〜洞口依子 出演作品解説〜

『おみやさん シーズン8
第1話「母から娘へ・・・京都、愛と死のメロディー!祇園の悪女が隠す過去!!』(2011年)

第8シーズンとなる『おみやさん』第1話は、高校生の娘・彩音(荒井萌)、その別れた実母のバイオリニスト(筒井真理子)、
そして後妻に入った継母(洞口依子)の物語。

実母が何者かに殴られたことから、3年前に起きて彩音の父が犠牲となった未解決の放火致死事件がふたたび浮上する。
継母・佐知子は放火事件の犯人との噂を立てられており、思春期の彩音もそれを聞いて以来、佐知子に反発を示す。
さらに2人の母が隠れてただならぬ相談をしあっているのを垣間見たことから、少女の母に対する不信に混乱が加わり、
それに正面から向き合えない母たちの事情と心情がミステリーでありペーソスにもなっている。

2010年の『激恋』で、離婚問題に苦しむ母と自らも悩みながら健気に母を励ます娘を演じた洞口依子さんと荒井萌さん。
1年後の今回の共演は『ステラ・ダラス』の昔からある「母もの」だが、私が期待した以上の佳さだった。
2人がそろって映る姿がいい。どういいかと言うと、違和感や相容れない距離感が淡く醸しだされていい。
『激恋』でも、荒れる母親とそれを茫然と見守る娘がよかったが、今回はひと呼吸引いて言葉を飲み込んだやりとりの良さ。
娘の示す嫌悪感と、不器用にそれを返すしかない母の思い、どちらも探るような間合いがあって、どちらの側にもシンと響く。
縁側でのシーンなど、2人が並ぶことで化学反応のようなものが窺えて、さらなる共演の機会を期待してしまう。

佐知子役はぞんざいで無愛想な人物に見えるが、火事の場面、バーで接客をする場面、後妻に入った当初の場面、
料理の場面、そのすべてで依子さんは異なる印象を与える。じつは1時間弱のあいだにいろいろな表情を見せているのだ。
それらの時点での佐知子を見せて、なおかつ、現在の彼女はふてぶてしさで見せる。
そしてラスト。これはわかっちゃいるのだが泣かされる。
その前振りが前半にある。その時の依子さんが、芸術家である実母と対照的にデリカシーに欠いた振る舞いで、
そこに微かにおぼえた物哀しさが1時間越しに効いた。


『おみやさん シーズン8
第1話 母から娘へ・・・京都、愛と死のメロディー!祇園の悪女が隠す過去!!』
 2011年4月28日(木)
20:00〜20:54 テレビ朝日系にて放送

塩田千種 脚本
吉田啓一郎 監督



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洞口日和