『救命救急センター(2)』(2001)

洞口依子さんがお医者さんだったようなイメージがあったのだけど、
なにかと混同していました。 なにと混同していたんだろう? 
というより、お医者さん役を何度演じたんだろう? という自問のほうが、
洞口依子ファンサイトとしては建設的かもしれませんね。

と、さりげなくこのサイトの性格をことわっておくのは、このドラマがとても面白く見ごたえがあり、
きっといろいろなかたが検索でやって来られると思うからなんです。
ですから、もしそういうことを考慮しなかった場合、この文章は以下のように始まります。

ラストで依子さんが着ているセーター、『素顔が一番!』で着ていたものと雰囲気が似ていたけど、
見比べたらちがいましたよ。
この作品は、依子さんの素晴らしいアップの表情がいっぱい詰まっていて、
とくにこのラスト、病院の待合室でのクライマックスは、眉間に皺を寄せて思いつめた顔から、
慟哭して泣き崩れるところ、そしてそのあとで多岐川裕美さんと心通わせるまで、美しいですね。

物語の中盤で、警察の質問を受けるシーンでの、陽光を取り込んだ場面での依子さんも綺麗なんですが、
コンプレックスや疚(やま)しさでどんどん表情が曇っていって、
それがときおり子供のような無垢さに映ったりもするこのラストが一番好きです。
いったいこの人は何歳なんだろう?と、知っていても今一度不思議がってみたくなります。

また、パン屋さんの厨房で働いているときの白い調理着とコック帽に身を包んだ姿。
たぶんこの調理着を、私は医者役と間違えておぼえていたのでしょう。
これは個人的なイマジネーションの世界ですけど、この調理着は、依子さんの役に、
ナースとまではいかずとも、潔白感を与えているように思えるのです。

ところで、このドラマは、現在になって洞口依子ファンとして見返すと、
さまざまな思いが去来して、冷静に見るのはむずかしいです。
(以下、ネタバレご注意!)

多岐川裕美さん演ずる獣医・理子が、首を絞められたうえに筋弛緩剤を打たれてICUに運び込まれます。
彼女を見舞う友人・瑞穂が依子さん。 彼女は、理子先生の(2回目の)離婚の原因にもなった女性です。
ふたりの友情は冷めてしまった。 
意識不明の理子を見舞う瑞穂には、登場時から、なにかに怯えているような翳があります。

意外な事実が発覚します。 理子は肝臓のガンが転移進行している状態で、抗がん剤投与も受けていた。
プライドが高く、独力で動物病院を開業させた彼女は、夫を奪ったかつての親友に相談できない。
それでつい、別れた元夫のほかに打ちあける相手もおらず、すべてを聞いた彼は力になると約束する。
理子の状況を知らない瑞穂は、それを彼の裏切りとしか思えない。
そんなふうに、ガンと闘う人物とその近くにいる人たちの葛藤がドラマの骨子となっているのが特徴なんです。

理子が瑞穂に相談できなかったのは、プライドだけからではなかった。
他人を押しのけて地位を固めてきた理子には、瑞穂の優しさが妬ましかったんですね。
もし打ちあけていれば、瑞穂はきっと自分を気遣おうとするだろう。 それを思うと我慢ならない。
多岐川裕美さんは、頭を負傷している設定のため、いつもの美しい御髪を包帯ネットなどで見せないんですが、
それがまるで尼僧のようなストイックさを感じさせたりします。
そんな彼女が、それでもまだ人間関係やコンプレックスに拘泥して葛藤するさまが胸を打ちます。

そして、そんな彼女の心の域にまで思いが届かず、身近な次元でまた葛藤する瑞穂の人物像もリアルです。
彼女が理子の意識回復におびえ、自分の心の重責に打ちひしがれている姿と、
それに対峙して毅然と病に立ち向かっている理子のいる風景の、こちらでもあちらでもない側に、
私は、がんと向き合ったすえに現在ここにいる洞口依子さんの姿を想像せずにはおれません。

実体験があるからいい演技ができるのか、それがなくとも創造できるのが俳優というものなのか、
役者経験のない私には実感できません。
ただ、体験とはまた別の、あくまで創造するという意味で、表現するという点において、
瑞穂のような人物像が、あるいは理子のような人物像が、これからの依子さんによって演じられるのなら、
それは私は見てみたいです。


2001年3月20日 21:00〜22:54
日本テレビ系 「火曜サスペンス劇場」枠にて放送

油谷誠至 監督
渡辺 善則 脚本    

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