りつめるのがわかります。
少し離れたところで見学するので、私は依子さんの背中を見守るかたちになりました。
当然、合間に談笑している依子さんとはちがうわけでして、そのシーンの設定のなかで、その人物の心理でそこにいるはず。
これがはたらく女優さんの働いている姿で、背中で語るのはなにも男だけじゃありやせん。
しかも、カメラは斜め前のほうにあるので、私はのちにオンエアで見る場面をちがう方向と距離から見ているわけですな。
うわっ、楽しい。
洞口依子さんが、目の前で演技している!という実感と同時に、自分が見ているのが虚像なのか実像なのか、
判然としなくなってきます。
 
この本番も終えて、次の待ち時間でまた外で談笑していると、スタッフのかたが折りたたみ式のテーブルを広げてくださって、
椅子まで用意していただきました。まったく恐縮してしまいます。
なんとなく、ドラマの制作スタッフというと、忙しさのあまり部外者に気を遣うどころではない、ような印象があったのですが、
この時のスタッフの方々は、さりげない気配りをなさるかたが多いと感心しました。

音楽の話やパイティティの話から、この「洞口日和」についての話に日常のあれこれなど、収録とまったく関係のない雑談が続きました。
今回はインタビューということではないので敢えて触れませんが、依子さんはとてもお元気そうでした!
ブログを読んでいるだけでは、いろんな心の模様があらわれていて、どうなのかなと思うことも多いでしょうが、
それは誰でも同じこと。前向きな瞬間もあれば、後ろしか見えない瞬間もある。依子さんも、私たちと変わりません。
私が、「今年は新しいことにチャレンジしているので、かならず実りの季節がやってきますよ」と言うと、笑って頷いていました。
また、いまの依子さんは、演奏したくてしたくてたまらない女になっています。
いろいろと、期待できそうですよ。
それと、『
女子刑務所東3号棟』でのティモシー・リアリーの本は、やはり依子さんの私物だったそうです。正解!

しばらくすると、次のシーンの収録に移ったようです。
オンエアまで時間が短く、かなりの凝縮スケジュールで撮られているとのことで、華やかに見える世界もバックステージは
あれこれ大変なんですね。
こんなふうに、別人→自分→別人→またべつの別人、といろんなパーソナリティを往ったり来たりするのって、
けっこうキツい面もあるんでしょうね。
まぁでも、撮影現場の依子さんは、すごく自然体で活き活きしているようにお見受けしました。
女優さんなんですよね、根っからの。

8時から始まった見学(と世間話)も、あっというまにお昼になりました。
午後からはセリフの多い場面が続くとのことで、これこそお邪魔になってはいけないと、おいとますることにしました。
メイクなどはどうするのかな、と思っていたら、(倉庫の所有者のかたの?)民家を借りてそこを控え室にしているんですね!
最後に挨拶にうかがうと、依子さんはメイクの最中でした。
「レポ、楽しみにしてるからね〜」と手を振ります。

今回、こういう貴重な体験で実感したのは、女優さんだって、私たちと同じように自分の仕事、
自分の生活に懸命なんだということです。
私なんかも、どうしても憧れ目線で見てしまうし、偶像化して考えてしまいがちだけど、
実際にやっていることは、日々を自分の人生としてしっかり生きるということです。

なんて言葉で締めくくると、いかにも「はたらく女優さん」らしいでしょう?



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