『復活の日 洞口依子 がんで子宮摘出を告白 言葉にできない喪失感 女性が苦しむ前に伝えたい 』(2008)


この番組を見て私が思ったのは、
洞口依子さんの闘病に関する今までの番組のなかでは、
格段に主張が控えめということです。
ドラマティックになりすぎるのを、あえて避けていると思いました。

手術前夜の病室で、ビデオカメラで自分のお腹を撮り、
撫でながら別れの言葉をつぶやくところも、
「ビキニ着ても笑わないでね」と語りかける、
胸をえぐられるような独り言も、
崖っぷちで自然に出てきたままが伝わってきます。

その掛値なしの重さに、私は頭を抱え込みたくなりました。
苦しくて、思わず逃げ出したくなった、というのが正直な感想です。
そして、その重さがよかったです。

手術後のリハビリの映像がここまで使用されたのは、たぶんこの番組が初めてでしょう。
家族や友人の前で、術後はじめて歩く練習をおこなう姿。
まわりで椅子を持って移動したり、声をかけたりして見守る人たちの目線が、
画面の外からいっぱいに伝わります。
「痛い」という言葉の痛さをわかってあげられないもどかしさと、
それでも一歩ごとに一刻でも早い回復を望んでしまう、本人でないからこそ抱く思い。

そして『マクガフィン』という映画の役がもたらした試練について。
簡潔ながら、依子さんの闘病にちゃんと関連づけてあります。
ここにも、闘病の孤独と、それを見守る友人の視点が浮き彫りにされています。
独占!金曜日の告白』が夫婦というテーマから透した番組だったとすれば、
こちらは(夫も含めた)周囲の人々のサポートが印象に残る番組です。

おそらく、相当に『子宮会議』を読み込んだうえでの番組制作だったのだろうと想像します。
あの本での救済が決して晴れ晴れとしたものではないように、
この番組のトーンも低く、かえって、そのことで作り手の真摯な情熱が
ファンである私にも確かに届きました。
全国ネットのゴールデンの番組で、この抑制を持ち込むのは勇気のいることだったんじゃないでしょうか。

それだけに、私は、もし次に機会があるならば、こんな視点もあってほしいです。

『子宮会議』。
この本では、女優である洞口依子さんが、
自分のキャリアやイメージと引き換えにしてでもというくらいに、
不恰好でなりふりかまわない裸の姿を描いています。
夫婦のありかたについても、コントロールの利かない体や心への苛立ちも、
あちこちにヒビを入れるように、ノイズを立てるように、あえてさらけ出しています。
その決してカッコいいだけではない、流れを澱ませるような膿んだ部分も、
傷だらけのボロボロの姿も、できれば視聴者に投げかけてほしい。

そして、ここまで立ち直った彼女の「復活」が、
誰にでも受け入れられる明朗快活な要素ばかりではなく、
ナンセンスでブラックな笑いがあったり、
以前にもまして捩れやヒネリが利いた表現を伴っていることを、
少しでもいいから掬い取ってほしい。

それは彼女の闘病経験に何ら反するものではなく、
一人の表現者の復活にうまれるタフさと繊細さでもあるということで、
難しいだろうけれど、そこに挑んだ番組を見てみたいです。
本当に、それは難しいことだろうけれど。

この番組で私が一番好きなのは、赤い服を着て雑踏を歩く依子さんの姿でした。
笑顔ではないけれど、最高の表情を見れたと感謝しています。
それはもう、「面がまえ」と呼ぶにふさわしい。
この表情が想像力に訴えかけて伝える「洞口依子の復活」もまた、相当に深く感動を呼びます。


2008年11月12日(水) 
TBSテレビ系列にて18:55〜19:54放送


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