〜洞口依子 出演作品解説〜

『はみだし弁護士・巽志郎(11)』(2011年)


酒と競馬が何より好きな型破り弁護士・巽志郎(三浦友和)、3年ぶりのシリーズ11作目。

洞口依子さんの役は、強姦殺人で逮捕された若者(柳下大)の母親・裕美子。
過去にも窃盗を犯すなど素行が改まらない息子に頭を悩ませ、今度の逮捕にあたっても極刑やむなし、とあきらめている。
自身も加熱するマスコミから逃れて住所も仕事も変え、関わり合いをおそれる始末。
圧倒的に不利な状況から、しかも気乗り薄で引き受けた巽志郎が、ふとした言葉への引っかかりから真犯人の存在を確信。
裕美子も息子の無実を信じて調査に積極的に協力し奔走する。

これまで洞口依子さんが演じてきた母親像の多くは「駄目なお母さん」。
まだ30代前半の『好き? 誰かを愛してますか』の頃から、すでに堂に入った見事なダメ母ぶりで演じていた。
この『はみだし弁護士』での母親は、息子のせいで肩身の狭い思いを強いられるという同情すべき点はあるが、
息子への思いよりも自己憐憫と自己保身が強く、それに当人が自覚しているように見えないというダメさがある。

巽は最初、そんな裕美子に呆気にとられた表情を浮かべるも、マスコミの標的になる彼女に住み込みの仕事を紹介したりする。
このへん、女性に対する大人の男性としての自然な親切心が三浦さんの男ぶりの良さと爽やかさでサラリと出ているのだが、
これを受けて感謝する裕美子の描き方には、自然さの中にどこかほんのり浮ついた心地が垣間見えるようで面白い。
とくに巽に話を聞いてもらっている飲み屋での場面。
カメラはほとんど依子さんを背中で撮っているので表情は見えないが、ビールを手にした肘をときおり崩す仕種や、
笑いが微かににじんだ声の抑揚から、弱さやダメさという隙から生まれる愛嬌が場の空気をくすぐるかのようにして伝わる。
こういう点も、洞口依子ファンにとっての見どころだと思う。

依子さんと三浦さんはこれまでにも『オトコの居場所』『みんな誰かを殺したい』などで共演歴があるだけでなく、
洞口依子映画祭」の時には、「天才俳優洞口依子様。」で始まる三浦さんからのお祝いコメントもあった。
また、『素顔が一番!』での依子さんの自宅拝見の回では、尊敬する先輩として三浦さんのことが触れられていた。
そんなわけで、私も洞口依子さんと三浦友和さんの共演というのは心がぬくまるような嬉しさが先立つわけである。

『はみだし弁護士・巽志郎(11)』
 2011年4月16日(土)
21:00〜22:54 テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」にて放送

田上雄 吉田康弘 脚本
小谷承靖 監督



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洞口日和