〜洞口依子 出演作品解説〜

『妻たちの戦争』(2000年)


平凡な家庭を営む主婦・佳子(田中好子)の夫が、人事考課をめぐるいさかいに巻き込まれて変死。
彼女の元後輩で現在は夫の上司夫人・世津子(増田恵子)とその取り巻きの主婦たちとの軋轢、
さらには死んだ夫の愛人・理香(洞口依子)の出現に苦悩するサスペンス。

主婦ふたりの陰湿で激しいバトルを期待すると、やや肩すかし気味かもしれない。
むしろ、夫の葬儀に参列するなどして周囲の眉をひそめさせる愛人・理香の行動から、
主人公・佳子が意外な真犯人にたどりつく展開が興味を惹く。

依子さん演じる理香の最初の大きな出番は、不倫の相手であった佳子(スーちゃん)の夫の葬儀。
そんな場に堂々と現れるのだから相当な心臓の持ち主かと思いきや、決してしゃあしゃあとは見えない。
表情は堅く意志の強さはうかがえるが、何かを秘し、耐えているのが伝わってくる。
佳子(スーちゃん)も世津子(ケイちゃん)も度肝を抜かれ、その他の主婦連は参列者席で陰口をたたき、
喪主である佳子が恥をかいた格好になる。

コミュニティーの外からやってきた異質な人物を演じる時の洞口依子さんが私は大好きなのだが、
ここでは主婦連から疎外された佳子という主人公がいて、その敵として彼女の存在があるわけで、
異質さや余所者感は二重にふくらむ。

また、この理香という女性には、佳子を含む女性キャラクターとは決定的に異なる点がある。
彼女はPCの操作に長けた人物なのである。
佳子も世津子もまだメールの扱いかたすら知らないときに、理香という役はMOディスク(!)を楽々と使いこなし、
会社の重要データの処理を任されている(1997年の『
唄を忘れたカナリアは』での彼女を連想させる)。
当時(2000年)は、こうした設定が日常生活の向こう側にあって次第に忍び寄る脅威のイメージにもなり得た時期だったのだろう。

いっぽうで、依子さんの寂しげでありながら毅然とした佇まいには、アウトサイダーであることの孤高の美学がある。
村八分状態にあった主婦の佳子が理香と和解し、彼女の握る鍵をもとに以降の謎解きを進めるのも、
コミュニティーをはずれた者としてこの孤高に共振するものがあったからではないか、
などと喪服の人々の中をすれ違う依子さんの姿から感じ取る。
そんな主人公との距離の遠近感が、洞口依子ファンにとっての楽しみではないだろうか。


妻たちの戦争』 
2000年7月11日 21:00〜22:54
日本テレビ系『火曜サスペンス劇場』にて放映

脚本 石松 愛弘
演出 木下  亮




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洞口日和