『女子刑務所東3号棟・私が出遭った史上最悪の女』(1998)

ティモシー・リアリー。
60年代のアメリカ、ハーバード大学で臨床心理学の教鞭を取るかたわら、LSDを擁護するなど、
当時のドラッグ/ヒッピー・カルチャー、ひいては反体制運動のアイコン的存在。
ちなみに、ユマ・サーマンの母親とも短い結婚生活を送ったことがあり、ユマの名前も彼によるものらしい。

なんのハナシや。って、しょうがないでしょう、出てくるんだから、このドラマの中に。
雑居房の中で、洞口依子さん演じる東大出のインテリ囚人、青山志保が読んでいるペーパーバックが
ティモシー・リアリーのThe Politics of Ecstasyなんですな、これが。
この本は、きっと、依子さんの私物ではないかと思います。
洞口依子さんが、泉ピン子さんや宮下順子さんらもいる塀の中の空間でティモシー・リアリーを読んでいる風景。
いやぁ、いろんな楽しみかたのできる女優さんですが、これはまた千両千両。

このドラマは非常におもしろいです。
お約束が次々と続くのに、まったくと言っていいほど退屈させないし、グイグイ引っ張ってくれる。
そして、洞口依子さんのファンとしても、楽しみどころが満載です。
ストーリーもおもしろいんですが、その要所要所で、依子さんがどんな表情をされているか、目が離せないのです。

ヒロインは、当時『ふたりっ子』でブレイクした直後の岩崎ひろみさん。彼女が女子刑務所に服役に入るところから始まります。
雑居房には、売春斡旋で入っている大阪弁のオバチャンこと宮下順子さん、放火で入っている依子さん、
覚せい剤で入っている増田未亜さん、そして牢名主の古株、泉ピン子さんがいます。
看守が新入りを紹介する時には面倒見のいいところを見せているピン子さんは、看守がいなくなるや、即座にいじめにかかります。

ドラマは、ピン子さんが罪を犯したやむにやまれぬ事情と塀の外にいる娘への思いを描きながら、
彼女の(陰湿ではないけれどかなり獰猛な)いじめっぷり、それに対する周囲の服従と反乱劇を大きな骨子にしています。
ピン子さんのキャラクターは、常識で考えるとムチャクチャなのですが、この二面性に見る側の感情を乗っけてしまうところが凄い。

依子さんはこれに敵対する役割です。
非常にクールで「食えない」女。
学歴からくるコンプレックスか、ピン子さんも彼女には一目置いた様子。
徹底して笑わないし、人を見下している。
いつも画面でいうと正面奥のふすまにもたれかかって、先ほどのティモシー・リアリーを読んでいます。
ときにはヨガをやったりします(ヨガは、ひょっとして依子さんのアイデア・・・?)。

大好きなシーンがあります。
岩崎ひろみさんが、ひょんなことでご飯を畳にこぼしてしまうんですね。
農業を営んできたピン子さんには、これが許せない。
プラス、獲物を見つけて目が輝く(このドラマの彼女のいじめには、こういう二面がいつもあって秀逸なんですよ)。
「あんた!農家の人間が、この米を作るのに、どれだけ必死になってるかわからないのか!」って、
畳にこぼれたご飯を手でつかんで、ひろみちゃんの顔になすりつける。
と、横からこぼれた飯粒をそっと拾って、お椀に戻してあげるのが依子さん。
じつは優しい人なのか!と思いきや、かき集めた飯粒の入った茶碗をひろみちゃんに突きつけて、
「さっさと食べてよ。あんたが食べ終わらないと作業に行けないんだから!」
拍手しちゃいました。
依子さんもかっこいいし、作り手も偉い。
ヨリコロジストを狂喜させる名場面だと思います。

盆踊り大会が所内で開催されます。
ここはもう、普通に見ても、依子さん首筋がきれいだなぁ、浴衣姿がきれいだなぁ、で流せる場面なのです。
ですが、このようなキャラクターの女が盆踊りに興じているところを映していいのか?という疑問もわきます。
この冷たい女が盆踊りに羽根をのばしている姿を、依子さんはどう演じてくれるのか?ですね。
あんまり楽しそうにやっちゃうと、キャラクターにそぐわないし・・・
と思ってたら、ピン子さんが依子さんの背後から踊りながらじんわり近づいてくるという、サスペンス場面に早変わりするんですね!
だから、依子さんは役柄以上に楽しそうに踊らず、むしろ不安感を醸しだしています。

こうなってくると、依子さんがメインではない場面でも、彼女がどう映っているのかが気になってしょうがないです。
慰問の歌謡漫談ショーの場面はどうでしょうか。
ここでは、東京ボーイズの3人が、じつに懐かしい昭和の笑いをライヴで披露し、エキストラも含めた囚人役が本当に笑っています。
カメラが主要キャラの顔を一人ずつ抜いていくなか、依子さんも・・・笑ってます!
この笑いというのが、マジでウケながら、笑顔を役柄の枠内に収めようとしているかのようです。
でもときどき、抗しきれずに屈託のない可愛い笑みをもらしてしまってますね。東京ボーイズが勝っちゃったんでしょうね。

などなど、話は尽きませんね、このドラマ。
再放送したら、ぜひご覧ください。
私が太鼓判押します。

1998年6月29日(月)21:00〜
TBS系列にて放送
清弘誠 演出
関根俊夫 脚本

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