水というメディア
(2008年9月15日 月曜日、α-STATION Holiday Special「SOUND TRIP〜水のある風景〜」出演)

パイティティの石田画伯と洞口依子さんが、
「ネイチャー・サウンド・アーティスト」のジョー奥田さんをゲストに迎えて、
初のDJに挑戦したα-STATION (FM京都)のスペシャル番組です。

ジョーさんが自然の中で録音してきたさまざまな水の音をバックにしての、
おしゃべりと、パイティティ2人の生演奏とのセッションの1時間でした。

ちなみに、この日の京都はくもり時々雨。
アラスカで冷蔵庫を売る話じゃないけど、そんな天気の午後にラジオから水の音。
ところが、これがよかったんですね!
開巻から川のせせらぐ音が聞こえてきて、実際に窓の外に見える雨から、
想像の渓流の源へ向けて、すうっと心が遡行していくんです。水ってすごい。
そこに依子さんの声で「なんか気持ちいいねぇ〜」
そして画伯の「聞いてるだけで涼しくなるね」
画伯が妙に声をひそめた調子なのが耳に残ります。
とくにPaititiのスペルを「ピーエイアイティーアイティーアイ」と囁くようにつぶやくところ、
そこだけ「ねむりねずみ」のリミックスにでもサンプリングしたい(笑)

貴船神社の納涼床の話題をさらりとはさんで、「パイティティ・エアラインズのテーマ」。
FMで聞くと、ベースの動きがくっきりしていてカッコいい!
それにしてもこの曲は、どんな忙しいさなかに聞いても、日曜の午後の気分にさせてくれますね。
思わず手をとめて体を揺すっちゃいます。

曲が終わると、さきほどより緩めの水の音。
ジョー奥田さんが登場されて、この音についてお話されました。これがおもしろいんです。
屋久島のウィルソン株(→http://www.mapple.net/spots/G04600007001.htm)という切り株があって、
中が8〜10畳ぶんの空洞になっているんだそうです。
その中に水が湧いていて、祠が祀ってあるらしいんですが、その水の音です。

画伯が、子供の頃から虫取りかごのかわりに録音機を提げて音を採取していた、と告白。
「もう、ジョーさん、先生(とお呼びしたい)ですよ」

次の水の音は波。
水にちなむ想像の風景が変わっていくのを、依子さんが「プチ北斎みたい」と表現。
波の音にちなんで、パイティティに縁のある沖縄の話。
また、パイティティは劇場でライヴをやると映える、なぜだろう?と画伯。
「それは、わたしが女優だからですよ」
「あ、そっか!いま気がついた」
「えぇっ!」
(どうですか、みなさん。パイレコでのやり取りは、日常からそんなに離れていないでしょう?)
依子さんが、「スクリーンの緞帳の前というのが、不思議な感じがある。
慰問楽団みたいな感じ」
たしかに、ラジオ・デイズっぽいところが似合いますね。

この夏、沖縄の離島で映画を撮っていた依子さんが、
あまりの暑さに海が温水のようだったことを話します。
そして、リーフのあたりでは、波の音がちがって聞こえるという話。

ここで曲は「チャチャチャ島」。
これもベースがくっきり浮かぶのと、口琴がとてもよく響いて聞こえます。

続いて屋久島の森の明けがたの音。空がこれからうっすら明けてゆく時間帯だそうです。
鳥の音と水の音など、私たちの日常からもそんなに離れていない音です。
朝って、そういうものなのですかね。 生きものにとっての一日の始まりというのは。
この音から、朝という時間について、いろいろ思いがめぐります。
この音は「バイノーラル方式」という録音方法でとられたものだそうで、
これは、私はルー・リードのアルバムでしか体験したことがないんですが、
「人形の両耳にマイクを設置して、人間が聞こえるように録音する」
というような解説をおぼえています。
実際に360度、音に囲まれたような臨場感が味わえます。

さらに今度は奄美大島の森の音で、コノハズクやカエルの声が木々のあいまに響くさまは、
自然がコーラスに興じているかのようです。
このあとにかかった曲が、奥田さんのユニットThe Nature Sound Orchestra「雪どけ」。
水の音とピアノとサックスで本当に音楽が生まれるのが驚きです。

そして次は午前4時ぐらいの屋久島の森の中。
夜から朝に変わるグラデーションの時間帯がいちばん好き、と奥田さん。
森の生きものたちが、一日の始まりのあいさつを交わしているようなサウンド。
非常に単純な疑問ですが、こういう音のフィールド・レコーディングは、
だいたいどのくらい時間をかけるものなんでしょう。それを聞きたかった。

このあと、なんとジョーさんの音とパイティティの2人によるセッション。
「ウクレレ・ランデヴー」です。
ボサノヴァっぽいリズムの画伯のリズムと、CD以上に語りかけるような依子さんの歌。
その向こうに寄せては返す波の音があって、今まで聞いたことのなかったこの曲の表情が見えてビックリ。
依子さんはブラジルの夜明けの浜辺で歌っているようだった、との感想。

続くは、ジョーさんが「もっとも好きな場所」という奄美大島の森。
夜の森で録音するとき、昼間以上に警戒している生物たちを刺激しないよう、
呼吸も浅くゆっくりとするように気をつけるんだそうです。
そうやって自分の存在を消して、森の木の一部になったような心で向き合うことが秘訣だとか。
緊張しているときの生きものは、警戒の声を出したりして、録音された音にも反映されてしまう。
いやぁ、そんなお話、なかなか聞けないですね。

ジョー奥田さんのユニットThe Nature Sound Orchestraのお話。
ミュージシャンが、自然音を聞いて、それにインスパイアされる形で音楽を創っていくそうです。
ここで彼らの曲「Our Song」。「彼ら」というのは、波の音も指します。

依子さんが「画伯は、水からイメージするものって、あります?」と質問。
画伯の答えは、「洗面器などでもいいから、水に映した自画像などを描いてみたい。
水は絵の具に溶かしたりして、触発されるような、そんなメディアですね」というもの。
冴えてます。

依子さんは「水を表現した彫刻を見たとき、
形にならないものを作り手のイメージとして作品で体験して感動した」

ジョー奥田さんは、「水は神様がつくったもの。こうして聞いてもわかるように、音もこんなに美しい」

この日の番組が、まさにそうでしたね。
水はメディアなんだ。 画伯、今回も、ひとことを頂戴しました。


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