Femme Fatale (Velvet Underground)/「宿命の女」(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)

ほら彼女のお出まし
あなた、転ばないように気をつけなさいよ
あの子にかかわると、心をまっぷたつにされるから ホントよ

わかりきったこと
あの子の目、色の入った瞳をのぞいたが最後
あなたをその気にさせといて突き落とす バカみたいにね

みんな知ってるあの女の子 (彼女は宿命の女)
気の向くことしかやらない彼女 (彼女は宿命の女)
思わせぶりなあの彼女 (彼女は宿命の女)
あんなふうに歩いて
あんなふうにしゃべる

あの子のノートに、あなたのことが書いてある
あなたは数字の37だって ご覧なさいよ
あの子が微笑むと、あなたが顔をしかめるハメになる バカみたい

ストリートに生きてる女の子
最初っから、あなたに勝ち目なんてない
もてあそんで楽しむだけ あたりまえじゃない

みんな知ってるあの女の子 (彼女は宿命の女)
気の向くことしかやらない彼女 (彼女は宿命の女)
思わせぶりなあの彼女 (彼女は宿命の女)
あんなふうに歩いて
あんなふうにしゃべる
(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「宿命の女」)

2007年夏の洞口依子テーマ・ソングがサザン「真夏の果実」なら、秋はこれ、「宿命の女」。
オリジナルはヴェルヴェット・アンダーグラウンド。

このバンドのことは前にも書きましたが、60年代のニューヨークで、美術とか映画とか音楽とかの、
前衛にいる人たちがクロスしたところで産声をあげた集団です。
彼らのレコードは当時ほとんど売れなかったけど、聴いた人は全員バンドを始めた、とよく言われています。
こんなの確かめようもないことですけど、美しい話です。

「ファム・ファタール」は、たぶん「魔性の女」という言葉のほうが意味は通りやすいでしょうが、
「魔性の女」って、芸能ゴシップで安っぽく使われすぎてて、品がないですよね。

この歌の語り手は女ですけど、作ったのは男です。
で、歌うのは女。それも、彼女こそが「宿命の女」、ドイツ人のクール・ビューティ。

ビートルズの「ガール」、ストーンズの「ルビー・チューズデイ」にもかなり小悪魔的な女の子が描かれますが、
どっちも男が相手の女の子をいいようにロマン化してます。
この歌にもそういうところはあるんだけど、もっとねじれた構造を持っている。
宿命の女について男が作った歌を、宿命の女がうたうわけです。「あの子はあぶないよ」と。
聞きようによっては、倒錯したナルシシズムにも受け取れるし、事実そこをねらっている。
悪い女に描かれるロマンが、冷却されて、氷になっているのです。その結晶が、静的で美しい。

これは、距離についてうたった歌です。
彼女とあなた、あなたと私、私と彼女、そして、私と私。
ぜんぶに距離があって、それを見つめている歌です。
60年代の音楽に多く見られる連帯への熱い思いからも浮いています。

洞口依子さんには『私は悪女? 』というズバリなタイトルのドラマがあります。
この宣伝もかねて、『紳助の人間マンダラ 』というヴァラエティに出演されたことがあるんです。
このとき、紳助から「悪そうな女やなぁ!」「このドラマって、あなたのドキュメンタリー?」などとつっこまれ、
依子さんは「ちがうもん!」「私は本当は善いモンなんですよ!」と笑って打ち消していました。

だけど、どのくらい本人の本意や事実に反しているのかは私にはわかりませんが、
「悪い女のイメージ」というのが、依子さんにとって、少なくとも重要なキーワードのひとつであることにちがいはない。

店員さんに、「この服はお客様には似合って当然だと思うので、ちょっと冒険されては?」と言われることあるでしょう。
依子さんにとっての「宿命の女」は、その「似合って当然」の服。
ただ、それは「悪い女のイメージ」のせいだけではない。

距離のせいです。
洞口依子という女優さんが、そのたたずまいに、演技に必ず表現してしまう、人との距離。
その距離感が、この歌が内に含んでいる距離のイメージと、あまりにピッタリと重なった。
つまり、彼女は歌に描かれる「宿命の女」の役にもふさわしく、また語り手である「宿命の女」の資格も持っているのです。
この歌をうたう難しさは、じつはその「語り手」を演じれるかどうか、「she」という言葉を表現できるかにあると思うのだけど、
洞口依子という女優さんにはそれができてしまえるわけです。
だから、これは女優・洞口依子の作品になった。

そして、この日の「宿命の女」には、とても熱い男気のあるサックス・ソロと、
吹き出してしまうくらいユーモラスで温かい男性コーラスがついていました。これがよかった。
とくに、パイティティの男性陣というのは、見た目がホントに野郎ばっかりです。
この野郎どもが、ムード歌謡のグループばりに体を左右に揺すりながら「しーざふぁむふぁーたーっ」と
お世辞にも洗練されているとは言えない声を張り上げてコーラスをとる姿が、とてもよかった。

それはまるで、あらゆる意味で「宿命の女」を演じることを運命付けられてしまった女の子に、
それでいいんだよ、そのままでいいんだよと、それがおまえのいちばんいいところなんだよと、
手をとってあたたかく包み込んでいるかのようでした。


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