『トリハダ2 夜ふかしのあなたにゾクッとする話を 「ネック」』(2007)

少し緩んだ腕の縄をほどいて目隠しを取ると、パイプ椅子に立たされ、
首にロープをかけられた自分がいる。
ロープにはロックがかかっていて、はずれそうにない。
同じ様子の男女がさらに目の前にあと3人。
合計4人(佐津川愛美、 金井勇太 、音尾琢真 、洞口依子)が、殺風景な倉庫様の室内で、
絞首寸前の状態にさらされている。
日常生活から突然拉致されてここに吊るされたらしいが、お互いに顔も知らない。
と思いきや、いちばん年長の女が、意外なことを口にする。
ストーリー上にドンデン返しと引っ掛けがあるので、ここまでにしましょう。

私はこの収録を見学させていただき(そのときの模様は
こちら)、
依子さんの演技するところを目の当たりにできるというチャンスに恵まれました。
ですが、そのとき見ていた光景と完成されたこの作品はまるで別物と言っていいです。
身もふたもない言い方をすると、あのとき目の前で吊るされていた実物より、
こっちのほうがずっとずっと魅力があります。
それは、依子さんだけではありません。ほかの役者さんたちもそう。
もちろん、悪い意味ではなく、俳優という存在が、カメラの中に入り込み、
虚構の世界の空気を呼吸していかに輝くか、ということ。
とくにこの作品、人物の顔を接写した切り替えしが多く、俳優の表情のニュアンスに多くを負っています。

洞口依子さん演じる女は、ほとんど感情の起伏を見せることはありません。
他の3人が望み薄い生への執着に目を見開き、大声をあげて脱出しようともがくなか、一人だけそれを否定する。
なにも試みようとはしないし、幽鬼のようにぼんやりとした低温で突き放す。
これにはストーリー上の理由があるのですが、洞口依子さんが演じると、その枠から離れて、
冷たく乾いた斧のような凄みがこもります。

不思議です。本当に不思議な女優だと思う。
ここでも、彼女の役柄は、同情や感傷を吸い込むだけの余地が充分にある設定のはずなのに、
洞口依子という女優の個性は、見る人の感情をそっちへ簡単に逃してはくれない。
いつも、正と邪、善と悪、光と影、どっちにも分化されずに混ざり合った後味がある。
だから、見ようによっては、なにかとても救いのない印象を受けることもあるのだけど、
そういう世界の渦の中にいるときの彼女はあまりにも美しく、そんな姿をもっと見ていたくなる。

このドラマではとくに終盤、パソコンのモニターに映し出された彼女の(やはり)顔のアップが秀逸です。
ここでも感情を押し殺した語りで物語の最重要部分を話す依子さんの表情を見ていると、
TV画面の中のパソコン画面に、ストーリーの中の真相に、つまり壁を隔てるほどに、
彼女のいちばんゾクリとするようなリアルな魅力はとらえられるのかも、などと逆説的なことをつらつら考えてしまいます。
そうでもしないと、最後のあの微笑みの寸止めの持つ魔力は説明がつかない。
なぜ、あんなところで笑みを凍らせることができるのか。凍った微笑みはどこへ行くのか。


2007年9月28日1:35〜2:35にフジテレビにて放送。
山名宏和 脚本
三木康一郎 演出

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