『デビルマン』(2004)

私が洞口依子さんのご結婚のニュースを知ったのは、もうずっと後になってからでした。
もはや私も好きな女優さんの結婚くらいで一喜一憂はしなかったけれども、意外に思ったのは確かです。
あまり、結婚という言葉とむすびつきにくい印象があったので。

だいたい、映画で依子さんが演じた役柄で、家庭の主婦というのが、思い当たりません。
結婚どころか、生活という言葉さえも超越しているようなところが多分にあります。
必然、夫役にどういう俳優さんがいたかというのも、ちょっと出てこない。
独身の役が多いですし。

ドラマになるとむしろ妻の役は多いのかな。
ただ、夫婦関係に緊張感がある設定なんですよね、いつも。
なんて平凡な幸福から遠いイメージの人なんだ!
2時間サスペンスで依子さんの旦那さんを演じる俳優さんも、クセがあるというか、何事か企んでそうな雰囲気の人ばっかり。
その中では、この『デビルマン』での小倉一郎さんというのは、意外な面白さのある組み合わせです。

そもそも小倉一郎さんという役者さんを、私はそれこそもの心ついた時分から拝見しているのだけど、
押しの強い男の役、巨悪を牛耳る役を演じられているのを見たことがありません。その点、依子さんとは正反対であるように思えます。
そのぶん、小倉さんと組むと、どんなアクの強い女優さんでも「妻」の絵柄にすんなりハマるんじゃないでしょうか。
言い方を変えると、個性の際立った女優さんが小倉さんと「夫婦」役で並ぶと、「あ、こういう夫婦っているよな」と思えてしまう、
そんな、なんて言うんだろ、「中和」じゃないな、「緩衝」(!)して日常の風景に溶け込ませてくれる存在。

『デビルマン』で依子さんが登場するのは、始まって45分ほどたった、中間部のエピソードです。出番は数分くらい。
デーモンが人間の体を乗っ取って異常な事件が次々に起き始めた前半の流れにもあります。

渋谷飛鳥ちゃん演じるいじめられっ子の女子高生ミーコが、団地の谷間にあるブランコでススムくんという小学生と出会う。
ススム役は、ドラマ『私はやってない!』や、ずっと後になって『パンドラの匣』でも依子さんと母子役で共演することになる染谷将太くん。
この公園の風景、なんとなくですけど、昔むかしの『M』というフリッツ・ラング監督のドイツ映画に出てきそう。
あれも最後は群衆が魔女狩りに近いような盛り上がりになっていくので、ついそういう想像をしてしまいます。
ススムくんは母親に虐待されていて、家に帰りたくありません。
「最近、お母さん、変なんだ」と、キーコキーコ、ブランコをこいでいる。
カメラが切り替わると、正面奥の階段から降りてくるお母さん。これが依子さんです。ススムくんの顔色がこわばる。
「ススム、ご飯よ。おうちにかえりましょう」やわらかい笑みを浮かべて近づいてきます。

このシークエンス、かなり凝ったアングルと構図で押してます。
団地の建物を仰いだショットとブランコの外枠が、三角形を強調し、ピラミッドの底にいるような圧迫感を与える。

「帰りたくない」とススムくん。
「どうして?パパも帰ってるのよ」依子さんは顔に貼り付いたかのような笑みを崩しません。
「ホント?じゃ、帰るよ!」
と、ここで画面左から右を、ほんのわずかですが、依子さんが笑顔のままでゆっくりと揺れるように移動します。
ここが素敵!この魔性の漂うかすかな笑み、どうやったらこんな表情が出せるのでしょう。
こわくって、惚れちゃいますね。このショットの依子さんの表情はじつにイイです。

で、家に帰ると、お父さんが新聞を広げて座っているわけです。これが小倉一郎さん。
さっきまで依子さんが醸しだしていた非日常感を、一瞬にしてやわらげてしまう強力な緩衝力がここで作用します。
同時に、夫=小倉一郎、妻=洞口依子、というこの絵柄に「こういう夫婦って、いるよなぁ」と意外にも磐石ぶりを感じながら、
前のシーンで依子さんが見せた仮面のような微笑が後を引いていて、空気が不穏にかき乱されだします。

このあと、小倉さんの○○がxxになって、依子さんが△△を□□するという特殊メイクアップがあり、
虫のしらせでミーコが駆けつけるシーンにつながりますけど、なぜかアクションに到らずに場面は終了します。
でもどうせ尻切れにするなら、いっそ特殊メイクもナシにしてですね、不穏な空気が盛り上がったまま終了、
ってな中途半端でイラつく切り上げても面白かったんじゃないでしょうか。
そのくらい、小倉さんと依子さんが一緒にいるという、落ち着いたような落ち着かないような空気は異色で面白いんですよ。

台所に立った依子さんの手元、まな板の上でグチャグチャに砕かれる肉の塊りがチラリと映りますが、
これはやっぱり『CUREキュア』ファンへのサービス・カットなんでしょうかね。

(デビルマンのことも一言くらい触れとかないと。
 ワタシ、誤解してたんですけど、これって、コミックが原作でアニメがそのあとに作られたんじゃないんですね。
 基本的なキャラクターを共通項に、コミックとアニメでべつの作風のストーリーを同時進行させてたらしいです。
 むしろ、アニメが先行していて、コミックは独自であぁいう世界になっていったのだとか。

 今日もどこかで洞口日和。)


製作=「デビルマン」製作委員会 配給=東映
2004年10月9日
116分 カラー ワイド
那須博之 監督
永井豪 原作
那須真知子 脚本

なお、『子宮会議』p21〜23に、この映画の撮影時に触れた段があります。

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