『独占!金曜日の告白/洞口依子 子宮頸ガンで深まった夫婦の愛!』(2008)

女性として、自らが罹った子宮頸がんとの闘病と、そこから生まれる夫婦の問題を語ること。

女優として、実像の、仲間内でさえも話すことをためらってしまうような内容を詳らかにすること。

表現者として、表現以外のプライベートな部分で、不特定多数に何事かを訴えること。

そしてこれらすべて。
つまり洞口依子という、女性の謎と面妖さを表現することに秀でた女の俳優にとって、
この1年は、あまりにもリスクの大きいことの連続だったように思います。

正直、疲れたでしょう。
すこし、休止を置いても、誰も文句は言わないでしょう。
でも彼女は、またこうして、より身近な目線と語り口で、生身の肉体と心に起きた出来事を
明らかにしようとする。

入退院時のVTR、そしてオフショットの写真など、これまでも、昨年末の『とくダネ!』などで、
こうした資料は用いられていましたが、今回は子宮頸がんという病気についての説明だけではなく、
再現ドラマも含めて、パートナーが致命的な危機に陥ったときの夫婦のありかたに焦点が当てられています。

ことに夫の視点。
(『子宮会議』に多くを拠っている)再現ドラマでも登場する、「男にはわからないんだよ!」という悲痛な叫び。
これを浴びてしまった男は、いったいどうやってパートナーの女性に向かえばいいのか。
自分との間に築かれた壁を、どうやって乗り越えればいいのか。
それは決定的な壁なのか。
それとも、まだなにか方法があるのか。でも、どうやって笑えば。どうやって気持ちを伝えれば。

そして、途方にくれるのは夫だけではありません。
そんな夫の気持ちを、どうやって受け止めればいいのか。受け止めようとしていることを、どう伝えればいいのか。
さらにまた、夫は、そんな彼女の気持ちをどうやって・・・
どうやって、の堂々巡りです。

何度も何度も自分から糸を切って「いなくなろう」とする妻の、最後の最後の細い糸を、
どうにか握りしめて、それだけは絶対に離さない夫の姿は、なんなんだろうか。

それは、彼女のために彼女を離さないのではなく、彼女がいなくなってしまえば、
自分がダメになってしまうことをよくわかっているから、必死の思いですがりついたんじゃないか。
それは彼女への優しさであるとともに、自分にとっての最良の選択が彼女であって、
つまり自分自身への最高の優しさが、彼女への優しさなのではないか。

本当に、切羽詰った、見栄も損得も効かなくなった瀬戸際で、
自分にも、自分以外の誰かにも、同じように、同じ目線の高さで、同じ思いで手を差し伸べることができたから、
彼は彼女を失わなかったのではないか、などということを考えました。

人間と人間の、崖っぷちでの、生きるか死ぬかの突破行に似ているように思います。
だから、「夫は戦友のようなもの」という言葉には、
女の苦しみを分かち合うことはできないけれど、自分と一緒に砲弾の雨あられをくぐり抜けたブラザー、
魂の兄弟、という思いがこめられていて、私は胸が熱くなりました。

それにしても、の「夫婦とは」。
このテーマについて、私は放っておくと、とても虚無的なことを考えてしまいそうになります。
だから、あまり触れたくないのだけど、これは見て考えて楽しかったな。
たぶん、パートナーを語る依子さんの、どこかくだけた、明瞭な美しさが、身近に手が届きそうな、
親近感を持たせることもあるでしょう。
このくらい綺麗になれるんだから、大丈夫、希望持ってと、言葉にはせずとも語っているようで、
どこか微笑ましいです。


2008年2月29日 フジテレビ系列
19:00〜19:57 放映

(「子宮会議 私の議事録」コーナーにも、「★13 『独占!金曜日の告白』を見て」を書きました。)

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